第48話  アグニエスカと戦場

 裁判の判決により、戦地へと送り込まれることになった私は、ジョアンナおばさんと従弟のヤンと共に、まずは本部に行くことになったってわけです。


 意味不明な判決により私たちは戦地に飛ばされたわけだけど、作戦本部があるソポトに到着した時には、現場は大パニックとなっていた。


 何せ、今まで何百年と上空にかかり続けた王家の結界が消失した為、その事に気が付いた敵国が上空からの襲撃を行うのは簡単に予測が出来たから。


 大魔法使いがすでに行方不明となっているのは西部の作戦本部にまで届いていたようで、

「貴様らスコリモフスキ家が勝手に結界術を解いたから、王家の結界術まで消失する結果になっただろうが!」

 将校の一人がこちらに向かって怒りの叫び声を上げた。


 今までスコリモフスキ家は子爵位でありながら特別であり、不可侵の存在だったはずなのに、私たちは裁判で裁かれることによって、磐石な地位から失墜するという結果を導いたわけ。


 今まで崇め敬うような存在であったとしても、罪人相手だったら何を言っても問題ないだろう、そんな風に考える輩が出てくるのは、簡単に想像出来たこと。


「まあ!わざわざ敵国と戦うために国境まで出てきてやったというのに!こんな反応される位だったら!亡命しちゃえばよかったって事かしら!」


 ヤンが私の手を握ったのを確認すると、ジョアンナおばさんは気絶しない程度の威力で、電気をバリバリと音を立てさせながら幕内の中に駆け巡らせていく。


 気絶しないといってもビリビリペンを常時握らせられているような状態だから、無茶苦茶痛いんだろうな〜とは思う。


「貴様!何をする!気でも狂ったのか!」

「軍法会議ものだぞ!死にたいのか!」

「化け物!」

「や・・やめて・・・」


 ジョアンナおばさんの電気の威力がどんどん強くなっていくため、最初は勢いがあった怒声もすぐに消え入るようになり、最後には全員が床に転がった。


「アグニエスカ!」

 おばさんがこちらを見るので、倒れた全員の痛みを一旦取る事にした。


 こちらで言う魔法っていうものを一切使うことが出来ない私だけど、痛みを取ることは出来るのです。


 イエジー殿下との実験の結果によると、病院のワンフロアー程度だったら、すぐさま痛みを最低限取ることが可能。電気で痺れて倒れる人たちの痛みを一気に取ることも一応は可能なわけです。


「忘れている者も居るのかもしれないから、一応言っておこうかしら。ルシタニア王国陸軍、魔法部隊所属、元千人隊長、ジョアンナ・スコリモフスキ、最終階級は少尉、雷帝の名を賜っていた者と紹介しておこう」


 ジョアンナおばさん、貴族夫人そのものの格好で作戦本部を訪れたんだけど、全身に電気の帯を纏わせているものだから、めちゃ、雷帝様って感じだよー。


「こちらが息子のヤン、氷魔法と結界術に長けており、東のスタンピードを抑えた要として、近々、表彰される予定だった。そしてこっちの美人がアグニエスカ、私の姪という事になる。この年若い姪っ子が軍部内の男どもに蹂躙され、残酷な目に遭ったなんて報告を受けたくはないという事を、一応、説明しておこうか」


 ジョアンナおばさんがこっちに目線で合図をするので、消失したように見える電気で受けた痛みを、最大限に増大するように意識すると、


「ギャーーーーーーーッ!」


 叫び声をあげながらバタバタ人が倒れる。あら、やりすぎちゃったかしら。


 おばさんが優雅に手を挙げたので、痛みを最低限に抑えると、

「知っての通り、アグニエスカは痛みを調整する特殊能力持ち主だ。身を持って理解すれば、変な気を起こす事はなくなるかしらぁ、と思って実践してみましたのよ〜」

 と言うと、おほほほほほ〜とおばさんは笑った。


 最初の威嚇が功を奏したのか、それとも、後からやってきた大佐とヘンリクおじさんが上手いことフォローしてくれたからなのか、とにかく、自己紹介が無事に終わると、おばさんとヤンはおじさんと一緒の魔法部隊の方へ配属される事になってしまった。


 多くの魔力を持つ人間は魔法使いとして登録後、魔法省に勤めることが多いけど、雷属性の魔力を持つ人間は、魔法省ではなく軍部の魔法部隊の方へ配属される事になるらしい。


 ライフルとか大砲とか、飛空艇なんかが開発されている世界なので、魔法と近代兵器を合わせて使った魔獣討伐や、国境紛争の鎮圧なんかが行われているらしい。いざ戦いとなると、魔法使いと軍は協力して事にあたるそうです。


 軍部の中にある魔法部隊は、魔法省より派遣された魔法使いと混合部隊を作り魔法に特化した攻撃を展開していく事になるそうなんだ。東の森での魔獣討伐の作戦中に、軍部所属のジョアンナおばさんと魔法省所属のヘンリーおじさんが一緒に戦って愛を深めたっていうのは有名な話らしい。


 ラブロマンスっていうよりは、

「あの雷帝が・・・」

 で、言葉が詰まる。なんか、詳しく言わなくても良くわかる気がします。


 痛みのコントロールしか出来ない私は最前線ではなく、後方の衛生班に所属する事になったんだけど、まさか、こんな事になるとは思いもしなかった〜。


 イエジー殿下に呼び出された時に、離宮まで案内してくれた魔法師が、

「無礼者、そなたのような者が気軽に口をきいて良い方ではないのだぞ!」

 と言って私の頭を鷲掴みにして、床に押し付けるのかっていうくらいの低さまで下げさせた。


「ゲンリフ、お前もう帰っていいよ」

 本当にうんざり、という感じで殿下は手を振りながら、

「もう来なくていいから」 

 と言われて殿下に解雇された魔法師が私の上司となるらしい。


「衛生班の統括を任せられているゲンリフ・ヤルゼルスキだ。今後ともよろしく」


蔑むような、こちらを憎悪するような眼差しを向ける、中年の太ったおじさんへ、

「お前、もしもうちの姪っ子に虐め紛いの事をしてみろ?軍部のあらゆる手段を使ってお前の一族郎党、全て抹殺してやるからな?あ?分かっているよな?」

 と言って、ジョアンナおばさんが電気をバチバチさせながら威嚇してくれたけど・・・


「もちろん、私は王国一の治癒師を自負しております。王宮から国境へと働く場所を移す事とはなりましたが、公平に物事を判断させていただく所存にございます」


 ゲンリフは雷の威嚇に物怖じせずに、慇懃無礼って感じで頭を下げる。


 殿下の所でクビになるきっかけとなった私を決して許さないゲンリフが、私を目の敵にし続けたのは言うまでもない。

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