第36話 龍零
ととある隔絶された絶海の孤島
その島に一人の男が降り立った。
島の中心にそびえ立つ、名もない活火山からは煙が絶え間なく流れている。
その火口に彼は立っていた。
彼はあたりを見渡し、一つの洞窟を見つけ入っていく。
とても普通の人間では耐えられないような熱さの中を平然と奥へと進む。
大迷宮のような複雑な洞窟の最深部まで行くと溶岩が流れる広い空洞にでる。
そこに1匹の龍がいた。
竜ではない。
目には知性を感じさせ、対峙したら心の奥底まで見透かされるような、とても思慮深い眼差しだった。
体の鱗はところどころ剥がれ、傷つき、若い龍であれば瞬時に回復するような傷も、もう治すことはない。
治すことはしない。
眺めているだけで長い年月を生きた龍だということがわかる、とても古い龍だ。
来訪者を前にその龍は低くうなり声をあげる。
「久しぶりだな、親父殿」
瞬間、竜は来訪者に向かって咆哮する。
と同時に龍紋が空中に八つ現れ、光り輝く。
そして龍本体も光り輝き、光が収った時、そこに一人の龍人が、年老いた龍人が立っていた。
「……りゅ……龍零……か……」
「大丈夫か?」
「ああ……この姿になるのもいつ以来か……何をしに来た」
「……異世界召喚に、成功した」
「!……そうか……呼び出してしまったか……」
龍帝国・龍帝、龍零は代々龍帝しか入れぬこの禁断の島に来た理由は父に会うためである。
龍人の寿命は大体三百年ほどであると言われてる。
しかし、それ以上生きることがある。
龍として。
龍人はその生の大半を人の姿で過ごす。
龍の因子のおかげで龍の姿になることもできる。
しかしそんな長い時間、龍の姿にはなれず、1日もしたらいずれ人の姿に戻ってしまう。
それが三百年過ぎると逆転する。
今度は龍の姿で過ごすことの方が自然となる。
ほとんどの者はそうなる前に寿命を迎えるが皇家など龍紋を多く持つ者はこのように龍の姿が自然になった時、国を離れ、この隔絶された島を終の棲家として移住するのだ。
そのまま自然に朽ちて大地の一部と化すのを望むように生きる。
龍人も龍もこの世界では超越者である。
龍零の父ほども生きると時を超えることもできる龍となる。
しかし、もう思考はただただ自然と一体であることのみを望む。
人の世に興味はないのだ。例え龍人がみな滅びようとも、だ。
なんでもできるがなんにもしない、ただあるだけだ。
「これからどうなるかはわからん。ただそれだけを伝えに来た」
「異世界人を呼んでどうする?」
「どうもせんよ。古くからの国家事業だからやめることが出来なかった。そうしたら成功した。それだけだ」
「異世界人はどうしてる?」
「最初は戸惑っていたが今はこの世界に順応してるみたいだな」
「ならばよい」
「それがそうでもなくてな、一度死んで炎龍様が水龍様、雷龍様のお力をお頼みもうした」
「!!なんと!! ……それは……そうか」
「今、異世界人はその体に龍の因子を持っている」
「ふふふ、もう驚くことなどないと思っていたが今日は驚くことが二度もあった。なんと良き日よ」
そう言って古き龍人はまた龍の姿に戻り、地にうつ伏せ、目を閉じた。
「……今日は帰るか」
そうして龍零は幾重にも結界の張られたその島を後にした。
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