第34話 王都追放を企む
ヴォルイーニ王国の第二王子であるユレックは、大魔法使いの一族であるスコリモフスキ家の人間を、隣国ルテニアの国境線へ送り出してしまいたいと考えていた。
使うならアグニエスカの異母妹となるエヴァを使うか、幼馴染のナタリアを使おうか、どちらにしようか迷ったけれど、最終的にはナタリアを使う事に決めた。
ポズナンに居るマリア・スコリモフスキが、王都で貴族相手に好き放題に暴言を吐いているナタリアを許すはずもなく、ポズナンの村長である父親から今すぐ帰ってくるようにという手紙が届いたということで、
「前にも大魔法使いを怒らせて、ポズナンの街から結界を消したなんて騒動が起こったのね?しかも、私が王都で話している内容も気に食わなかったみたいで、お父様の所へクレームが来たみたいなの。私は王都から戻ったら、20歳も年上の人の所へお嫁に行って、二度とスコリモフスキ家には迷惑をかけないって詫び状を書かなくちゃいけないらしくって・・」
いつものカフェでユレックの目の前の席に座ったナタリア・ネグリは涙をこぼしながら言い出した。
「私はポズナンに戻りたくないし、お嫁にも行きたくない。私は本当のことしか言っていないのに、詫び状なんて書きたくない」
彼女の話は確かに事実を元にした話だっただろう。実際にアグニエスカがポズナンに戻ってからというもの、彼女の伴侶になろうと考える若者が続出し、婚約破棄や恋人と別れて交際を申し込もうと考える人間がたくさん現れた。
ナタリアはアグニエスカを貶めようという意思から、彼女の所為で恋人と別れなくてはいけなかった女性がいた、本当に可哀想だったと主張しながら、迂遠的な言い回しを使って彼女が性悪な悪女なのだと主張する。
そのうちに真実と嘘を混ぜ合わせて、より刺激的な話にすれば、周りは存分に楽しむことが出来るのだ。
スコリモフスキ家は不可侵な存在。噂にするにも危険を伴うというのに、アグニエスカの幼馴染を主張するナタリアは、何の躊躇もなく禁忌に踏みこんでいく。
さぞや高位の貴族夫人たちの嗜虐的な心を刺激して、面白い見世物となって楽しませたことだろう。
彼女のお陰でアグニエスカの噂話は面白おかしく貴族家界隈に広がり、果てには平民の間にまで浸透し始めている。『スコリモフスキ家のひ孫の話を聞いたかい?』と、頭から始まるやつだ。
「君は真実しか言っていない、だったら間違っているのはスコリモフスキ家という事になるよね」
ユレックは憂い顔を意識して作りながらナタリアに語りかける。
「魔法の大家だか何だか知らないけど、隠れた権力を使ってナタリアの将来を乱暴に決めてしまうのは横暴以外のなにものでもないよ」
「私、スコリモフスキ家の所為で知らない年上の男のところに嫁ぐのよ!」
「だったら、スコリモフスキ家に権力を持たせなければいいんじゃないかな?」
「ええ?どういうこと?」
「魔法の大家という身分を剥奪されたらどう?大きな失敗を犯して戦地送りとなったらどうなると思う?」
「え・・・」
ナタリアは美しい顔をぽかんとさせながら、
「わからない」
と、言い出した。
「大丈夫、とっても簡単な事をするだけでいいんだ」
ユレックが言った通り、叔母の家では大人しく暮らしていたナタリアは、
「ポズナンに帰る前に、アグニエスカに直接謝りたい」
と叔母夫婦に訴えた。謝罪の手紙を何枚も出して、足繁くスコリモフスキ家のタウンハウスを訪れる。
ここでポイントなのは、衆目の中で、謝りたいという意思を示すこと。おそらくスコリモフスキ家はナタリアを無視するだろうし、直接会って謝るなんて事は出来ないかもしれないが、そうなっても、近隣住民に、毎日のように若い女の子が謝罪をしに来ていたという姿を見せるだけ効果がある。
マルツェル・ヴァウェンサが東の森から帰ってきて、愛しのアグニエスカと接触を図ろうとした時には、きっと何かが起こるだろう。
案の定、第一王子の離宮からいつもより早く帰る事となったアグニエスカは、家の前でナタリアと鉢合わせをして、謝罪をしたいし、カフェで奢りたいとナタリアが訴える。
ナタリアを警戒しているジョアンナ夫人は二人と一緒にカフェへついてくるだろう。
スコリモフスキ家の代々の女主人は特殊なアンクレットを身に付けている。
遥か昔に王家から下賜された貴重な魔道具で、アンクレットに埋め込まれた魔石を破壊すれば、対となった指輪が反応をして、アンクレットを所持する主人の所まで転移魔法を使って移動させる事を可能とする。
「ねえ!ねえ!アグニエスカ!王都でも評判のおいしいカフェを見つけたのよ!ケーキが美味しくて有名だから!私が奢ってあげるから行きましょう!」
貴族街の中に新しいカフェが出来たと言って、途中で馬車をおりたナタリアは、二人を連れて坂道を登った。
注目すべきはマレック・モーガン、アグニエスカの元上司で新聞社で働いていた男が、どんな活躍を見せてくれるだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます