第77話 生徒会


生徒会長の立科孝志さんに安藤葉月さんを次期生徒会長にと言われたが、本人が拒否しているんじゃ無理だと思う。


「生徒会には副会長もいますよね?その方が会長になれば上手くいくんじゃないですか?」


「拓海君、君は何を言ってるんだい。副会長は安藤さんだよ」


「はあ……………」


ため息しか出ない。


「葉月先輩は何で会長になりたくないのですか?その理由は聞きましたか?」


すると、会長は少し困ったような顔をして話し出した。


「安藤君には勿論理由を聞いたよ。その答えは………」


「何て言ったんですか?」


「元気になったお兄さんとイチャイチャしたいしたくさん遊びに出かけたいから忙しい会長は無理!って言われた」


「はあ………」


ブラコンなのは知ってたけど、お兄さんの勇人さん大丈夫か?


「では、他の生徒会役員の方は?生徒会の仕事を理解している人なら好都合ですし、今お仕事してる稲田さんだっていいじゃないですか?」


「私は無理です。外部生なのできっと内部生からの反発がすごいと思います。それに、会長はやりたくありません。激務なので自分の時間が無くなります」


「では、他の役員の方は?」


「拓海君、もうみんなには聞いたんだ。その返事は稲田さん然り、みんなも同じような意見を貰った。役員の意思は固いのだよ!」


そこを誇らなくても良いと思う。


「そうなんですね。わかりました。俺では力になれそうもありませんのでこれで失礼します」


もう、誰でもいいんじゃないかな?

そう思って踵を返すと、


「稲田さん、作戦Bだ」「ラジャー!」


会長がそう言うと稲田さんがドアの前で何故か反復横跳びをし始めた。


『シュバ…シュバ…シュバ…シュバ…』


「………会長、これって」


「どうだ、拓海君。君は運動が苦手なのにも関わらず君を外に出すまいと頑張っている健気な稲田さんを無視してドアを開けれるかい?」


「はあ〜〜はあ〜〜」


稲田さん、息切れしてるし……


「会長、これはパワハラでは?」


「いいや、これは稲田さん自身が考えたアイデアだ。この作戦Bでは予算を上げろと言う部の輩どもも降参するほどの戦闘力があるのだよ」


こんな生徒会は潰れてしまえっ!って言いたい。


「はあ……わかりました。葉月先輩に連絡してみますが、期待はしないで下さいね。強引なのは俺も無理なので」


「うむ、わかった。稲田さん、お疲れ様。君はラスボス級の戦闘力保持者だ。賞賛に値する」


「はあ〜〜はあ〜〜ありがとうございます」


疲れきってるよ。それで良いのかと言いたい。


「じゃあ、夜にでも連絡してみます。本当に期待しないでくださいね」


俺は念を押して生徒会室を出ていくのだった。





「それで会長に付き合わされてたのか?お人好し過ぎると痛い目にあうぞ」


久々に柚子と二人きりで下校している。

渚は、母親の茜さんが仕事で遅くなるらしく夕飯の用意をする為早めに帰ったそうだ。

また、アンジェは友達の森元莉里さんと一緒に帰ったそうだ。最近は二人でカフェやカラオケ、ファーストフード店などに寄って楽しんでいるらしい。


「そうなんだけど、柚子は会長に言われて断れるの?」


「勿論だ。私の意思は誰にも屈しないぞ」


会長だけならね……

あの必死な稲田さんを見てしまうと、思惑があるにしても不憫で首を縦に振らざるを得ない。

きっと柚子も同じだったろう。

恐るべし、作戦B。


「明日もテストか。柚子は終わってるから気が楽だよね?」


「何を言ってるんだ。私だって同じ経験をしたんだ。たくみはあと一日だけだろう?明日を凌げば同じように楽になる」


そうなんだけど、ひとりだけ違う日でテストを受けるのって結構しんどいんだよ。あ、今回はもうひとりいたっけ。


お洒落な店の前を通ると今流行りの音楽が流れている。


「最近、この曲よく聞くよな?」


「ああ、You・Zaの曲だな。今ヒットランキングで1位だそうだ。夏のロックフェスにも出演するらしいぞ」


そう言えば飯塚君達がそんな話をしてたっけ。


「たくみ、この通りは油断するな」


「ああ、わかってる」


この駅前の大通りは車を横付けされたことが何回かある。

店も多いし人通りも多いのだが、車で接近するには好都合な通りだ。


「たくみ、赤いオープンカーが来る」


そう言われて道路を見ると俺達の直ぐそばで止まった。


「Hi.boy。大変だったらしいね」


声をかけてきたのはアメリア国で治療した『ヘルガイド』ことジュディーさんと助手席には黒人のアマンダさんが乗っていた。


柚子はその経緯を知らないので警戒体制に入っている。

そんな柚子に声をかけた人物がいた。


「Hi.柚子。元気じゃったかあああ。会いたかったぞい」


そう言って車から降りて柚子を抱きしめようとする修造爺さんだった。


「は!?お爺ちゃん、何でこいつらと一緒に?」


「柚子は相変わらずめんこいの〜〜う」


抱きつこうとする修造爺さんに蹴りを喰らわす柚子だった。


「ジュディーさんとアマンダさん、何でここに?」


車から降りてきた二人は、俺に抱きついてきた。

二人の圧力で潰されそうだ。


『ジュディーは元気になったよ、ありがとうタクミ』


アマンダさんに再度感謝された。


『タクミ、私達シュウゾウに連れられて日本で暮らすことになったよ。こっちには、表の仕事がたくさんあるって言われてね。取り敢えず、君の住んでるマンションをシュウゾウの手配で借りたよ。しばらくは、身体を慣らしてからアマンダと二人でお店でもするつもりなんだ』


『そうですか、それは良かった』


『うん、みんなタクミのおかげだよ』


そう言われて頬にキスされた。


修造爺さんは、二人の将来の為にアメリアに残っていろいろ手続きをしたのだろう。やはり、ただのエロ爺さんではないらしい。


「来るな!ここは天下の往来だぞ。お爺ちゃんとはいえ抱きつくんじゃない!」


柚子と修造爺さんとの格闘は未だ決着はみえなかった。





ジュディーさんの車には全員は乗れないので、俺と柚子は普通に電車で帰った。


ジュディーさん達は、同じマンションの10階の空き部屋に住むことになっているそうだ。


二人で暮らしながら、繁華街でバーの店を持つらしい。

その手配は何と修造爺さんのお金から全部出ているそうで、何か愛人契約みたいな感じになってるのか?それは定かではない。


いつも通り家に帰ると坂井さんが出迎えてくれた。

ルミは、清水先生と外食に行くみたいで既に出かけていなかった。

楓さんは、アメリア国に行ってたので溜まった仕事があるらしく、茜さんと一緒で今日遅くなるそうだ。


夕飯を食べながら、今日の出来事を思い出す。


「このマンションも賑やかになったね」


「そうですね。今週末には明日香様も上の階に来られますし、もっと賑やかになりますよ」


夏休みに入って、このマンションで過ごす明日香ちゃんとお母さんの瑞希さんは、信州からここに来る予定だ。


来年度から英明学園の中等部に入学する明日香ちゃんの東京に慣らす為のひと月とも言える。


「そうだね。賑やかになりそうだ。あれ、でも夏休みの前半って伊豆別荘に行くって話じゃなかったっけ?」


「そうだぞ。私達は既に水着を買ったんだ。あ、これ言っちゃ不味かったな。たくみ、聞かなかったことにしてくれ」


柚子は既に水着を買ったらしい。


「わかったよ。俺も買わないとダメだろうな」


「明日香様が来てから一緒に買いに行けばいい。その方が喜ぶと思うぞ」


あの無人島でしたような事はできないだろうけど、良いリフレッシュになりそうだ。


「そうするよ。因みに柚子はどんな水着を買ったんだ?」


「私のは渚とアンジェが選んでくれて、あ、……当日のお楽しみだ」


言わないのは、女同士の約束事でもあるらしい。


「じゃあ、当日楽しみにしておくよ」


「ふん、期待などせんでいい」


そう言いながら真っ赤になって茄子のお浸しを口に含んでいた。


「拓海さん、将道当主様からお言付けがあります」


「何でしょうか?」


「夏休み中に長女の竜宮寺琴香様がイギリス留学から帰国されます。明日香様共々面倒を見てほしいと言っておりました」


生徒会長が推し活している人だ。

俺はまだ会ったことがない。


「俺でよければですけど、どのようなお方なのですか?」


「とても可愛らしいお方ですよ」


外見よりも性格を聞きたかったのだが……

それは会ってからということらしい。


性格の良い人なら良いのだけど……


少し不安に思う俺だった。






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