第三十六話 確認と証拠と違和感
ーーーー祐葉視点ーーーー
恵里菜と朔矢の看病をしてしばらく経つが、二人とも熱はかなり下がり、心なしか安定してきたように見える。
俺は貴船の言葉を思い出す。恵里菜と朔矢は襲撃されたのにも関わらず、何故か命を奪われなかった。それには一体何の理由があるのか...。
犯人そのものを見たか、あるいは重要となる大事な証拠的なのを見てしまったのか...。
「だとしても、それならより一層口封じに走るよなぁ...」
俺は考えがそのまま口からポロっと飛び出す。
結論が出ない考えに頭を悩ませているとーーーーーー
ガラガラガラガラッ!!!!!!
玄関の扉が勢い良く開く音が聞こえた。
俺が玄関へ行くと、そこには第一の事件で出会った勝気な女、北條きよかがそこに立っていた。
「...何の用だよ」
俺は朝の最悪な出会いのせいもあり、警戒心マックスで構える。
「アンタに用は無いわよ黒チビ」
「おいテメェまたそれを言いやがったな!!」
俺はあの場でキレたにも関わらず平気で呼びやがって...!神経図太すぎて身体貫通してそのまま地面に常に突き刺さってんじゃねぇのかおい...!!
「ワタシが用があるのは純平の方よ」
「ほぅ、純平に用かい。要件はなんだい?」
部屋の奥から俺たちの話を聞いていたのかキエさんがゆっくりとこちらに近付く。
「単刀直入に言うわ。純平は今日一日何してた?そしてその行動を証明出来る人はいる?」
きよかはまるで問い詰めるかのように迫る。
俺とキエさんは純平の行動を把握しているので質問の答えなど言うまでもない。
「純平なら今朝何者かに襲撃された俺の仲間を朝からずっと診てるよ。それも二人以上でな。今日一日純平が一人になった瞬間なんてねぇよ」
「そう...、なら振り出しかしら。アテがハズレたわ」
そう言って身体の向きをクルッと回転させ去ろうとしたその瞬間、俺の背後からとてつもなく黒く、寒く、重く、恐怖なんて言葉一つでは片付けられない程の空気が、ナイフでも投げるかの如く、きよかに目掛けて放たれた。
「もっと直接的に言ったらどうなんだい?」
振り返らなくても声の主は誰か分かる。その声は真意を隠せない程の怒りと殺意に包まれていた。
「純平を疑ってるって事なんだろう?きよか」
「当たり前でしょ?今日一日、この集落で姿を見せなかったのは純平だけなんだから。疑われて当然よ」
んっ...?姿を見せてないのは純平だけ...?俺たちは今日一日姿を見ていないのは牛峯さんのみだ。逆にきよかは牛峯さんに会ったって事か?
「おい待てきよか、逆に牛峯さんとはどこであったんだ!?」
「気安く名前で呼ばないでくれる?」
「名前で呼ばなきゃ判別出来ねぇだろうが!兄弟は名前で呼ぶのが定番だろ」
「だったらその通例を破ってやるわよ黒チビ」
「テメェまたそれを!!」
俺をイラつかせて
「んで?牛峯さんに会ったのはいつなんだよ?」
「宍戸さんの遺体を見つける前よ。ワタシたちが宍戸さんのとこに行く前に光さんの家は通ってるから、そこで見かけたのよ。話はしてないけどね。その後キエさんに送ってもらった時に微かに気配は感じたから、いたって確信してるわ」
なるほど。2回も見てるなら、今日になって一度も見てない純平を疑うのも無理は無いか。
「だけどちょっと引っかかることがあるのよね」
「何がだ?」
「光さんは居たのに、古賀さんの気配が全く無かったのよ。普段だったら近くに絶対いるはずなのに」
「ストーカーを日常に捉えてて良いのかよおい...」
俺は古賀さんのストーカーを住人が受け入れている現状に頭を抱えた。
「まぁでも古賀さんなら陣外さんの遺体を降ろす時にいたぞ。晴樹と一緒にな」
「ふーん、珍しいこともあるもんね。古賀さんが光さんの
俺たちが話していると、キエさんが「もう用は済んだか?」ときよかを半ば追い返す形で帰るよう促した。
「とりあえず解決したい事はハッキリしたからもういいわ。バイバイ黒チビ」
「テメェ!!!!!!」
俺の注意を聞く様子も無く、きよかはキエさんの家を後にし走り出していたーーーーーー
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