第74話 反応


『ただいま入ってきたニュースです。ニューヨーク発羽田行きの飛行機が北太平洋沖に落下した模様です。乗員乗客の安否は未だ確認されておりません。情報が入り次第お伝え致します』


「大変。飛行機が落ちたみたいだよ」


夕飯の用意をしていた結城茜は、次女の陽菜の言葉に不安を感じた。


「どの飛行機なの?」


「ニューヨーク発羽田行きの飛行機みたい」


その言葉を聞いて、不安はますます増した。


「楓さんから今日の飛行機に乗るってメッセージが届いてたんだけど、何便とかわかる?」


「え〜〜と、調べてみるね」


陽菜はスマホを取り出してニュース欄を探した。


「NNN会社の123便だって」


『ガシャーン……』


キッチンで茜が持っていた皿を床に落としてしまったようだ。


「お母さん、どうしたの?」


「その飛行機に楓さん達が乗ってるの……」


「えっ……」


茜も陽菜もその場でしばらく固まってしまった。


「た、大変、お姉ちゃんに知らせなきゃ!」


一足早く我に帰った陽菜は姉のいる部屋に駆け寄った。


「お姉ちゃん!大変だよ」


「どうしたの?陽菜。私、テスト勉強があるんだけど」


渚は、慌てている陽菜を見るのはこれが初めてではない。

だから、いつものことだと落ち着いていた。


「楓さんの乗ってた飛行機が落ちたんだって!拓海お兄ちゃんも一緒の飛行機が」


渚はその言葉を聞いて頭が真っ白になり、次第に身体が震え出した。


「え、嘘よね!嘘でしょ。ねえ、陽菜!いつもの冗談でしょ?」


「嘘じゃないよ。こんな嘘言えるわけないじゃんか!」


「ああ…… 」


渚はペンを持ちながら、そのままの状態で小さな悲鳴をあげた。



…………………



『ただいま入ってきたニュースです。ニューヨーク発羽田行きの飛行機が北太平洋沖に落下した模様です。乗員乗客の安否は未だ確認されておりません。情報が入り次第お伝え致します』


テレビの音がリビングに流れている。

受話器を持って立っている一人の婦人が電話相手にもう一度確認していた。


「本当なんですか?拓海さんや楓さんの飛行機が……」


『ああ、間違いない。私も電話を受けて直ぐに君にかけたんだ。まだ、乗員乗客の安否は分かっていない。もし、生きているなら電話が来るはずだ。だから、しばらく待機していてほしい』


「わかりました」


電話を切った坂井は、当主である竜宮寺将道からの電話が夢であってほしいと願っていた。

しかし、皮肉にもテレビからは飛行機が落ちた事を放送しておりそれが夢でない事を如実に物語っていた。


『トントン』


「はーーい」


坂井はコードレス電話を持ちながら霧坂柚子の部屋のドアをノックした。

明日まで期末テストがある事を知っているのできっと勉強しているのだろう。


「柚子さん、お話があります。実は楓さん達が乗っていた飛行機が落ちたそうです。今のところ安否はわかっておりません」


「へ…………っ」


その言葉を聞いた霧坂柚子は、読んでいた参考書を机の上に落としたのだった。



……………



『ただいま入ってきたニュースです。ニューヨーク発羽田行きの飛行機が北太平洋沖に落下した模様です。乗員乗客の安否は未だ確認されておりません。情報が入り次第お伝え致します』


「へーー飛行機落ちたんだあ。たっくん達大丈夫かな?」


アンジェはリビングでお煎餅を食べながらそのニュースを見ていた。


「えっ、飛行機落ちたの?どこに?」


如月蘭子は、アンジェとは対照的にそのニュースに飛びついた。


「ニューヨーク発羽田行きだってさ」


「それって、拓海君達が乗ってるの可能性もあるわけでしょ?」


「う〜〜ん、多分乗っててもたっくんならどうにかしそう。だから

そんなに心配しなくても大丈夫じゃない?」


拓海の能力を知っているアンジェからしたら、落ちた飛行機に拓海が乗っていても生き残っていると確信している。

だが、他の乗客のことはアンジェは考えていなかった。


「そうかもしれないけど、楓さんや護衛について行った人達もいるんでしょ。心配だわ」


「そうだったね。私たっくんのことしか考えてなかったよ」


その言葉を聞いて蘭子は一瞬顔をしかめた。


「仕方ないわよ。その内アンジェも周りのことがわかるようになるから」


蘭子はそんなアンジェを心配していた。

他人に興味を持たないアンジェが、拓海くんと一緒にいる事によって少しずつ変わって来ている。だけど、拓海君ファーストなのは変わりがない。


「うん、そうなったらいいな。それで今日の夕飯は何?」


「メインは酢豚よ。今日は中華にしてみました」


「やったーー」


飛行機が落ちてその中に拓海が乗ってるかもしれないのに、夕飯の事を聞いてきたアンジェを蘭子は悲しそうな眼で見つめていたのだった。





「ここどこだよ……」


フローリを治療して、飛行機で帰る途中、

ハワイ諸島を過ぎた辺りで左側のエンジンが爆発して飛行機は急落下を始めた。


200名近くの人が乗っているので転移を試そうとしたが無理だった。

となると飛行機を支えて安定させるしかない。


アンジェの能力を使って姿を消して飛行機の外に出る。

落下している飛行機を風力能力を使ってどうにか減速させたのはいいが、支えて飛ぶのは無理そうだった。


だから浮遊能力をふんだんに使い風力操作で水平に安定させてハワイ近郊付近の海に着陸させたのだったが、能力の使い過ぎで意識が飛んでしまい

目が覚めた場所がこの浜辺だった。


ハワイ近海には132もの大小の島があるらしいと、楓さんから聞いたことがある。俺が目覚めた島はとても小さく海はスカイブルーで浜辺の砂浜白かった。


「みんな大丈夫だったかな?」


飛行機の左翼は壊れてしまっていたが、そんなにショックを与えずに着水できたはずだ。


怪我人は出ているだろうが死人はいないと思いたい。


「そうだ。スマホは……あ、カバンの中だ」


勿論、持って来てはいない。


「楓さん達心配してるだろうなあ。急にいなくなっちゃったようなものだし」


俺一人なら飛ぶこともできるのでここが無人島でもそんなに心配していない。だけど、みんなに理由を説明しずらい


「小さな島だし、少しここにいるか」


待っていれば誰かが来るかもしれない。

観光地だし、観光客も訪れるはずだ。


しかし、あの飛行機のエンジンの爆発は奇妙だ。

まるで人為的に引き起こされたような感じがする。


それにしても口の中が砂と海水で気持ち悪い。口をすすぎたいが海の水ですすぐわけにもいかない。


「俺、水系の能力ないからこんな時不便だよな」


周囲を見渡しても川らしい所はない。

有るのは椰子の木が生えてるぐらいだ。


「そうか、椰子の実なら水分が取れるはず」


浮遊して身体強化を発動して椰子の実を2〜3個もぎ取った。


ナイフや包丁は勿論持ってないので、力任せで椰子の実を割ると、貴重な実が砕け散ってしまった。

 

「あちゃー!これじゃダメだ。石弾で穴を開けるか?いや、多分同じように砕けてしまいそうだ。なら、ラノベで読んだウィンドカッターみたいに風操作能力を使えばできるか?」


まずは、海に向かって撃ってみる。


『シュー』


ダメだ。もっと細く鋭利な刃物のように。


『シュッ!』


多分これくらいで大丈夫かな。

では椰子の実を上部分を狙って『ウィンドカッター』


「おお、出来た。凄い、綺麗に切れた」


実の中に水分がたくさん入っている。

これならしばらく飲み水には困らない。


「うん、ココナッツの味がして上手い」


服もベトついているので脱いでパンツ一丁となる。


「洗濯は諦めるしかないな」


貴重な水を洗濯に使うわけにはいかない。


「さて、今度は食事と寝床を確保するか」


いつでも脱出できるので、久しぶりのひとりの時間を有効に使うのだった。






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