真珠湾攻撃

第9話 戦闘配備

 あまり褒められたやり方ではないが、それでも自身の辞職をちらつかせたことで真珠湾奇襲攻撃を認めさせることに成功した。

 その代わりというわけでもないが、同時に要求していた第一航空艦隊の建制化については残念ながらこちらは認められることはなかった。


 (一航艦の建制化が認められなかったことは残念だが、しかし航空機が持つ威力を実証すれば、上層部の見方もまた変わることだろう)


 そう考える連合艦隊司令長官の山本大将は編成表に目をやる。

 開戦時における艨艟たちの役割分担がそこには記されていた。



 全般作戦支援

 戦艦「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」

 重巡「青葉」「衣笠」「古鷹」「加古」

 駆逐艦「朝雲」「山雲」「夏雲」「峰雲」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」


 真珠湾攻撃

 「赤城」(零戦二四、一式艦攻四五)

 「加賀」(零戦二四、一式艦攻四五、一式艦偵九)

 「蒼龍」(零戦二四、一式艦攻三六)

 「飛龍」(零戦二四、一式艦攻三六)

 「翔鶴」(零戦二四、一式艦攻五四)

 「瑞鶴」(零戦二四、一式艦攻五四)

 「神鶴」(零戦二四、一式艦攻五四)

 「天鶴」(零戦二四、一式艦攻五四)

 戦艦「比叡」

 重巡「利根」

 駆逐艦「秋月」「照月」「初風」「雪風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」


 南方部隊本隊

 戦艦「金剛」「榛名」

 重巡「愛宕」「高雄」「摩耶」

 駆逐艦「海風」「山風」「江風」「涼風」「村雨」「夕立」「春雨」「五月雨」


 比島空襲部隊

 「龍驤」(零戦二四、一式艦偵九)

 「瑞鳳」(零戦一六、一式艦攻一二)

 「祥鳳」(零戦一六、一式艦攻一二)

 「龍鳳」(零戦一六、一式艦攻一二)

 「千歳」(零戦一六、一式艦攻一二)

 「千代田」(零戦一六、一式艦攻一二)

 「瑞穂」(零戦一六、一式艦攻一二)

 戦艦「霧島」

 重巡「筑摩」

 駆逐艦「涼月」「初月」「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」


 比島攻略部隊

 「春日丸」(零戦一二、一式艦攻九)

 重巡「妙高」「羽黒」「足柄」「那智」

 軽巡「川内」「神通」「那珂」 ※海上護衛総隊から応援

 駆逐艦「白露」「時雨」「初春」「子日」「若葉」「初霜」「有明」「夕暮」

 駆逐艦「朧」「曙」「漣」「潮」「暁」「響」「雷」「電」

 駆逐艦「皐月」「水無月」「文月」「長月」「菊月」「三日月」「望月」「夕月」 ※海上護衛総隊から応援


 マレー攻略部隊

 重巡「鳥海」「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」

 軽巡「阿武隈」「鬼怒」 ※海上護衛総隊から応援

 駆逐艦「吹雪」「白雪」「初雪」「叢雲」「東雲」「薄雲」「白雲」「磯波」「浦波」「綾波」「敷波」「朝霧」「夕霧」「天霧」「狭霧」


 グアム攻略部隊

 軽巡「長良」「五十鈴」「名取」「由良」 ※海上護衛総隊から応援

 駆逐艦「睦月」「如月」「弥生」「卯月」 ※海上護衛総隊から応援


 ウェーク島攻略部隊

 「鳳翔」(九六艦戦八、九六艦攻六)

 軽巡「夕張」「天龍」「龍田」 ※海上護衛総隊から応援

 駆逐艦「夕凪」「朝凪」「疾風」「追風」「旗風」「松風」 ※海上護衛総隊から応援



 第一段作戦の主目的は南方資源地帯の確保だが、一方で山本長官がもっとも気にかけているのが真珠湾攻撃を担う一航艦とそれに在比米航空軍撃滅の任を負った二航艦だった。


 真珠湾攻撃に関しては当初、第一航空戦隊の「赤城」と「加賀」それに第五航空戦隊ならびに第六航空戦隊の四隻の「翔鶴」型の合わせて六隻の空母でこれを実施することとされていた。

 しかし、二航戦司令官の山口少将が「蒼龍」ならびに「飛龍」もこれに参加させろと連合艦隊司令部にねじ込んできた。

 中型空母の「蒼龍」と「飛龍」は他の六隻の大型空母に比べて航続性能が低く、それゆえに補給計画の立てにくい艦でもあったことから、練度の高いベテラン航空戦隊にもかかわらず同作戦からは外されていた。

 それと、戦力面から「蒼龍」と「飛龍」を比島空襲部隊の基幹戦力としたい軍令部、それに補給担当者もまた油槽船の手配の限界を理由に二航戦の作戦参加に対して難色を示していた。

 しかし、開戦劈頭に米国への痛撃を可能な限り最大化したい山本長官の希望もあって「蒼龍」と「飛龍」は真珠湾攻撃に参加することに決まった。

 ただし、その代償として護衛の戦艦と重巡が半減している。


 一方、この一連の措置で二航艦は「蒼龍」と「飛龍」を欠いた状態で在比米航空軍と干戈を交えることになる。

 しかし、常用機だけでも二〇〇機を超える戦力があれば、台湾にある基地航空隊の陸上攻撃機と絡めることで成算も十分に見込めるはずだった。


 その一航艦と二航艦の空母に搭載されるのは零戦と一式艦攻がほとんどで、あとは一式艦攻を改造した一式艦偵が「加賀」と「龍驤」にそれぞれ九機搭載されるのみとなっている。


 艦上機隊の主力を機体のコンパクトな零戦と、翼を大胆に折り畳める一式艦攻としたことで、各空母ともに当初想定していたよりも数多くの機体を搭載することが可能となっている。

 もし仮に、企画倒れに終わった一一試艦上爆撃機が開発され、それが戦力化されて各艦隊に配備されていれば、いずれの空母も搭載機数の減少は免れなかっただろう。

 帝国海軍が精密爆撃が可能な急降下爆撃機を廃止する決断が出来たのは、誘導噴進爆弾の開発に目途が立っていたからだ。

 そして、開戦を目前に控えた今、その努力は結実した。

 ただ、残念なのは量産化までには至っておらず、そのことで真珠湾攻撃はこれまでと同様、魚雷と爆弾を用いることになっている。


 そして、なにより山本長官が期待を抱くのが「加賀」と「龍驤」に搭載されている一式艦偵だ。

 「猛想戦記」に触発され、早い段階で開発が始まったこの機体は誘導噴進爆弾とは違ってすでに量産化が始まっている。

 人間の目よりも遥かに優秀な電波の目で敵を捕捉するそれは、広大な太平洋でこそその真価を発揮するはずだった。

 ただ、こちらも残念なのは機載電探を扱える技術者が決定的に不足しており、各空母に配属出来るほどの人員が確保されていないことだった。

 そのことで現在のところは「加賀」と「龍驤」に集中配備せざるを得なかった。


 一方、水上打撃艦艇については無条約時代になって以降、ほとんど増勢は無かった。

 誰あろう山本長官自身が「意知字句艦帳」によって戦艦や巡洋艦のそのことごとくを建造中止としてしまったからだ。

 目ぼしいものは四隻の「秋月」型駆逐艦くらいのものだろう。

 「陽炎」型駆逐艦を一四隻で打ち止めとした代わりに四隻だけだが同型駆逐艦の実戦配備が間に合ったのだ。

 当然のことながら、これら四隻はそのいずれもが空母部隊である一航艦ないしは二航艦に配備されている。


 いずれにせよ、これら戦力をもって帝国海軍は米英をはじめとする連合国軍に対して戦いを挑むことになる。

 すでに、各艦隊は開戦を見据えて集結を開始している。

 日本の国運を賭した戦いはすでに目前までに迫っていた。

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