ママへの贈り物2

 ママにはお肉も一緒に送りたいので、とりあえず先に朝ご飯を食べることに。

 シルク婦人さんのトロトロで見た目も美しいスクランブルエッグ、美味しぃ!

 え?

 どうしたら、こうなるの?

 わたしが作ったら、ぽろぽろになっちゃったのに?

 え?

 山羊さんのお乳を使用?

 凄い!

 あと、人参やジャガイモ、ピーマンの入ったクリーミーなスープ、美味しい!

 やっぱり、前世中学生、今世半野生人の女の子が作るより、ちゃんと料理をしてきた人(?)が作る料理の方が、やっぱり美味しいよね。


 なんだか感動しちゃった。


 あ、でも……。

 これだけはちゃんと伝えなくちゃ。

 お茶を入れてくれたシルク婦人さんに、真剣な表情で言う。

「シルク婦人さん、わたし、ピーマンはいらない」

「あぁ~

 だったら、シャーロットも人参いらない!」

「シャーロットちゃんは駄目、小さいから!

 わたしはもう十分大きいから、食べなくていいの!」

「えぇ~

 そんなのズルい!」

「ズルくない!」

 わたしはきっぱりと言い切るのだった。


――


 ご飯を食べ終えてから、ママ用のお肉を用意することに。

 じゃくイノシシさんの良い所を切って、家の前の階段に座り、焼く準備をする。

 台所で焼こうと思ったけど、シルク婦人さんが洗い物をしていたので遠慮したというのもあるし、ちょっと気合いを入れて切りすぎて、サイズ的に白いモクモクを使った方が良いと判断したからだ。


 しかし、はぁ~


 わたしのご飯だけピーマン抜きは、叶わなかった。

 あきれ顔のイメルダちゃんに却下されたからだ。

 何故に……。

 わたし、女王とまでは言わないけど、少なくとも家主なのに……。

 因みに、ピーマンを作らないという強攻策も、現時点では取りにくい。

 野菜の種類が少なすぎるのだ。

 わたしはともかく、皆の体調を考えると、ね。

 せめて、キャベツがあればなぁ。


 いや、それはまあ、今はよいか。


 左手から出した白いモクモクを台状にして、その天板の位置を加熱させる。

 その上に、右手から出した白いモクモクを使いじゃくイノシシさんのお肉を乗せる。


 お肉には筋切りがしてある。


 強力な顎を持つママには無用な気遣いかもしれないけど、これをすると柔らかくなるのだ。

 あと、お肉が反り返ったりもしなくなるので、見た目も綺麗に出来る。


 もちろん、Web小説の知識だ。


 その小説の主人公がドヤ顔で「これを”筋切り”という」と披露して、異世界の料理人が「す、凄い!」「恐るべき技術だ!」と感嘆していたものだけど……。

 ケルちゃんのお肉を焼く時に、シルク婦人さんも当たり前にやっていた。

 そりゃ、そうだよね。

 おっと、ひっくり返さなくっちゃ。


 ふむ、肉汁がジュージューと鳴り、美味しそうな匂いがしてきた。


 前世でステーキを食べた記憶がないから分からないけど、きっと、このお肉だって負けていないと思う!

 ママも喜んでくれるはずだ!

 まあ、一応、妖精姫ちゃんやヴェロニカお母さんの言う通り、パンとジャムは送るけどね。

 このステーキが口直しになってくれると良いなぁ。


 そんなことを考えていると、後ろで扉が開く気配がした。


 振り返ると、シャーロットちゃんが目を輝かせてこちらを見ていた。

 そして、ちょこちょこと階段を下りてくる。

「こら、外に出ちゃ駄目って言ったでしょう!」

と注意するも、隣に座った妹ちゃんからは、全く気の入っていない「ごめんなさい」が返ってくるだけだった。

 その青色の瞳は、前のステーキに釘付けだ。


 どんだけ、お肉が好きなの、この子は……。


「ねえねえ、サリーお姉様!

 これ、お昼ご飯?」

「ごめん、これママに送るようなの」

 わたしの返答にシャーロットちゃんは目を丸くする。

「サリーお姉様のお母様?

 届けに行くの?」

 あれ?

 シャーロットちゃんは先ほどのやりとり聞いていなかったのかな?

 なので、転送陣の事を話してあげる。

 シャーロットちゃんはがっかりした顔になった。

 ちょっと可哀想なので「これとは別のお肉を、シルク婦人さんに焼いて貰うから」と言ってあげると、シャーロットちゃん、嬉しそうに「うん!」と満面の笑みになった。


 可愛い!


 焼き終えると、大皿の上に乗せる。

 うむ、美味しそうだ。

 ちらりと視線を向けると、シャーロットちゃんが涎を垂らさんばかりの顔をしている。

 これは、肉食系女子(意味違い)には目の毒だ。

「ほらほら、家に入るよ」

と促しつつ立ち上がり移動する。


 家に入って、転送部屋の前まで進む。


 え?

 シャーロットちゃんも見たい?

 う~ん、あんまり見せるの良くないって、ママは言ってたんだけどなぁ。

「転送する瞬間だけだよ」

と言いつつ、テーブルに戻る。

 テーブルの上の皿に用意してあった、先ほど焼いたパンに視線を向ける。

 ママの体格に比べてちっちゃなパンだけど、まあ、甘味を好まないママにはこれぐらいでいいよね。

 そこに、リンゴジャムを塗っていく。

 これも、まあ、三塗りぐらいでいいかな?

 あんまり塗りすぎると、ママも困っちゃうだろうし。

 脳裏に困ったような顔のママが『小さい娘、嬉しいけど、ちょっと多いわ』なんて言っている顔が浮かぶ。

 ダメダメ、ちょっと戻そう。

 これで良し!

 それを転送部屋に運び、お肉の皿の隣に置く。

 シャーロットちゃんがわたしの背中越しに覗いている。

 可愛い!

「ほらほら、下がって」

と言いつつ、シャーロットちゃんの脇に手を差し、持ち上げつつ後ろに下げる。

「ひゃぁ~」とシャーロットちゃん、嬉しそうだ。

 本当に可愛すぎる!

 あ、イメルダちゃんやヴェロニカお母さんも、興味津々な感じで近寄ってきた。

「余り見せちゃ駄目って言われてるんだけど」

と再度ヴェロニカお母さんに言うも、「ちょっとだけ!」とニコニコ顔で言われてしまった。


 まあ、これから何度も使うから、その都度、気にされるのも面倒か。

 それに、ママがいる側がメインなので、こちら側は大した事、書かれてないし。


「ちょっとだけだよ」

と言いつつ、転送陣に向き直る

 そして、魔力を流した。

 一瞬でお肉やパンが皿ごと消えた。

「わぁ!

 消えちゃった!」

 シャーロットちゃんが目を丸くしている。

「本当に」とイメルダちゃんは呆然と言い、「凄いわね」とヴェロニカお母さんも手のひらを頬に当てながら驚いている。

 シャーロットちゃんが「ねえねえ、サリーお姉様!」と楽しいことを思いついたかのような笑顔で言う。

「この上にシャーロットが乗ったら、移動できる?」

 ああ……。

 わたしも、そんなことを考えたなぁ。

「残念ながら、シャーロットちゃん。

 人間は転送できないの」

「そうなんだぁ」とシャーロットちゃんは残念そうにする。

「でも、これは画期的な技術じゃないかしら!」

とイメルダちゃんが興奮気味に言う。

「人間が移動できなくても、例えば手紙とかを一瞬で運べるだけでも、相当便利よ。

 この魔術が広まれば、世界が変わるわ!」

 ああ、確かに。

 前世の記憶がある身としては、連絡とかなんてメールや電話で簡単に出来るような感覚があるけど、多分、この異世界では手紙は馬とかで届けるものなんだろう。

 それこそ、距離によっては何日も、何ヶ月もかかるのだろう。

 だけど、この転送陣があれば一瞬で行える。

 イメルダちゃんの声が弾むのも致し方がないかぁ。

 そんなイメルダちゃんの肩にヴェロニカお母さんが手を置いた。

「イメルダ、止めておきなさい」

「え?

 お母様?」

 不思議そうに見上げるイメルダちゃんに対して、ヴェロニカお母さんは優しく微笑む。

転送陣これが世界に知られていないという事は、サリーちゃんのお母様はどのような意図があるにせよ、”広げるべきでない”ものとお考えなのだわ」

 そこで、ヴェロニカお母さんは「イメルダ、シャーロット」とそれぞれを見ながら続ける。

「ここで見たことは、他言をしては駄目よ!

 この転送陣という魔術も、サリーちゃんの魔法も、ね。

 サリーちゃんのお母様に許可を得たならともかく、ここに住まわせて頂いているわたくし達が勝手に広めて良いものではないの。

 分かったかしら?」

 いつものニコニコ穏やかな雰囲気とは違う、どこか厳格な感じすらするヴェロニカお母さんの言葉に、二人は「はい!」と姿勢を正して返事をした。


 凄く居心地が悪い……。


 これ、二人に言っているていだけど、絶対、わたしにも言ってるよね。

 むやみに、人に見せてはいけませんって言ってるよね。

 いたたまれない気持ちになっていると、ヴェロニカお母さんがわたしにニッコリ微笑んだ。

「サリーちゃんはいいのよ。

 これは、サリーちゃんのお母様の技術だもの。

 娘のサリーちゃんがおおっぴらにしても、問題ないでしょう?」

 うぐ!

 胸に何かが突き刺さった。

 そんな様子を見ながら、ヴェロニカお母さんは「うふふ」って笑ってた。

 くそぉ~

 何だかよく分からないけど、悔しぃ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る