第42話 成長する魔境村

 魔境村での生活が始まって一ヶ月が経とうとしていた。

 その間、俺はリドウィン王国と友好関係を築き、ダンジョンから採掘される魔鉱石の見返りとして、村の発展に大きく貢献してもらっている。

 当の村については、順調に人が増え続け、気づけば五十人以上が居着いていた。

 中には職人や商人ではなく、グロームのやり方に嫌気がさして王都を抜けてきたという一般人も含まれている。俺は彼らにも住居を提供し、王都でやっていた商売がある人にはそのまま仕事を続けてもらい、それ以外の人には農業に従事してもらうことにした。


 実際のところ、この辺りは近くに川が流れていて水も豊富にあるし、農業に適した土壌だと言える。広大な平野があるので、畜産も可能だ。


「牧場づくりも視野に入れるか……」


 リリアンを連れて農場予定地を訪れた俺は、有り余っている土地を見て呟く。


「名案ですね。これから人もさらに増えるでしょうし、仕事をする人手は十分にあるでしょうから」

「希望者に加えて、経験者がいてくれると助かるんだけどなぁ」


 あくまでも理想だが、いてくれたら本当に助かるんだよなぁ。

 野菜づくりと畜産ではノウハウが全然違う。

 前者は経験者が多いものの、後者は従事者がいない。一応、知識のある人が中心になって牧場の建築計画を進めてはいるが……こればっかりは今後移住予定だという人に期待するしかなさそうだな。


 一方、ダンジョン組の活動も順調だった。

 リドウィン王国調査団の目的は魔鉱石のため、ダンジョン最奥部までは足を踏み入れていない。

 しかし、最近になって現役冒険者だという移住者も加わり、ダンジョンの全貌把握が急ピッチで進められている。

 彼らからの報告も受け取ったが、もう少し詳しい内部の情報が判明すれば、ギルドを設営して運用できるのではないかと提案された。

 本来、ダンジョンはその領地を治める国が運用することになっており、ギルドを国が直轄しているところも少なくはない。ただ、そうなった場合、ギルドの管理運営は俺がやることになるのかな?

 可能ならば、優秀で信頼できる同業の冒険者に委託したいが……そんな人材はそう簡単に見つかりはしないだろう。

 とりあえず、ダンジョンの本格的な運営は当分見送りだな。

 もちろん、まったく可能性がなくなったわけではなく、俺が任せられると判断した人がいれば、話を進めていきたいと思っている。


 ――と、まあ、この辺りがここ数日の間に大きな比較的な大きな出来事か。


 人口は増えつつも、まだ産業面はほとんど機能していない。

 だが、移住した時から準備を進めてきたダンジョン内で手に入るアイテムの売買や畑の野菜はなんとか形になりそうだ。


 リドウィン王国とは今のところ魔鉱石のやりとりだけにとどまっている。

 だが、これからはもうちょっと商売の幅を広げていきたい。

 そう考えた俺は、屋敷へと戻って地図を広げた。


「あれ? エルカ様? 何かあったんですか?」


 家事をしていたヴィッキーも加わり、俺は今後の方針について考え始めた。


「これから新しく取引をはじめる国を決めようと思ってね」

「それは素晴らしい! ――ですが、候補はあるのですか?」

「いくつかは、ね」


 相手国が信頼できるのか。

 魔境村との距離はどれほどあるのか。


 こちらが提示する条件はいろいろとあるが、特にこのふたつは重視していきたい。


 さて、肝心の交渉する国選びだが……ここでも、俺の予言――いや、前世の知識がとても役に立つ。

 広げた地図に書かれている国々の名前から、聞き覚えのあるものをピックアップ。基本的にすべて知っているのだが、中でもイベントなどで重要な意味合いを持つ、将来性豊かな場所を絞り込んでいく。


 そんな中、俺はある国に注目した。


「エクルド王国か……」


 地図で見る限り、それほど大きな国ではない。

 それに、リリアンやヴィッキーも「そんな名前の国あったっけ?」といった感じに顔を見合わせている。

 ……現段階では、ふたりの反応が正しい。

 だが、【ホーリー・ナイト・フロンティア】内で起きる季節限定イベントにおいて、この国が抱えるある問題を解決すると劇的な成長を遂げる。

 ゲームでは主人公と仲間たちが協力して解決する問題であるが、それを俺たちで解決することができれば……エクルド王国とのつながりを深められる。


 ――とはいえ、やはり一度エクルド王国へ出向いてみる必要はあるか。

 これまで、すべてがゲーム内の設定どおりに運んでいるが、ここで急にまったく違う動きを見せるって可能性も捨てきれないからな。用心にこしたことはない。


「よし。明日にでも、エクルド王国へ向けて遠征しよう」

「そ、即決ですね」

「思い立ったらすぐに行動するのが俺だからね」

「確かに……」


 ヴィッキーはすんなりと納得してくれた。 

 もちろん、リリアンも最終的にはこの案に乗ってくれる。



 こうして、魔境村をさらに発展させていくために俺はエクルド王国へと出向くことにした。

 まだヌシ問題もすべて解決したわけではないが……まあ、今回は様子見という面もあるわけだし、気軽にいけばいい。


 この後、俺は遠征に同行を依頼するメンバーを決めるため、自室へと移動。

 大体の顔触れはすでに決めているので、夕食時にでも声をかけておくとするか。

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