妹ちゃんと町に行こう!2
準備が出来たので、イメルダちゃんと町に出かける事に。
目を覚ましたシャーロットちゃんが行きたがって困ってしまった。
だけど、ヴェロニカお母さんに「シャーロットはお母様を置いて行ってしまうの?」と悲しげに言われてしまい、諦めてた。
「サリーお姉様!
次はシャーロット!」
と一生懸命アピールしてきたけど「もうちょっと様子見てからね」と必死に宥めた。
落ち着いているイメルダちゃんならともかく、シャーロットちゃんはまだ不安だ。
せめて、皆を狙った人たちが確実に諦めたと分かるまでは、ね。
荷車を用意して、あらかじめ獲っておいた獲物――家の近くにいた弱イノシシさんとお金を乗せる。
あと、赤鷲の団のアナさんへのお裾分けに、林檎ジャム入り瓶を乗せる。
さて、イメルダちゃんを呼ぶかな。
「そろそろ行くよぉ~」
ドアまで戻り、声をかける。
なにやら緊張気味のイメルダちゃんがドアの所までやってきて――体をぶるりと震わせた。
「寒い!」
ああ、そりゃそうか。
わたしは寒いのに慣れているけど、もう冬が近い季節にその格好は厳しいか。
一旦中に戻って貰うと、「ちょっと待ってて!」と自室に戻り、ごそごそ探す。
あったあった!
イメルダちゃんの元に戻ると、見つけた物を着せてあげる。
白いコートだ。
これも、十歳ほどの時に使っていた。
当時、すでに寒さに耐性を持っていたんだけど、エルフのお姉さんから念のためにと作って貰っていたんだ。
「温かい……。
ありがとう」
イメルダちゃんが嬉しそうに目元をゆるませる。
「素敵なコートね」
「本当だ!」
とヴェロニカお母さんやシャーロットちゃんが興味深げに見ている。
そりゃそうだ。
ママの毛で出来た物だもん。
純白で美しいのだ。
それに、ダウンジャケットなんかよりも温かく、それでいて軽い優れ物だ。
「もう一回り小さいのがあるから、今度、シャーロットちゃんにも着せてあげるね」
と言ったら、シャーロットちゃん、嬉しそうにした。
可愛い!
「わたくしには?」とヴェロニカお母さんが何やら、期待した顔で見てきた。
「わたしのお古だもん。
あるわけ無いでしょう」
って素っ気なく言うと、何故かショックを受けた顔をする。
そして、「あらかじめ、このぐらいの大きさで作ってみない?」と自分の体を指しながら、お馬鹿なことを言っている。
そもそも、わたし、そんなに大きくなるかなぁ。
身長的にも、胸部的にも。
なんて思っていると、イメルダちゃんが訊ねてくる。
「サリーさんの分は無いの?」
「前に住んでいた所はもっと寒かったから、これだけで大丈夫!
それに、せっかくの刺繍が隠れちゃうもん」
そう言いながらも、チラリと視線を落とす。
セーラー服には赤い薔薇が咲いている。
素敵だ!
ヴェロニカお母さんに縫って貰った物を、早速着ているのだ。
イメルダちゃんが困った顔をする。
「気持ちは分かるけど、夕方ぐらいになると、さらに冷え込むから念のために持って行った方が良いと思うわよ」
う~ん、いらないと思うけどなぁ。
あ、でも、また門番のジェームズさんにコートを渡されちゃうかな。
そんなことをしたら、今度は門番のジェームズさんが凍えちゃうか……。
「そうだね、一応持って行くよ」
部屋に戻ると、ゴソゴソとする。
あったあった!
白いコートを持って戻る。
すると、何故かヴェロニカお母さんがニコニコしながらスッと手を差し出してくる。
え?
何?
「ちょっと着させて!」
えぇ~まあ良いけどサイズは合わないと思うけどなぁ。
……。
わたしが着れば、お尻が隠れるぐらいのファーフード付きコートが、ヴェロニカお母さんの場合、腰辺りの――ジャケットみたいな状態になっている。
いや、その辺りは良いのだ。
コートとしてはあんまりだけど、そういう服として見ればそういう物だと納得できるし、実際、似合ってる。
でも、問題はそこでは無いのだ。
”前”がデカすぎてボタンが付けられない状態になってる。
凄い……。
ヴェロニカお母さんは機嫌良さげに「どうかしら?」とポーズを取り、イメルダちゃんやシャーロットちゃんは「よく似合ってる!」「お母様、綺麗!」などと絶賛している。
そんな、ヴェロニカお母さん、こちらを見てニッコリ微笑む。
「まだまだ大丈夫よ、サリーちゃん」
何が!?
――
外に出て、荷車を置いた場所まで向かう。
ヴェロニカお母さんやシャーロットちゃんもお見送りに出てきた。
わたしが離れた隙に狙われると危ないし、寒いから止めた方が良いと言ったけど、近衛騎士妖精君達が守ってあげるとアピールしてきたのでお願いすることにした。
ヴェロニカお母さん、コートが無いので、毛布を肩にかけて出てきた。
ちょっと、寒そう。
シャーロットちゃんにはお古のコートを着せてあげた。
気に入ったのか、ニコニコご機嫌な様子だ。
さて、イメルダちゃんをどうするか。
「イメルダちゃん、起立の状態で、両足を肩幅まで開いて」
「え?
こう?」
足を広げたイメルダちゃんの両太もも裏をそれぞれ手で持ち、抱き合う形で持ち上げる。
「きゃ!
ちょっと、何!?」
さらに、左手から出した白いモクモクで固定する。
「じゃあ、行ってくるね!」
荷車を押しながら進もうとするも、「ちょっと待って!」とイメルダちゃんからストップがかかる。
「何この格好!
恥ずかしいんだけど!」
「これが一番安全だよ」
わたしの場合、ここらにいる魔獣程度なら不意打ちを一撃程度受けても問題ないけど、イメルダちゃんはそうはいかない。
なので、
「わ、わたくしは荷車に乗るわ!」などと言い出したけど、当然却下だ。
視界から外れる上に、荷車の上は地味に揺れるんだ。
そんな危険な場所に、女の子は置けない。
ああだこうだと、言い合いになり、結局おぶっていくことになった。
視界外なので余り良くないんだけど、それ以上は平行線になりそうなので折れることに。
「この帽子をしっかり被っておいてね。
いざとなったら、守ってくれるはずだから」
と言いつつ、フェンリル帽子を被せる。
ママの毛で出来たこれは、軽くて防御力が高いチート防具なのだ。
「なんか、これも恥ずかしい」などと不満そうだったけど、これは譲れない。
この状態でおんぶして、左手から出した白いモクモクで背後を覆う。
まあ、大丈夫かな。
「じゃあ、行ってくるね!」
と改めて言うと、ヴェロニカお母さんが「行ってらっしゃい」と微笑んでくれた。
妖精姫ちゃんが近寄ってきたので、「妖精姫ちゃん、ヴェロニカお母さん達をよろしくね!」とお願いすると、問題ないと言うようにニッコリ微笑んだ。
頼りになる!
え?
だからケーキ?
流石に、頻繁に買いすぎでしょう……。
え?
甘くて美味しければ、別のものでも良い?
しょうがない、探してみるか。
結界から出て出発!
いつもよりゆっくり走る。
振動も極力抑えないとね。
「どう?
大丈夫?」
と訊ねると、「だ、大丈夫……ちょっと早いけど……」という余り大丈夫そうに無い声が聞こえてきた。
「もうちょっと、速度落とす?」と訊ねたけど、「魔獣が怖いから、
「本当にキツくなったら言ってね!」と釘を刺しつつ進む。
ん?
弱クマさんがいた。
しかも、こちらに気づいた途端、向かってきた。
舐めてるなぁ。
とはいえ、この速度だと流石に追いつかれるか。
右手で白いモクモクを出すと、弱クマさんまで伸ばす。
そして、それで無駄にデカい体を縛ると、遠くにポイッと投げ捨てた。
イメルダちゃんが後ろで「え!? え!?」と驚いているけど、まあ、そのままに、川を越え、森を抜ける。
白狼君達の一団がこちらに気づき、十匹ほどが並走してきた。
しかも五十メートルぐらい離れて、数十匹ぐらいの群れが付いてきている。
『付いてきても、ご飯は無いわよ!』
うぉうぉうぉう! と説明しても、気にせず付いてくる。
まあ、彼らが近くにいれば変なのも近寄って来にくいかな?
なんて思っていると、空中から向かってくる気配――視線を向けると、ふむ、巨大鷲君か。
わたし達の背後に向かって、巨大な鉤爪を向けながら降下してきた。
ヌルい。
右手で出した白いモクモクを巨大な盾のようにする。
ガン! とぶつかった瞬間、三メートルほどある奴の体を包むように、白いモクモクを展開して捕獲する。
ちょっと、スライムの捕食みたいと思いつつ、捕らえた巨大鷲君の体を振り上げると、下に叩きつけた。
鈍い音を立てながら、地面にめり込む。
すかさず、白狼君達が駆け寄り、その首に噛みついて止めを刺した。
解体しようかな? とも思ったけど、後ろのイメルダちゃんが「ひぃ!」と声を漏らしていたので、離れることにした。
『それ、食べていいよ』
ガウガウガウ! と声をかけ、先に進む。
後続中、数匹が残り、残りはそのまま付いてくる。
ん?
今度は地面を這うように何かが近づいてくる気配がする。
右前方から地面から飛び出るように巨大な口が現れる。
うねり虫君か。
人間の間では化けワームとか呼ばれているらしい。
そんな彼の気色悪い口が、白狼君の一匹を飲み込まんとしている。
「危ない!」白いモクモクで白狼君の腰を持ち上げ上空に投げ上げ回避、と同時に魔力を込めて超重量の魔力の固まりでうねり虫君の頭を潰す。
うげぇ!
気持ち悪い!
「イメルダちゃん、見ない方がいいよ!」
と注意するも「もう……遅い……」という弱々しい声が聞こえてきた。
致し方がなかったとは言え、ゴメン。
あ、上に投げちゃった、白狼君、大丈夫?
視線を向けると、ちょっと足を痛そうにしてるも立ち上がっていた。
そして、こちらに向かってガウ! と返してくる。
おお、たくましいね。
流石、野生で生き残るだけはある!
とはいえ、念のために回復魔法をかけてあげた。
え?
ほんと、野生って、たくましい……。
頭を潰されてもウネウネ動いているうねり虫君を後続の白狼君達がかじってるのを見ながら思った。
……進むか。
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