レアモンスターだった!

 魔獣解体所に到着する。


 中を覗くと、解体所の所長グラハムさんが職員さん達と体長一メートルぐらいのモグラを解体していた。

 邪魔にならないように、荷車とともに中に入る。

 隅の方で大人しくしていると、五分ぐらいで解体が終わり、わたしに気づいた解体所の所長グラハムさんが、その巨体を揺らしながら近寄ってきた。

「おお、サリー!

 また、”森の悪魔”を狩ってきたのか?」

「うん。

 あと、トカゲ君も」

「トカゲ君?」

 荷車の中を見せると、解体所の所長グラハムさんが目を大きく見開いた。

「ミスリル蜥蜴じゃないか!

 これはまた、すごい物を狩ってきたな!」

「ミスリル蜥蜴?」

 解体所の所長グラハムさんが言うには、ミスリル蜥蜴は攻撃力は高くないが、その素早さと防御力で多くの冒険者を悩ませる魔獣とのことだ。

「こいつの表皮は磨けばとても美しく、それでいて非常に頑丈なんだ。

 貴族や騎士、上級冒険者らの人気が高い。

 それでいて、なかなか発見も討伐も難しいから、相当の高値で取り引きされている」

「おおお!」

 すごいレアモンスターのようだ。

 ひょっとしたら、某RPGの灰色スライム君みたいな立ち位置なのかも。

 あ、アレは経験値か。

 解体所の所長グラハムさんがトカゲ君の延髄辺りを撫でながら苦笑する。

「いったいどんな攻撃をしたら、ミスリル蜥蜴の首をへし折れるんだ。

 こいつは物理的に倒すのは、ほぼ無理のはずなんだが……」

「チョップ」と動作付きで教えてあげると、「デタラメな子だな」とおじいさんの苦笑が深くなった。

 え~

 まあ、弱クマさんに比べたら頑丈だったけど、地竜さんに比べたら大したことなかったけどなぁ。

 あ、いや、ノンビリしている時間もなかったんだ。

「早く早く!」と急かしながら、売却する。

 因みに、お肉は堅くて不味いというのと、丸売りの方が値段が高くなるとのことなので、全部売ってしまうことに。

 金貨三百枚になった!

 凄い!

 弱クマさんのお肉も、出来れば売って欲しいとのことだったので、少し悩んだけど売却する。

 金貨五十枚、計三百五十枚!

 凄い!

 喜んでいると、ミスリル蜥蜴君の話を聞きつけた組合長のアーロンさんが凄い形相でやってきた。

 そして、「サリー、でかした! でかしたぞぉぉぉ!」などと言いながら、背中をバシバシ叩かれた。

 金銭的に潤うだけでなく、実績としても大きいとのこと。

「他にも見つけたら、最優先で狩って欲しい!」

と厳ついおじいちゃんに迫られて、ちょっと怖かった。


 話のついでに、砂糖を安く売っている場所はないか確認した。


 妖精ちゃん用というのは、はばかりがあったので、冬ごもり用の調理に使いたいと説明をする。

 すると、組合長のアーロンさんは苦笑しながら「砂糖は高いぞ」と言いながら説明してくれた。

 なんでも、ここを治めている領主様が独占するために、生産や販売を制限しているとのこと。

 砂糖大根テンサイの種は当然、一般的には売られていないし、砂糖の金額も前世のスーパーとかで売っている、一キロサイズの袋で、金貨十枚もするとのこと。

「それって、むちゃくちゃ高くない!?」

と訊ねると、組合長のアーロンさんは「まあ、嗜好品だからな」と困ったような顔をする。

「とはいえ、お前なら買えなくも無い額だろう?

 もし買うのであれば、組合を通して買った方が良いぞ」

「え?

 なんで?」

「お前みたいな小娘が金貨十枚分も砂糖を買ったら目立つだろう」

「ああ……。

 確かに」

 納得したので、お願いした。

 手間賃に大銀貨一枚も取られた。

 セコいと思ったけど、これも納得出来たので、唇を尖らせつつも支払った。


――


 我がに到着!

 結界内に入ったとたん、妖精ちゃん達に取り囲まれる。

 え!?

 何!?

と思った次の瞬間、潮が引くように去っていく。


 皆の手にはケーキと砂糖が有った。


 帰ってきたら、まずはお帰りなさいじゃないの!?

 なんか、わたしの扱いが雑になってない!?

 プリプリ怒りつつ、荷車を車庫に入れ、荷物を持って家に入る。

 シャーロットちゃんが「お帰りなさい! サリーお姉様!」と駆け寄って来てくれる。

 シャーロットちゃん、可愛い!

「ただいまぁ!」と荷物を置くと、ぎゅっとハグをしつつ、持ち上げる。

 シャーロットちゃん、「うわぁ~!」と嬉しそうに悲鳴を上げた。

 可愛すぎる!

「お帰り」とイメルダちゃんが近寄ってきたので、シャーロットちゃんを置くと、「ただいま!」と手を広げる。

 が、なぜかイメルダちゃんは「わたくしはいい!」と後ろに下がる。

 なぜ!?

 すると、イメルダちゃんの後ろから前に出たヴェロニカお母さんが、ニコニコしながら手を広げる。

 それに対して、わたしは「結構です」ときっぱりお断りをする。

 面白そうに笑うヴェロニカお母さんに「サリーちゃんは恥ずかしがり屋ね」などと言われる。


 解せぬ。


 今日の晩ご飯は、例の雉っぽい魔鳥のお肉を使った焼き鳥にする。

 肉を一口大に切り分けて、町で売ってた二十センチぐらいの鉄の串に刺す。

 部位は胸とももだ。

 塩、胡椒で下味を付ける。

 白いモクモクで串を支えつつ、十六本ほどを暖炉の火で焼く。

 ついでにソラマメの種やピーマン、人参なども串に刺して焼く。

 調整がやや難しいけど、うん、香ばしくていい匂いがしてきた。

 下のコルお兄ちゃんが好きで、さんざん焼かされたなぁ。

 まあ、その時はほぼ丸焼きだったけど。

 などと感慨に耽っていると、誰かが近寄ってくる気配を感じた。

 シャーロットちゃんだった。

 シャーロットちゃん、焼き鳥を凝視している。

 焼き鳥が好きなのかな?

「危ないから、近寄ったら駄目だよ」と注意すると、「うん……」と名残惜しそうに離れていく。


 そんなに好きなのかな?


 焼き鳥を、あらかじめ作った箸を使い串から外し、皿に並べる。

 串からの方が美味しそうだけど、火傷しそうだからとりあえずね。

 焼き鳥のうち、六本はケルちゃん達用で、他の皆で一人二本ずつ――残り二本は食べられる人で分ける方向で。

 あ、ソラマメとかも並べないと。

 さらに、町で買ったパン(自作はもうちょっとかかる)と、芸は無いけどポトフっぽいスープを用意する。

 あ、妖精メイドのサクラちゃん、紅茶を入れてくれたんだね。

 ケーキのカットもしてくれて、ありがとう!


 ふむ、まあ、とりあえず格好は付いたかな?


「ご飯だよ~」と皆を呼ぶ。

 因みに、テーブルには昨日のように妖精ちゃん達が占領してケーキを食べたりはしていない。

 大木の方に持って行って貰ったのだ。

 今までの倍のケーキをここで食べられると、甘い匂いが充満しすぎて大変なことになりそうだからだ。

 特に文句はないようで、皆、樹洞に飛んでいった。

 ケーキを二切れ残して。

 ……今までの倍の筈なんだけど、昨日と同じ大きさのケーキが二切れ。


 まあ、お礼の品なので、別にいいんだけどね……。


「ちょっと、引っ張らないで!」とイメルダちゃんがゴロゴロルームから出てくる。

 その左手を妖精メイドの黒バラちゃんがなにやら楽しそうに引っ張ってた。

 その後ろから、ヴェロニカお母さんがニコニコしながら現れる。

 妖精メイドのスイレンちゃんは?

 あ、エリザベスちゃんを見ていてくれているのね。

 シャーロットちゃんは……。

 既に椅子に座って、焼き鳥を凝視中だ。

 どんだけ、好きなんだ。

 その肩に乗った妖精メイドのウメちゃんが楽しそうに見ている。

 四人が椅子に座る。

 物作り妖精のおじいちゃん、ぶつくさ言いながらも作ってくれたのだ。

 ありがたい!

「じゃあ、皆で食べよう」

と、両手を合わせて「頂きます」をする。

 ……訝しげな顔で見られた。

 イメルダちゃんが言う。

「サリーさん、何それ?」

「食前の挨拶だけど」

「いや、それをするなら愛の女神様への感謝のお祈りじゃない?」

「え~」

「昨日はバタバタしていて出来なかったから、しっかりやらないと」

 などと言いながら、三人はお祈りをし始める。

 なるほど、食前にもお祈りが必要なのか。

 わたしも国教の神たるママへのお祈りが必要かな?


 ま、その辺りは後日、考えよう。


 皆のお祈りが終わったので、改めて夕飯を食べる。

 まずはモモ肉にフォークを刺し、パクリと食べる。

 程よい噛み応えからの、口の中に広がる肉汁の旨味――うまぁ~

 続いて胸肉、モモよりさっぱりしているけど、きちんと旨味があって美味しい~

 我ながら、良い出来だ!

 皆も「美味しい~」「本当ね」と嬉しそうだ。

 特にシャーロットちゃん、凄い勢いで食べてる!

「シャーロットちゃんは、お肉が好きなの?」と訊ねると「うん!」と満面の笑みで頷いてた。

 イメルダちゃんが「ご令嬢にとっては余り自慢できることではないわよ……」などと苦笑しているけど、気にしないで良いと思う。

「いっぱい食べて、元気でいることは良い事だよ」

と言ってあげると、シャーロットちゃん、「うん、いっぱい食べる!」と嬉しそうにしてた。


 可愛い!


「わたしの下のお兄ちゃんも、鶏肉が大好きなんだよ」

という話から、大好きな兄姉の話をする。

 強くて頼もしいけど、お風呂嫌いな大きいクー兄ちゃん。

 優しくて甘い物が大好きだけど、悪戯が大好きな大きいケリーお姉ちゃん。

 穏やかで頭が良いけど、わたしが上の兄姉に甘えると嫉妬する小さいコル兄ちゃん。

 大好きな、わたしの家族だ!

 喋るのが上手とは言えないわたしの話を、ヴェロニカお母さん達は楽しそうに聞いてくれた。


 会ってみたいと言ってくれた!


 わたしも無性に会いたくなっちゃった。

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