第79話 史上最大の洋上航空戦

 瑞雲隊それに第一遊撃部隊の活躍によって、A26による夜間攻撃機隊ならびに「アイオワ」級戦艦を主力とした敵水上打撃部隊の撃滅に成功した。

 そのことで、第二遊撃部隊と第三遊撃部隊それに第四遊撃部隊はそのいずれもが無傷のままオアフ島にある飛行場群に艦砲射撃を実施することができた。


 もちろん、オアフ島にある砲台からは反撃を受けた。

 しかし、ランダムに動きを変える戦艦を砲台はとらえ切れない。

 この時代の射撃指揮装置は静止あるいは定速直線運動をする目標にはそれなりの命中率が期待できたが、しかしそうでなければからっきしだ。

 逆に戦艦のほうは自身が的針や的速のデータを持っているし、変針のタイミングも自分たちで決められる。

 そのうえ、自分たちが砲撃するのは不動でしかも的がやたらに大きな飛行場だから、狙いをつけるのは容易だった。

 さらに、必要に応じて護衛の駆逐艦がスモークを焚いて戦艦の姿を隠したり、あるいは妨害電波を送出したりした。

 あの手この手の嫌がらせが奏功したのか、砲台の射撃は正確性を欠き、このことで艦砲射撃にあたった四隻の「金剛」型戦艦ならびに二隻の「シャルンホルスト」級巡洋戦艦のうちで、大きなダメージを被ったものは皆無だった。


 逆に、オアフ島の飛行場群の被害は甚大だった。

 ホイラーやヒッカムをはじめとした飛行場は、大口径砲弾によって滑走路を耕され、付帯施設のそのことごとくを爆砕されてしまった。

 実際、四隻の「金剛」型戦艦は合わせて二〇〇〇発の三六センチ砲弾を、二隻の「シャルンホルスト」級巡洋戦艦は一〇〇〇発の二八センチ砲弾を一晩のうちに叩き込んでいる。

 当然のことながら、地上にあった飛行機もその大部分が格納庫や掩体ごと吹き飛ばされている。

 さらに、夜明け前には第五五任務部隊との激闘に勝利した第一遊撃部隊も攻撃に参加、二〇〇〇発の三八センチ砲弾とそれに一〇〇〇発の三六センチ砲弾の追撃弾を各飛行場に浴びせた。

 この攻撃によってオアフ島の飛行場群は完全にとどめを刺された。

 それと、夜が明けてからはドイツ機動部隊それにイタリア機動部隊から発進した一六八機の烈風が飛行場攻撃に携わったが、しかしこの攻撃は死体蹴りと言ってもよいものだった。


 水上打撃部隊それにドイツ機動部隊ならびにイタリア機動部隊がオアフ島の米軍を散々に痛めつけている頃、日本の第一機動部隊もまた行動を起こしていた。

 米機動部隊を発見するために三六機の彩雲を四五度から二二五度に差し向け、二段索敵を実施したのだ。

 その彩雲は機首に烈風と同じくセントーラス発動機を戴き、二四〇〇馬力の大出力とそれに洗練された空力特性も相まって最高速度は一式艦偵よりも二〇〇キロ近く速い。

 この速度性能のおかげで、敵機と遭遇した際の生存率は一式艦偵に比べて劇的に向上していた。

 その彩雲から敵発見の報が飛び込んでくる。


 「空母四隻を主力とする機動部隊発見」

 「空母四隻を含む二〇隻近い艦隊を発見」

 「空母四隻、それに二隻の巡洋艦と一二隻の駆逐艦からなる艦隊発見」

 「空母四隻を基幹とし、さらに十数隻の護衛艦艇からなる機動部隊発見」


 発見された米機動部隊は合わせて四群でそのいずれもが四隻の空母を中心に据えた輪形陣を形成していた。


 「米機動部隊については、発見された順に甲一、甲二、甲三、甲四とこれを呼称する」


 彩雲からもたらされた情報をもとに、第一機動艦隊司令長官の小沢中将が明朗な声で部下たちに次々に指示を出していく。


 「ただちに攻撃隊を発進させろ。それと、対潜警戒を厳と成せ。攻撃隊が発艦する時が一番危険だ」


 小沢長官の命令からほどなく、第一艦隊と第二艦隊それに第三艦隊と第四艦隊からそれぞれ一六八機、第五艦隊から八四機に第六艦隊から九六機の合わせて八五二機の烈風と、さらに指揮管制や前路哨戒それに接触維持のための彩雲もまた飛行甲板を蹴って南東の空へと駆け上がっていく。


 烈風も彩雲もこの戦いで初めて実戦投入される最新鋭の機体だ。

 このうち烈風のほうは一五試艦上戦闘機として川西航空機で開発が進められていたが、しかし途中からドイツとの共同開発となった異色の機体だった。

 当初は一四気筒四二リットル一五〇〇馬力の火星をその心臓として開発がスタートしたのだが、しかしこれが一八気筒三六リットル一九五〇馬力の誉に代わった。

 しかし、途中から設計チームに加わったクルト・タンク博士の意向によって一八気筒五四リットル二四〇〇馬力のセントーラスエンジンが搭載されることになった。

 誉の五割増し、栄や瑞星の二倍近い排気量を持つセントーラスのトルクは圧倒的で、三トンを大きく超える自重を持つ烈風を軽々と大空高く引っ張り上げることが出来た。

 また、航空先進国のドイツの知見をもとに空力特性も洗練され、それらの恩恵によって零戦五三型よりも五〇キロ以上も速い六八〇キロの速力を持つに至るとともに、新装備の自動空戦フラップによって旋回性能も零戦と同等かあるいはそれを上回っている。

 武装は零戦と同じく長銃身の二〇ミリ機銃が四丁だが、一方で装弾数は二〇〇発から二五〇発へとアップしている。

 爆弾搭載量は一五〇〇キロと、零戦五三型に比べて三倍増となっているが、しかしこちらのほうは日本の艦上戦闘機が米軍の水準にようやく追いついたと言ったほうが正しいだろう。

 それと、烈風は英空母の幅の狭いエレベーターでも使用できるように、翼の付け根近くから大きく折り畳めるようになっている。

 このことで、零戦よりも大ぶりな機体なのにもかかわらず、しかし搭載に必要な床面積はむしろ減少していた。


 攻撃隊が出撃した後、艦隊防空を任務とする機体がエレベーターを使って格納庫から飛行甲板へと次々に引き出されてくる。

 第一機動艦隊それにドイツ機動部隊とイタリア機動部隊の合わせて三九隻の空母にはそれぞれ二個中隊、総計九三六機の烈風が用意されていた。

 一見したところ、その戦力は過剰に思えるが、しかし米軍の一六隻の「エセックス」級空母には一七〇〇機程度が搭載されていると見込まれている。

 さすがに、それら機体を攻撃に全振りするとは思えないが、しかし半数を投入するだけでも八五〇機、六割なら一〇〇〇機を超える。

 強大な米機動部隊からの攻撃に備えるには、一〇〇〇機近い烈風といえども決して安心できる数ではなかった。


 そして、日独伊連合艦隊上層部の懸念は当たる。

 米機動部隊はこの時点で「エセックス」級空母からそれぞれF4Uコルセア戦闘機が三六機と、それにSB2Cヘルダイバー急降下爆撃機ならびにTBFアベンジャー雷撃機がそれぞれ一二機の合わせて九六〇機からなる前代未聞の攻撃隊を繰り出していたのだ。


 彼我合わせて一八〇〇機を超える攻撃隊が互いの敵を叩き潰すべくハワイの大空を飛翔する。

 先に接触したのは一機艦が繰り出した攻撃隊と、それに米機動部隊の迎撃戦闘機隊だった。

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