第54話「学園への入学と戸惑いと新たな出会い」
学園に入学したけど、気の合う友人がいなくて僕は孤立していた。
幼い頃からの友人であるアルド殿下とべナットとはクラスが離れてしまった。
彼らが食事に誘ってくれるから、ランチタイムだけは寂しい思いをしなくて済んだ。
アルド殿下は相変わらず女の子の話しかしないし、べナットは筋肉の話しかしないけど。
二人は僕が魔術の話をすると、面倒くさそうな顔をして話を逸らす。
僕は二人の話を聞いてあげるのに、二人は僕の話を聞いてくれない。
アルド殿下は王族だから取り巻きが多いし、べナットは騎士志望の学生とよくつるんでいる。
僕はクラスメイトともうまくいかず、お昼以外は一人でいることが多くなった。
一人でいても侯爵家の次男で、魔術師団長の息子で、第二王子と騎士団長の息子の友人で、成績優秀な僕に絡んでくるアホな下位貴族はいなかった。
幼い頃、教会で絡んできた下位貴族の子息は、下位貴族の中でも飛び抜けてアホだったのだろう。
幼かったから無知だったことを差し引いても、上位貴族に楯突くのは愚かな行為だ。
そうだ、周りと合わないとは周りの人間が愚かだからだ。
そう思うと、人間関係のストレスから開放され自由になれた気がした。
学園に入学して二ヶ月がすぎる頃には、僕は煩わしい人間関係を避けて、図書室で魔導書を読む時間が増えていた。
「綺麗な装飾の本ね。
これあなたの?」
いつものように図書室で勉強している僕に、彼女はそう言って話しかけてきた。
桃色のふわふわした髪、珊瑚色の大きな瞳、陶磁器のようにきめ細かく白い肌、目鼻立ちの整った顔……。
とびきりの美少女が僕の前の席に座っていて、僕にほほ笑みかけている。
母上や義姉上も美しい人だけど二人の美しさが霞むほど、目の前の少女は整った顔をしていた。
一瞬、天使が空から舞い降りて来たのかと思って声が出せなかった。
「あれ? 聞こえなかったかな?」
彼女の話し方は貴族らしくなかった、平民の子かな?
「い……いや、聞こえてる。
そ、その本は図書室の本だ」
美少女が側にいると思うと緊張して、声が裏返ってしまった。
「ふーん、つまり学園のものってことね。
じゃああたしが触ってもいいんだ」
そう言って彼女は、テーブルの上に積んであった本をペラペラとめくりだした。
「ちょっと……」
学園の本だけど、今は僕が借りてるのに。
それに魔術科以外の生徒が読んだって、本の内容なんかわからないよ。
つまらないって言って突き返されるに決まってる。
「綺麗な挿絵がいっぱいだね」
彼女は魔法陣を指差しながらニコリと笑った。
魔導書を見て、そんな風に言う子は初めてだった。
「それは……挿絵じゃないよ。
魔法陣って言って……魔法の効果を効率を上げるための物だよ。
……その魔法陣の右上に描かれているルーン文字はフレイ神を意味し、呼び方はフェオと言って富や豊かさを……」
僕は説明するのをやめた。
「こんな話されても、つまらないよね?」
今まで僕が魔術の話をしたとき、ちゃんと聞いてくれた人はいない。
話を逸らすか、席を離れるかのどっちかだった。
彼女だってきっと……。
「魔術について詳しいんだね。
すご~い」
彼女はそう言ってふわりとほほ笑んだ。
魔術についての話をして、女の子に褒められたのは初めてだった。
「もっとお話しして。
あたし、あなたの説明を沢山聞きたいな」
彼女は僕の手に自分の手を重ねてきた。
僕の心臓がバクバクと音を立てる。
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