第52話EXハンバーガーを作ろう上




 焼き肉屋の店長兼肉屋の店長が、安価で柔らかいステーキとしてハンバーグステーキを提供し始めて数日が経過した。


 久しぶりにハンバーグでも食べようと思って店に行くと、お昼時も夕食時も店長の店は、見違えるような人気店へと変化していた。


 店内のテーブル席は、仕事帰りと思われる冒険者達でごった返している。

 既に依頼クエストの報告を終えたいかにも、無頼漢ぶらいかんといった容貌ようぼうの冒険者達が、木製のジョッキを傾け麦酒エールを呷る。


 あるテーブルでは、冒険の成功を祝いジョッキを打ち付け、飛沫をまき散らし、互いに腕を回し杯を交わす。ある者は吟遊詩人ぎんゆうしじんのように、魔物の恐ろしさを雄弁に語り、それを撃破した己の偉業を褒めたたえ、ジョッキを片手に声高らかに、己が武勇を喧伝する者も居る。


 随分と人気店になったものだ。


 俺は懇意にしているためか、あまり待つ事無く奥のカウンター席に通される。


「いやぁー、正直助かりました。普段食べない部位ばかりを提供していたので正直言って余り店の評判が良くなかったんです。しかし、アーノルド様のお陰で看板メニューのハンバーグステーキが出来たんですが……御覧の有様で何とかなら無いモノでしょうか?」


 人気店になってしまった事で、店が捌けるキャパを超えてしまったと言った所か……


 残念ながら飲食バイトの経験は、ホールがメインでキッチン周りは少ないんだよなぁ……


「そうだな……持ち帰り用のハンバーグステーキでも販売してみてはどうだ?」


「確かにそれもありですが……食当たりを起こしてしまうと店の信用問題に繋がります。オマケに暖かい時期にはそんな事とてもできませんよ……」


「いいアイデアだと思ったんだけどなぁ……」


 元々食べないような肉の部位と、廃棄するようなクズ肉を再利用しているんだ。時間が立っていて痛みかけでも仕方がないか……


「持ち帰り出来るハンバーグ……持ち帰り出来るハンバーグ……」


 俺はうんうんと唸りながら頭を働かせる。


「そうだ。ハンバーガーなんてどうだろう?」


「ハンバーガーとはどう言ったものなのでしょうか?」


(あ、そっか……この世界にはドイツのハンブルグ市がないから、ハンブルグの丸いものハンブルガー・ルントシュトゥックなまってハンバーガーになる過程がないんだ。)


「簡単に言えば、バゲットサンドの類似品だ」 


「なるほど、調理済みの持ち帰り用の料理として提供しようと言う事ですか……」


「ああ、バンズと呼ばれる甘味や塩味が少ない丸い速成パンで、バゲットよりも柔らかいものを使うのが理想なんだが……まぁ今回は仕方が無いだろう……スライスしたパンに油……この場合はバターや食油……を塗り野菜とハンバーグを挟んで酢漬け野菜例えば、ピクルスとマスタードを塗れば、そこそこ美味い物が出来る」


 味覚が発達するような繊細な料理がないこの世界では、ハンバーガーみたいな世界一味覚音痴なアメリカ人が好むジャンクな味付けなら受けると思ったからだ。

 だがトマトが無いのが本当に辛いのでソースは、グレイビーソース系にする事にした。


「確かにそうすれば、今のお客様を捌けないのを変えられるようになりますね」


「ああ、味付けを濃く給仕達でも作れるようにしたいならソースでハンバーグを煮込めばいい。味が染みるし何時でも提供できる……そうだな信頼できる給仕に屋台が立ち並ぶエリアで売り子をさせれば儲かると思うぞ? ここと客層を別けるんだ」


「なるほど、捌き切れない客を分割して対処すると言う訳ですか……」


「そういうことだ。店を別ける事で回転効率を上げると言う訳だ。先ずは50食程度で試して見たどうだろうか?」


「ありがとうございます。やって見ます」


 こうして生まれたハンバーガーは、大ヒットし一日数百食売れるこの町の大人気屋台メシの代表格になるのは、まだもう少し先のお話……



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