第27話 大臣との話し合い

 リドウィン城の王の間――そこで俺たちを待ち構えていた国王陛下は、優しげな表情が特徴的な老紳士だった。


「連絡は使いの者が知らせてくれたが……君があの魔境で村をつくろうとしている若者か」

「は、はい。エルカ・マクフェイルと申します」

「エルカ……使者からその名を聞いた時、まさかと思ったのだが、君がその名を轟かすあの予言者か」


 なんと、リドウィン国王は俺を知っていたようだ。

 ……って、そういえば、イベーラたちも俺のことを知っていたな。グロームからは距離もあるため、さすがにこちらまではと思っていたが、まさかここまでとは。


 だが、こちらを知っているとなると、当然思い浮かぶ疑問がある。


「近年になってグローム王国が急成長できた陰には、予言者である君の活躍が欠かせなかったと聞く。輝かしい功績を持ち、今後もグロームの未来を託されていると思っていたのだが……なぜそんな君が魔境へ? これもまた予言なのか?」


 この話題に入ると、国王の優しい表情が一変して険しいものとなった。

 国王陛下が気になっているのは……俺とグローム王国のつながりだろう。

 変に手を出して大国であるグロームを敵に回すようなことは絶対に避けたいだろうし、返答次第で今後の対応が大きく変化する――と、俺は見た。


 なので、


「いえ、今の私はどこの国にも属しておりません。あの魔境にいたのは、グロームを追放処分になったためです」

「つ、追放!?」


 これには国王陛下だけでなく、側近の大臣や護衛騎士たちも驚きの声をあげた。ちなみに、リリアンとヴィッキーは無言のまま何度も頷いていた。


 ……まあ、普通に考えたらその反応が正しいよな。


 俺が前世の記憶を取り戻して予言をするようになる前のグローム王国は、大陸でも中堅レベルの国だった。それが今や経済的にも兵力的にもトップクラスになっている――国王陛下はその裏に俺の存在がいることを理解していた。

 だから、俺が魔境へ追放されたという事実が信じられないようだった。


「つ、追放とは……」

「国王陛下、わたくしからひと言よろしいでしょうか」


 挙手をし、堂々と言い放つのはリリアンだ。


「追放処分という話が出ましたが、エルカ様に非は一切ありません。ハッキリ申しあげますと、今回の仕打ちには国民の誰もが納得しておりません」

「ふむ。それで魔境の村には人が大勢移住して来ているのか」


 それも使者から伝えられた情報だろう。

 国王陛下はその情報がいまひとつ信じられなかったってわけか。使者を疑うつもりはなかったのかもしれないが、それでも俺が魔境にいるという現実はどのような流れで発生した物なのか……確かめたかったんだ。


 リリアンの発言で事態を把握した国王陛下は、続いてイベーラたち調査団からの報告を受けることに。

 

「ご報告いたします」


 調査団のリーダーを務めるイベーラが、こちらも堂々とした態度で国王陛下にここまでの成果を告げた。

 目玉はやはり魔鉱石だ。


「なんと!?」


 魔鉱石の存在だけでなく、実際に大量の実物を持ち帰った――リドウィン側からすれば、考えられる限り最高の結果となった。


「そうか……よくやってくれた……」


 安堵のため息を漏らす国王。

 課題であった、産業的な成長を果たすためにも、魔鉱石の確保は必要不可欠。それが無事に叶ったのだから安心したのだろう。


 さらに、イベーラは魔鉱石との交換条件を国王へと話す。

 それを耳にした反応は――


「ぜひとも協力をしたい」


 即答だった。

 今の俺はもうグローム王国とは無関係ということも、その返事を後押しした要因になっているだろう。俺が未だにグロームとつながっていると分かったら、あの魔境にいるというのも国策のひとつであると判断して手を引いていたかもしれない。


 ……ただ、こうして協力を得られたことは大きい。

 おかげで魔境村は一気に規模を拡大できる。


「これから先の話しはこちらのセディオ大臣と進めてくれ」

「かしこまりました。それではエルカ殿、それにお連れのみなさんもこちらへどうぞ」

「はい」


 俺とリリアン、それにヴィッキーの三人はセディオ大臣とともに部屋を移動。イベーラはもう少し国王と話があるということでその場にとどまるという。


 で、俺たち三人は大臣の執務室へ向かう。

 そこで大きめのソファに腰かけると、俺たちが望む物について話を始める。

 当面の課題は、やっぱりあれだな。


「ふむふむ……やはり資材不足が問題か」

「近くに森があるので、資材自体はなんとか確保できるのですが……伐採の作業に必要な人手が少々……」

「人材も足りない、と」

「えぇ……」


 セディオ大臣は髪の毛と同じ真っ白な顎髭を撫でながら、結論を告げる。


「どちらもすぐに用意させよう」 


 こちらもまた国王と同じく即答だった。

 しかし、こっちはもうちょっと慎重に来るかと思っていたのだけど、意外とすんなり決まったな。こう言ってはなんだが、拍子抜けした感じだ。


「そ、そんなすぐに……ありがたい話ですが、本当にいいんですか?」

「何を言う。あれだけの魔鉱石を私たちに提供してくれたのだ。それに……君たちとはこれからも友好的な間柄でいたいと思っている」

「こちらも同じ考えです」


 グローム王国よりも健全で親しみのあるリドウィン王国。

 そんな国とは、今後も付き合っていきたいと俺も心から思っていた。



 その後、詳細な話を詰めていき、近々人材を集めて魔境村へと派遣する手筈を整えた。

 これで村は大きく発展する。

 移住してくる人は日に日に増しているし――って、そういえば、あれだけ人が抜けたグローム王国はこれから大丈夫なのか?

 だんだん力のある商会やら鍛冶職人やらが集まってきているみたいだけど……まあ、もう関係のないことだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る