第47話  アグニエスカとガゼタ新聞

 私が無いこと、無いこと、噂され、最終的には私の所為で全てが悪い方向へ進んだ末に、裁判まで起こされた結果、ひいおじいちゃんが、マリアおばあちゃんと使用人さんも含めて引っ越しを強行することにした。


 超高齢魔法使いであるひいおじいちゃんは、裁判まで起こして、捏造された証拠を並べたてて、最終的には都合よく家族を戦地に送り出した王家のやり方に激怒した。


「とりあえず、今の王家には見切りをつける事にしたからね!」


 この世界には魔石を使った電話があるんだけど、田舎町のポズナンには郵便局と役所にしか置いていない。


 そんなわけで、念話っていうのかな、短い通信のやりとりは家族間で出来るらしいんだけど、とりあえずそれを使って、マリアおばあちゃんから決定事項が申し渡される事になったのです。


 巨大な魔力を持つスコリモフスキ家は、いつでも王家から逃げ出す事が出来るように、何代も前から世界各地に避難場所を作っていたらしい。


 世界中から、大魔法使いを慕った人たちがお客さんとして訪れていたけれど、その中には避難所の管理をする人間も紛れていたそうです。


 とりあえず一度、ヴォルイーニ王国の魔の森の中にある別荘に避難して、のんびりしながら国の情勢を見た後に、待遇が良い国を選んで、再度、引っ越しをする予定となるそうだ。


 この世界には転移魔法なるものがあり、私とおばさんとヤンの三人は、判決を受けた翌日には、王宮にある転移魔法陣を使って、西部最大の都市ビドゴシュチに移動する事になった。


 私は一切の魔法が効かないのだけど、古い転移魔法陣は古代竜の力を使ったものなので、私も利用が出来るみたい。


 王宮の魔法陣は人を五人まで運ぶことが出来るけれど、ひいおじいちゃんは自分の魔力を使った魔法陣で、家の中の物全てを引っ越し出来ちゃうほどのチートを発揮出来るらしい。


 みんなが気がつかない間に引っ越しを済ませたために、ポズナンの家はもぬけのからとなってから、ブラス州の上空から大魔法使いによって施された結界の幕が消失する事になったの。


 ひいおじいちゃん消失と共に、王国全土を覆っていた結界も消失。イエジー殿下曰く、

「大魔法使いが影ながらかけてくれていた補助魔法が消失したら、呪われた僕が施す結界術など泡と消えてしまうのは仕方がない事ですよ」

 という事らしい。



 大都市ビドゴシュチから西に更に進み、国境から50キロ離れた後方支援の拠点となる街ルミア。


 私がここに来てわかった事だけど、西の隣国ルテニアでは今、国民による反乱や蜂起活動が無数に湧き起こっているらしい。


 イエジー殿下が呪いにかけられ、これをチャンスだと判断したルテニア王は、ヴォルイーニ王国に宣戦布告をする事になったんだけど、ほぼ、王様の思い付きによる行き当たりばったり的な感じで始まった戦争なので、自国の資金集めでヘマをやらかしたそうなのです。


 先代のルテニア王は、自国の魔法使いの出生率の低下に危機感を抱いて、近代兵器の開発に多大な資金を投じる事にしたんだけれど、国庫は見る間に目減りしていって現在の王家のポケットマネーはかなり少ない。


 そのため、ヴォルイーニ王国の国土をルテニア貴族に切り売りする事を前提として、戦争資金をかき集める事にしたのだけれど、そこで1番の割りを食うのは国民だった。


 上がる税金、無理やり強行した徴兵による人手不足、人員不足を理由にいくつもの工場が閉鎖をしていく中で、軍需工場にだけは資金も人も投入し続けた。


 今まで魔法を使っての戦争が主流だったこの世界で、近代兵器を使って魔法大国ヴォルイーニを打ち負かす事が成功ですしたら、きっと世界が変わるだろう。多くの国がルテニアに注目し、各国がルテニアの兵器を買い漁る事になるだろう。


 勝利後の兵器特需を見込んで、王家はジャブジャブ金を投じる事になったものの、いざ戦ってみれば、飛空艇が一機墜落するだけで街の運営費半年分に値する資金が弾け飛ぶ。


 魔法使いが一人亡くなれば、悲嘆に暮れた家族が葬式をだして、慰労金としていくばくかの金が発生するだけの事だったのに、近代兵器を使用した戦争では、戦死した兵士の慰労金プラス、壊された兵器の多額の費用が上乗せされる。


 肥沃な大地が広がるヴォルイーニ王国を占領すれば確かに美味しいことこの上ないが、戦争費用と占領地のうまみを見比べて考えるに、ヴォルイーニ王国を滅ぼしても借金だけが残るんじゃないかと言い出す者も増えてきているらしい。


 ただしルテニア王にとって、近代兵器で魔法大国に勝利するというのは最大の悲願でもある。将来の経済不安や国民感情悪化の懸念よりも『なんとかなるよね』という共通の認識のもと、トップの決定は絶対が大前提、あとは愚鈍で蒙昧な選択が行われていく。


 それはルテニアだけに留まらず、我が国ヴォルイーニだって同じこと。


 自国の危機であるというのに、最大の戦力である大魔法使いとその一族を、意味不明な罪状を並べたてた上で、罵り、侮辱をし、嘲笑を浮かべながら足下にして、くだくだとくだらない事を並べた後に、

「こちらの言う通りに敵兵を殺してこい」

 と、命じるだけ。


 不可侵とも呼ばれた身分の人間を自分よりも下に見る事で浸り込む優越感。王家と貴族院が世界の全てであり、それ以外は、主人に追従し意のままに働き続ける蟻程度の存在。


 もうちょっと昔だったら、トップの意のままに進める事が出来ただろうけれど、

「ねえ!アグニエスカ!ガゼタ新聞見た?アグニエスカの事が書いてあるよ!」

 やっぱり世界を動かすのはメディアの力だよねえ。


 パスカ家を追い出された私はガゼダ新聞社で働いていたんだけど、王国から結界がなくなって数日後、ガゼダ新聞が連日のスクープを発表。


 それは、実際に私と働いていたスタッフを重点的に取材したもので、そもそも、貴族街での破壊行為は本当にスコリモフスキ家が行ったのか?という流れで取材が進んでいっている。


 実際、コロア王国の貴族別邸とやらは火薬を使って爆発させているし、数人の魔法使いを使って氷の魔法を行使しているから、詳しく取材をしていくと、怪しい証言がポロポロポロポロ出てくる、出てくる。


 コロア王国まで出てきて、誰がヴォルイーニ王国を滅ぼそうとしているのか?と言う形で帰結しているから、次が待ち遠しくて仕方がない。


 辺境の街ルミアに届くのは三日遅れの新聞になるけど、内容が内容だけに、みんな、奪い合うようにして読んでいる。


 国境で一生懸命戦っているけど、国の中枢に祖国を滅ぼそうと考えている奴が居るのだとすれば、ここで戦って死んでも完全なる無駄死になる事が決定するわけで、決して他人事にしてらんないっ感じなんだよね。


「アグニエスカ、これで裁判が見直されて、王都に帰ることが出来るかもしれないよ?」


「うーーーん、そうなったら嬉しいんだけど・・・」


「罪人相手に何を言っているんだ!そんな事になるわけがないではないか!」


直属の上司であるゲンリフ・ヤルゼルスキが突然、大声を挙げた。

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