第68話 海外


あれから、恭司さんは大変だった。

詰め寄った樺沢さんに言いたい放題言われて落ち込んでいた。

そして、どういうわけかルミを見た志島さんが異常なほど興奮し、その様子を見た樺沢さんが『同士』と言って仲良くなってしまった。


結局、恭司さんは女子達の蚊帳の外に置かれて、まあ、俺もなのだが、男二人で情けない会話をしながら自宅に戻ったのだ。


昼食はみんなで家で食べることになった。

事前に連絡を入れたので坂井さんが、たくさん作ってくれた。

女子達はみんな喜んで食べていたが、バイト組の3人は仕事があるので不参加だ。


何故かルミは癖のある女子……オタク系女子に人気がある。

志島さんもアニソン大好きだったようで、動画サイトに踊ったり、歌ったりした動画を投稿してた過去があるそうだ。


そんな姦しい女子達が帰った後で、出かけていた楓さんが帰ってきた。

そして、おもむろに俺に告げたのだった。


「当主様からご連絡がありました。治療の依頼なのですがどうしますか?」


敢えて内容を控えている様子だ。

こういう場合は楓さんにとって受けて欲しくない依頼の場合が多い。


「緊急の案件、若しくは断るとまずい案件ですか?」


「はい、両方です」


これは、急ぎの仕事だ。しかも、結構色々思惑が絡んでそうなやつだ。


「治療相手が困ってるなら、俺はやろうと思う」


正直言って面倒なことは多い。

だが、Aー4を始末した今の俺には誰かを治療して自分の正当性を認めがっている。

そんなことで罪悪感が消えるわけはないと知っているのに、どんな時も俺は偽善的で我儘な奴なんだ。


「わかりました。出発は相手の用意ができ次第となります。拓海様の持ち物は私が用意します。拓海様は、個人的に持っていきたい物をバッグに入れといて下さい」


期末テストは無理のようだ。

また、後で受けるんだろうな。


そんな事を考えていると、巫女さんバイト組の3人が帰って来たようだ。

きっと、明日の日曜日も仕事をするのだろうが、期末テスト前にアルバイトして勉強の方は平気なのだろうか?





特別チャーター機は、羽田や成田空港からではなく、横田基地から飛び立った。


米軍人が数十名とこちらのメンバーは、楓さん、恭司さんや春香さんの父親である近藤琢磨さん。それと、霧坂修造爺さん。それに政府から外交官の鍋石貞利さんと岸金冬美さん。総理直轄の特殊部隊から安田実さん、小波蓮也さん、静宮美香さん、桑崎甚太さんの10名が搭乗している。


「こりゃあ、快適な飛行機じゃの。エコノミークラスとは段違いじゃな」


「確かに、だが、爺さんは竜宮寺家のプライベートジェット機に何度も乗ってるだろう?そう驚くことはないだろうに」


修造爺さんと近藤琢磨さんは、何度も一緒に仕事をしてるらしい。

今回は、政治がらみなので竜宮寺家直々に派遣を要請されたようだ。


「恭司さんや柚子がだいぶごねてたね?」


「仕方ありません。今回は学生であるあの二人を連れて行くわけにはいきませんから」


ニューヨークに行くと知って柚子や恭司さんは護衛として一緒一緒についていくと何度も楓さんに言っていた。

だが、

竜宮寺家から直接琢磨さんと修造爺さんに依頼がなされていた為、しぶしぶ引き下がったのだった。


「現地にはどれくらいで着くんだろう?」


「飛行時間は12〜13時間です。あちらの空港からは2時間ほどかかると聞いています」


現在、治療対象者は自宅療養してるらしい。

勿論、そこには医療スタッフが待機している、という話だ。


「まさか、海外とは思わなかったよ」


「ええ、私も当主様からのお話しを聞いて、はじめはお断りしようと思っていたのですが、政治的な問題で断ることができませんでした」


「それに、俺パスポートとか無いんだけど?」


「外務省の方が特別に用意してくれましたよ」


国家権力ってすごい……


「こぞうは、海外は初めてか?」


「はい、拉致された時以外で初めてです」


「あの国は、みんなスタイルがええぞ。みんなボン・キュ・ボボンじゃ」


また、エロ話になってるよ。


「それにみんな肉食ってるから、日本人に比べて胸がボイン・ボインと弾力があるんじゃ。わしの秘剣が久しぶりに発揮できるぞい」


「修造様、お静かにお願いします!」


楓さんの冷たい口調に流石の爺さんも冷や汗をかいている。


「そうじゃな、うん」


楓さん、もしかして最強?


「拓海様、こちらで映画が見れますよ。ヘッドホンはこちらです」


どうやら楓さんは、修造爺さんを牽制したいらしい。


俺もその方が助かるけど。


その後、何本物映画を見て飛行機の中を過ごしたのだった。





飛行機が着いた場所は、一般の空港てはなくニューヨークにある空軍基地だった。


その為、面倒な入国審査などはなくパスポートを確認しただけだった。


特殊部隊の人達は、拳銃を所持してるし一般の空港では問題になっていただろう。


『ミスタータクミ・クラシキ、ようこそ、アメリア民衆国に。君を歓迎する』


そう挨拶してきたのは、大統領補佐官のジョージ・サテライズさんだ。


「こちらこそ、歓迎に感謝します」


お互いに握手を交わして、次に外交官の人達と挨拶を交わしている。


お互い紹介が済むと滑走路に止めてある大型のバスに乗り込んだ。

 

その間特殊部隊の人達は、周囲の警戒を、琢磨さんと修造爺さんは俺と楓さんのすぐ後ろにいた。


この車は、バスを改造したようで豪華な内装となっており応接セットもある。


そこで、外交官の鍋石さんと岸金さんとジョージさんとで話あっている。


俺は楓さんと一緒に後方の座席に腰掛け飛行機での疲れを回復していた。


「はは、長旅は腰にくるわい」


「回復しましょうか?」


「それじゃあ、お言葉に甘えるかのう」


みんな疲れているだろうから、日本人スタッフに向けて能力を発動した。


派手な魔法陣や光ることはないが、みんな楽になったようで驚いた顔をしてる。 


「おお、楽になった。拓海がやってくれたのか?助かるぞ」


琢磨さんも不調部分があったようで感謝された。


「いつも恭司さんにはお世話になってますから」


「あいつは役にたってるのか?迷惑をかけてるとしか思えないが」


まあ、それが恭司さんだからね。


「いいえ、ものすごくお世話になってますよ。良い意味で」


「あははは、腕はそこそこだがあいつは行動がバカだからな。それにしても拓海は規格外だな。将道様が大事にしたがるわけだ、わははは」


琢磨さんは、恭司さんの父親だけあって豪快な人だ。


この親子はよく似てる。


外交官達の話はまだ続いている。

偉い人と話をするだけで肩が凝るのに、外交官の人達は、冗談を交えながら会話している。


きっと、優秀なら人達なのだろうな。


政治は、本当に大変な仕事なのだと改めて思った。





そして、2時間かからずに到着したところは、一面芝生が覆っている中に建っている白亜の豪邸だった。


「広いし綺麗なところだね」


「まるで、ゴルフ場の中のクラブハウス見たいだな。豪華さは断然こちらが上だが」


建物の周りや敷地のあちこちで巡回している警備員がいる。


立ち振る舞いから軍人なのかもしれない。


『ミスタータクミ、お待ちしておりました。こちらです。どうぞ』


中に案内されて広い応接室に着く。

ソファーに促されて弾力のあるソファーに腰掛けた。


「ここも広いね」


「ええ、竜宮寺家も負けてませんけどね」


楓さんは対抗意識があるようだ。

そして、コーヒーを用意してくれて、少しの間、その場で待機していた。


そして、応接室に来たのは40歳ぐらいの夫婦だった。


『ようこそ、アメリヤへ。私は、グリース・マスカットだ。長旅で疲れただろう。ゆっくりすればいい』


『私はグリースの妻のキャロラインよ。ミスタータクミ。娘のフローリアの為にわざわざ日本から来てくれてありがとう。歓迎するわ』


握手だけの挨拶かと思ったら、ハグされた。

こういう挨拶は苦手だ。


その場で少し会話をする。

奥さんのキャロラインさんが現大統領の娘でグリースさんはお婿さんらしい。


そして、今回治療対象のフローリアさんは14才の少女。

ハリケーンの中、楽しみにしていたミュージカルを見に行ってたようだ。


だが途中で公演は中止になり、迎えの車に乗ろうとしてる時に風に飛ばされた大きな看板の下敷きになったらしい。


一命を取り留めたのは車の開いたドアが看板の直撃を防いだようだ。


それからマスカット夫婦に連れられて娘さんが居る部屋に案内された。


『イヤ!誰も入って来ないで!』


マスカット夫婦がノックしたら、そんな返事が部屋の中から聞こえた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る