第58話 安全地帯

058 地帯(セーフティーゾーン)


布の上からでもその胸の柔らかさを味わうことができる。

リーダーは無心でその胸を揉んでいた。


その時「リーダー、後ろ!」

ドンと殴られたような衝撃で吹き飛ばされる。

本当は、蹴り飛ばされたのである。

数メートルも蹴り飛ばされもんどりうつリーダー、下種1号。


「グ」リーダーは何とか立ち上がる。

巨大な人影が見える。

それは、光の少ないセーフティーゾーンでははっきりとみることはできないが、明らかに人外のものに見えた。そう、具体的には、ミノタウロス。その姿に見える。2本の角がシルエットになって見えるのだ。

しかし、ここはセーフティーゾーン、モンスターは入ることはできないので見間違いである。

そう見間違いに違いない。


「ば、化け物」他の者は皆そういっているが、そんなわけがあるものか。

ミノタウロスの影の横には、少し背丈の小さい、オーガのような影が立っている。

勿論、セーフティーゾーンなので、見間違いだ。

しかし、蹴られた事実は残る。

「何をする、俺らをプラチナ級冒険者とわかっているのか」と下種1号。


オーガのように見える影の横には同じくらいの背の人間がいた。

なぜオーガのように見えるのか、それは頭に一本の角がシルエットになり、生えているように見えるからである。


「俺を銅級冒険者だってことは知ってるだろう」人間の影が言った。

それは、冷酷さを含んだ声だった。


「なんだと!」

「確か、ここでは、何が起こっても誰も気にしないんだからよ、だったか」

「お前、まさか鉄級」


「確かに誰も気にしていなかったようだな。アンジェラ以外は」

「なんでここにいる」

「お前がそれを気にするのか?気にするな、俺も気にしていない」その宣言は別の意味に聞こえるほど冷えていた。


薄闇の中、三人が近づいてくる。

「仲間を連れてきたのか」

「仲間がいるとまずいのか?」


だが、それが近づいて姿がはっきりと見える。

「ミノタウロス、オーガジェネラル」

明らかに、それは、モンスターだった。

「馬鹿な!」


「馬鹿?誰にむかって言っているんだ」男の顔には皮肉な嗤いが張り付いていた。

「セーフティーゾーンだぞ、モンスターは入れないはずだ」

「馬鹿か?誰が決めたんだよ、そんなこと」


そういえば、永年冒険してきたが、セーフティーゾーンは安全だとならったことはあっても、なぜここにモンスターが入ってこないのかは、教えてもらったことはなかった。


「おい、こいつらをやるんだ」やっとリーダーは、通常に戻ってきた。

「だがフェイク、ミノタウロスとオーガジェネラルだぞ」

「馬鹿野郎、そんなの幻術の類にきまってるだろうが、セーフティーゾーンにモンスターは入れないんだよ」当たり前のこと。

そう、迷宮産のモンスターはセーフティーゾーンには入らない。


それは不文律。

しかし、あくまでも迷宮産の場合に適用されていたにすぎない。

幻術のモンスターは堂々とそのセーフティーゾーンだった場所にそびえ立っていた。

噴出されている殺気は、幻術には思えないくらいだとしても。


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