第56話 悪だくみ

056 悪だくみ


「まず、率直に言いますが、状況は最悪です」とアンジェラのパーティーリーダー。下種2号(と以下呼称)。


「これは、あなたたちが、宝箱の中身のほとんどを持って行ったせいです」と下種2号。

「当然だろう、俺たちが主力で戦ったんだ、しかも2人もやられた」と死神の鎌リーダー、下種1号(と以下呼称)。


「周りの見方は違います。明らかにラストアタックを取りに行って焦った結果です」

「ふん、その代わり40階層の転移装置の登録ができただろうが」


「アンジェラはおそらく、ギルドマスターに今回の事を、鉄級の事件を報告し、裁きを求めるでしょう」と下種2号。

「そんなものは無視できる。俺たちは、領主に呼ばれてきたんだ。ギルドマスターも忖度するはずだ。それに、あれは事故だ」と下種1号。


「周りの冒険者も鉄級野郎に同情はしないでしょうが、あなたたちへの不満から同調する可能性があります」と下種2号。


「で?」下種1号


「42階層程度なら進めるでしょう?」

「どういう意味だ」

「42階層まで進み、そこからドロンするんですよ、帰るには、40階層の転移装置まで、戻る必要がある。俺たちの中でも、42階層から40階層まで戻れる冒険者はすくない」


「お前、相当悪だな」と下種1号。どうやらその策略が気にいったようだ。

「いえいえ、ですが問題はミスリル製品です。領主からは再度命令が下る可能性がある」と下種2号。

「そのことなら、問題ない。そういう時のために、都で用意してきた」と下種1号。

何と、ミスリル製品をすでに隠し持っていたのである。


「もうあるんですか?」

「万が一の場合だ、ミスリルが割と出やすい迷宮があってな、そこの品を融通してもらったんだよ、今回の発端になったミスリル製品も多分そこのドロップ品じゃないか」


「私は、クランに加えてもらえますか」と下種2号。

「ははは、貴様ほどの悪人だ。十分権利はあるんじゃねえか」と下種1号。

「では、その決行の日の夜の飯に、薬を仕込みます。アンジェラをさらいましょう」

「お前、本当の外道だな」

「私が目をかけてやったのに、鉄級なんかを気に入っているのが許せないんですよ」

「だが、生きて返すわけにはいかんぞ」

「ええ、嬲り者にしてから、バラしましょう、ちょっと残念ですが」

「いいだろう、じゃあ42階層まで何とか進むか」

「そうしましょう」


それからの進撃は大変な苦労を伴うものになった。

オーガやオーク、オオカミ、さらには、ゴブリンスナイパー、毒蜘蛛など厄介な敵が待ち構えていたのである。


あっという間に、被害者が増大していく。

オーガは総合力、オークは腕力、オオカミは素早さで冒険者を危機に陥れた。

ゴブリンスナイパーは、暗闇に潜み一撃必殺の毒矢を撃ち込んでくる。

毒蜘蛛は天井などを移動し、立体的に攻撃し、しかも毒や粘着性の糸を撃ち込んでくる。

絡まれている間に、敵の増援が来ればすぐに窮地に陥る。


・・・・・

42階層のセーフティゾーン。

「もう限界だ、わかってるだろうあんたたちも!」街の冒険者チームの一つのリーダーが死神の鎌のリーダーにかみついていた。

「領主の命令で来ているんだぞ、貴様!」

「命令のために命を落としたくなんかあるか、もう何人死んだと思ってるんだ」

「こちらも、2人死んだ」

「あんたらは、ラストアタックを取りにいっただけだろう、しかも宝箱の中身をほとんど一人占めじゃないか」

「当たり前だ、俺たちが戦っていたんだからな」

「なんだと!」


「まあ、お前らのいわんとすることはわかった。今夜一晩考えさせてくれ」

「よく考えてくれよ」

「ああ、わかった」


人間の盾もそろそろ我慢の限界にきている。

そして、皆が疲労困憊している。

下種1号は下種2号に目で合図を送る。


作戦決行は今夜である。

ヤミガラスからの音声情報の報告を聴いていた男は、そう考えたのである。



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