第二章 巨大スライム討伐と一人目の嫁
第7話 対スライム その1
「いくぞ、アレクシィっ!」
「はい、坊ちゃま!」
二人は剣を構え、巨大なスライムと対峙する。
事故から目覚めて半年が経っていた。
ナルコシアとの婚約破棄から数か月、ずっと屋敷でふさぎ込んでいたが、やはり体を動かさないのは性に合わない。
ナルコシアを吹っ切るためにも、と思って領民から訴えがあったスライム退治を引き受けてみたが、そのスライムがここまで巨大だとは…。
領民が見てからも大きくなったのだろうか?
レインズは改めて、見上げるそのスライムの威容に驚愕する。
普通のスライムは脛位までの大きさで、大きくても膝か太もも、どんなに大きな個体でも腰までは大きくならないとされている。
実際、何度か討伐に出ているレインズも、膝までのスライムを数度見かけた位で、太ももまでのスライムなど見たこともない。
大方自分の手柄を誇張したい者のホラ話と思っていた。
スライムが巨大化出来ない理由、
それはスライムの体が軟体で、まるで液状であるためだ。
巨大な水状の塊を維持する程の膨大な魔力を、
数多のモンスターの中でも下等に分類されるスライムでは、とてもその身には蓄えられないから、と考えられているからだ。
だが、このスライムの巨体はどうだ。
レインズの腰はおろか、レインズの背丈を優に超え、見上げるその巨体は3~4mはあるだろうか…。
その巨大な水の塊がふよふよと揺れながら、レインズ達の前に立ちふさがる。
その巨体の中に考えられない大きさの核が漂う。
魔力量と核の大きさには相対性があるのだろうか?
「この巨体を維持できるという事は…恐ろしい魔力量だろう。」
「魔法に注意ですね…。」
「ああ…。」
魔法に注意すべき、というのは事実だ。
初手でこのスライムは巨大な水の塊を上空に吐き上げた。
結果、大量の水が辺りに降り注いだ。
今も霧状に辺りを包み、俺の火魔法もアレクシィーの松明も使えない。
そもそも、レインズの火魔法程度では、こんなサイズのスライムを蒸発させるなんて土台無理だが。
「幸い、スライムなのに核がデカい。」
「はい、剣でも斬れそうです。」
「問題は剣先が届くかどうかだが…。」
俺達は巨体の中を漂う大きな核を目で追う。
「剣先が届く場所まで核が来るのを待つしかないか…。」
持久戦は悪手だろうが…。
スライムが少し体を反らしたように見えた。
「来るっ!」
スライムの体から、レインズめがけて水の塊が吐き出される。
だがレインズはそれを華麗なステップで避ける。
「坊ちゃま、スゴイですっ!」
「アレクシィっ!」
レインズの華麗なステップに目を奪われていたアレクシィーは、自分めがけて放たれた水の塊に反応が遅れる。
レインズはアレクシィの元に駆け出すが、
「うわっ!」
ぬかるんだ地面に足を取られ、体勢を崩してつんのめる。
「くそっ!」
無我夢中でアレクシィを突き飛ばそうと、レインズは武器を持っていない方の手を伸ばす。
そう、あるはずのない左手をー。
アレクシィに伸ばした左手、肘先までしかない自分の左手が視界に入り、レインズは絶望する。
『届かないっ!』
自分の肘先の向こう、手があれば届いたであろう距離に立つアレクシィー。
彼女は自身の最後を悟ったのだろうか?
レインズに向け、彼女は人生最高の笑顔で微笑んだー。
「アレクシィーっっ!!!」
レインズが声の限りに彼女の名を叫んだ。
ーッズドンッッ!!!ー
「うわっ?!」
凄まじい轟音と共に辺りが眩しく光り、アレクシィに迫っていた水の塊が弾け飛んだ。
つづく
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