第71話 戦火
グローム軍との最終決戦に向けて、俺たちはまずヤツらの出鼻を挫く作戦を立てた。
前回の戦いを見る限り、指揮系統が脆いという弱点が露呈しているので、そこを突くためにもまずは動揺を誘う動きを見せようということになり、このような作戦を立案したのだ。
まず、グローム軍を誘いだす陽動部隊が前に出る。
彼らの動きをキャッチした敵側の兵士たちはすぐに本隊へ報告し、そこから本格的に討伐部隊を送り込んできた。
とはいえ、これはまだほんの序の口。
あくまでも戦力の分散を目的としており、本隊撃破はまずこの討伐部隊を成敗するところから始まる。
問題はエクルドや魔境からの援軍がどれほどで到着するかだが……この辺は不透明ではあるものの、いざとなったら頼りになる存在となりそうだ。
さすがにここまで見え透いた陽動では、グローム軍もそう簡単にトラップのある場所までやってこないだろう――そう思っていたのだが、ヤツらはあっさりとこちらの罠にハマって大パニックに陥っている。
「随分とあっさり引っかかったな」
「兵士としての経験値が足りなすぎるのでは?」
リリアンの指摘通りだと思う。
迂闊とか油断とか、そういうレベルじゃない……単純に、経験不足から来る判断ミスだと思われた。
……兵士の数は多いものの、熟練度自体は低そうだ。
そういえば、スレイトンが何人か引っ張ってきたみたいだし、元から正義感の強かった騎士たちはグロームのやり方に嫌気がさしてこちらに合流したのだろう。
相手の戦力があっさりと削がれたことで、最初は誘い込むための罠ではないかと疑ったが、その後の敵の動きを注視していると、どうやら本気でこちらのトラップ魔法にかかったようだと確認できた。
さらに、戻ってきた陽動部隊の兵士から、新しい情報がもたらされる。
「相手の陣営にタイラス王子の姿を確認しました」
「タイラス王子が?」
最前線にタイラス王子がいる――真っ先に「なぜ?」という疑問が浮かんだが、恐らくは聖女カタリナの神託が外れ続けたことで、国民だけでなく王家全体から不信感を持たれている彼が、大逆転を狙ってこちらに参戦したのではないか。
それでも、かなりめちゃくちゃな賭けだと思う。
彼自身が現場に出てきたところで、兵士の士気が上がるとは思えないが……本人としては手柄をより強調するために現場入りしたってところかな。
だが、こちらからすれば好都合だ。
ここで直接あの男に魔境へ近づかないように迫る――それができれば、これ以上戦火を広げずに戦いを終息させられる。
【ホーリー・ナイト・フロンティア】のゲーム内におけるグロームの印象は「地味」のひと言に尽きる。
でも、俺が予言者としていろいろと中身を改変してしまったから、彼のような行動に出る者が誕生したのかもしれない。
これは……知識を使って攻略する際に気をつけるべき事案だ。
原作内容を改変しすぎると弊害が起きる――今後はそのことも考慮して、ゲーム知識を生かしていかなければならないな。
さて、そうなれば手っ取り早く済ませてしまうのが一番だろう。
向こうの戦力や士気はガタガタだ。
ここが……総力戦を仕掛けるには最高のタイミングになる。
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