第三章・番外編2
第42話「償いと浄化の旅・1-1」三章・番外編
【三章・番外編】
※転生後のデルミーラのお話です。
※アルファポリスに投稿したとき賛否両論ありました。
※転生後に記憶のない状態で主人公が罰を受ける話が苦手な人は、四章まで飛ばしてください。
――転生一回目――
「デルミーラ!
何をしているの!
早く床を綺麗にしなさい!」
「はい、お義母様」
「デルミーラ!
こっちに来て繕い物をして!」
「デルミーラ!
洗濯物を早く済ませなさい!」
「はい、お義姉様」
「まったく、あなたは返事だけは立派ね。さっさとやらないと日が暮れてしまいますよ!」
「申し訳ありません。お義母様」
わたくしの名はデルミーラ。もうすぐ十五歳になる。
伯爵家の長女として生まれたが、母はわたくしを生んですぐに亡くなり、父はわたくしが十歳のときに再婚しました。
継母には二人の娘がおりました。
わたくしが十一歳のとき、父が亡くなりました。
そして父が亡くなるとすぐに、姉たちに今まで使っていた部屋を奪われ、わたくしの部屋は物置小屋になりました。
それ以来、継母や義理の姉たちに使用人のように扱われています。
「デルミーラ、玉ねぎは嫌いだから入れないでっていったでしょう!」
「申し訳ありません。お義姉様」
「この、役立たず!」
「きゃあっ!」
お義姉様に熱々の紅茶をかけられました。
このとき腕に負った火傷の痕は、消えることはありませんでした。
ある日、父のいとこがやってきて、わたくしと義姉にドレスを買ってくださいました。
わたくしは父が亡くなってから何年も服を買っていなかったので、新しいドレスを買えてとても嬉しかったです。
一番上の姉は青いドレスを、二番目の姉は黄色いドレスを、わたくしは真っ赤なドレスを買っていただきました。
赤はわたくしの好きな色だったので、とても幸福な気分になりました。
しかし、わたくしのドレスを見て、一番上の姉が眉間に眉を寄せ、
「デルミーラのドレスの方が豪華に見えるわ!」
と言いました。
「では、わたくしのドレスと取り替えますか?」
本当は赤が好きなんだけど、義姉にこう言われたら逆らえない。
二番目の義姉かわたくしのドレスをジロジロと見て、
「デルミーラのドレスの方が、私のドレスより着痩せして見えるわ」
こう言いました。
「お義姉様、わたくしのドレスは一枚しかないので……」
一番目の姉とドレスを交換してしまったら、二番目の姉とは交換できない。
「ちょっと!
私が先に目をつけたのよ!
あんたはすっこんでなさい!」
「うるさいわね!
あなたこそいつも長女風を吹かせてうっとうしいのよ!」
二人の義姉がわたくしを間に挟んでケンカを始めました。
「このドレスは私のよ!」
「いいえ! 私のよ!」
一番目の姉と二番目の姉が、わたくしのドレスをつかみそれぞれ別々の方向に引っ張った。
「ふたりとも止めてください!」
わたくしが叫んだ時には、ドレスはビリッ! と大きな音を立てて破けていた。
「あっ……」
何年か振りに買って貰ったドレスは布切れと化して床に落ちていた。
「なんの騒ぎなの! 騒々しい!」
そこに継母が執事を連れて部屋に入ってきた。
「きゃあっ!」
ドレスが破れ、シュミューズや腕が見えてしまっていたわたくしは、その場にうずくまった。
「お母様、妹が私に楯突いたんです!」
「違うわ!
デルミーラのドレスには私が先に目をつけたのに、お姉様が横取りしようとしたのよ!」
二人の姉はお互いに相手のせいにしようと、言い訳を始めた。
「あんたのせいでしょう!」
「いいえ! お姉様のせいだわ!」
一番目の姉と二番目の姉が、睨み合い言い争いを始めた。
そしてそれはすぐにそれは、取っ組み合いの喧嘩へと発展した。
「おやめなさい!」
お互いの頬を引っ張り合いながら、罵り合っている姉たちを継母が止めた。
継母が床に落ちた元私のドレスだった物を拾う。
「良い生地を使っているようね。
これなら布張りのフォーマルハットを飾るリボンに使えそうだわ。
レティキュール(刺繍などが施された小さなハンドバッグ)の素材にも使えそうね。
ボンネット(帽子)やシャポー(帽子)のリボンにも使えそうだわ」
継母は何を言っているの?
「心配しないでふたりとも、リメイクすればあなたたちの帽子やバッグの素材に使えるわ」
「「それは本当ですか? お母様!!」」
義姉たちが声を揃える。
「だから喧嘩はおよしなさい」
「「はーい、お母様」」
「デルミーラ、いつまでもうずくまっていないで床に落ちている布を拾いなさい。
娘たちの帽子とバッグの素材になるのだから、丁寧に扱うのよ」
「お義母様、わたくしのドレスは……?」
数年振りに買って貰えたドレスなのに……。
「あなたにはお父様が死ぬ前に買い与えたドレスがあるでしょう?
それを大切に着なさい」
「はい、お義母様……」
お父様に買って頂いたドレスの中で、上等な物は父の死後、義妹に全て奪われてしまった。
それに十一歳のときに買って貰ったドレスは小さくて、手直ししてももう着れない。
わたくしの手元にあるのは、義妹たちが「捨てといて」とよこした着古したドレスのみ。
「それからいつまでその格好のままでいるつもり?
使用人とはいえ殿方がいる前で肌を晒すなんて、よっぽど男が好きなのね」
「ヤダわぁ、こんなはしたない子が私の義理の妹だなんて」
「屋敷内で男あさりなんかしないでよね。みっともない」
継母と義妹はわたくしをあざ笑いながら、部屋を出ていった。
執事が舐めるような目でわたくしの頭の天辺からつま先まで見ている。
「何かご用でしょうか?」
執事に尋ねると、ようやく彼は部屋を出て行ってくれた。
婚約者でもない殿方にあんな目で見られるなんて、気持ち悪い……。
「どうしてわたくしがこのような目に合わなくてはいけませんの……!?」
わたくしは泣きながら、かつてドレスだったものの残骸を拾い集めた。
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