第六章 二人は魔法少女

第69話 【束縛】囚われた心(1)


 最上階――とは言っても基本的に、どの階層フロアも同じに見えた。

 広いだけで、なにもない空間が広がっている。


 どうやら、見せ掛けだけの建造物だったようだ。

 機械人形と同じ、な造りらしい。


(まあ、人が暮らすために造られたワケではないからな……)


 こんなモノだろう――と俺は納得しようとした。

 しかし、なにかが引っ掛かる。


 こういう時はもう一度、分析しなおした方がいい。

 その一方で、飛び出そうとする白愛。そんな彼女に、


「落ち着け、まだ大丈夫だ」


 と俺は声を掛けて動きを制止する。

 白愛がそんな行動を取ってしまった理由は分かっていた。


 最上階の広間――その中央には――美月がなにかの装置のようなモノに四肢を拘束され、とらえられていた。意識がないのか、眠っているようだ。


 ただ違うのは――黒い魔法少女と同様に――外装が黒く染まり、浸食されつつあったことだ。白愛のことだから、それだけで咄嗟とっさに身体が反応してしまったのだろう。


 それよりも――と俺は白愛に目で合図を送る。

 塔の内壁の高い位置に通路があった。


 そこにはライフルの形状をした魔法杖ステッキたずさえた黒い魔法少女が一人、静かに座り込んでいる。あの夜に戦った〈スナイパー〉だ。


 白愛が――邪魔をした人だ――とプリプリと怒る。あの時は暗殺者のようにも思えたが、明るい場所で改めて見ると普通の魔法少女だ。


 ただし、仮面で顔をおおい、全身は黒一色となっていた。


(気の毒に、彼女もあやつられているのか……)


 微動びどうだにしないその様子は――まるで石像のようだ――と俺は思った。

 恐らく、あの位置からは階層フロアすべてを狙うことができるのだろう。


 また高い通路がある位置には、壁の存在しない出入り口のような場所がいくつか存在していた。


 普通に考えるのなら、光を取り入れ、遠くの景色を見渡すためのモノだろう。

 しかし〈スナイパー〉である彼女がいるのであれば話は別だ。


 暢気のんきに空から近づいていたら、狙いちされていた。


(危ない所だった……)


 そして、黒い魔法少女はもう一人いる。

 影に潜んでいるのだろう。〈魔眼〉を使えるようになった俺には分かる。


 美月をさらった彼女は息をひそめ、監視するように美月の近くでじっと待機していた。

 白愛と美月の二人掛りでも苦戦した相手だ。


 迂闊うかつに飛び込めば、美月を助けるどころか、白愛まで危険にさらされてしまうだろう。正攻法で行くのは危険である。


 だが、もしていられない。美月が変身している魔法少女――そのシステムとして搭載されているのが〈ブラスターシステム〉と呼ばれるモノだ。


 名前からするに『光線銃』か『点火装置』を連想してしまう。その名の通り、特殊な〈マナ〉を一定値以上溜め込むことで大きな爆発を引き起こすシステムだった。


 つまりは魔法少女が〈深淵アビス〉の〈コア〉として利用された際、自爆するための仕掛けである。当然、変身している魔法少女自身は助からない。


 雪都さんが教えてくれた情報によると――美月の浸食が終わる――それが制限時間タイムリミットとのことだった。


 それを過ぎると、この〈深淵アビス〉ごと――ボカンッ!――だそうだ。

 こんな人間爆弾のような方法を無闇むやみ吹聴ふいちょうするワケにもいかない。


 特に白愛には内緒にした方がいいだろう。

 冷静な判断ができなくなる上に、余計なことを考えてしまうに決まっている。


 戦闘に集中できなってしまっては、それこそ目もあてられない。


(雪都さんだったら、もっと上手くやっていただろう……)


 本来なら、この場にいたのは俺ではなく彼だ。

 『創魔研』を制圧する作戦がなければ、美月を助けることを優先しただろう。


 その大役が俺に回ってくることも無かったのかもしれない。

 現状では――浸食された魔法少女を助ける方法はない――とされている。


 唯一可能性があるのは、黒い〈マナ〉を浄化することのできる白愛の〈イレイザーシステム〉だけだ。


(澪姉のことだから、これも計画通りなんだろうな……)


 敵として利用されるのであれば――魔法少女を爆弾として送り込んでやろう――と考える連中がいたことは正直、腹立たしい。


 だが、新しい技術を造り出すためには費用と時間、優秀な人材が必要となる。

 俺たちのいる世界でいえば、戦争を引き起こすのが手っ取り早い。


 敵国の兵器に対抗して、より強力な兵器を持つ。そのためには国民の命を守るという名目でお金を集め、技術者を投入することも容易なはずだ。


 『異世界アナザー』における〈イレイザーシステム〉。

 『創魔研』における〈ブラスターシステム〉。


 その二つを競争させることで、開発を急がせた。


(澪姉がやりそうなことだ……)


 俺の従姉は場を混乱させることにけている。

 その混乱に乗じ『漁夫の利』的な結果を求めているのだろう。


 詰まる所、俺たちが『その漁夫』というワケだ。

 いいように利用されてしまっているが、仕方がない。


 俺は一旦引くように、白愛へ指示を出した。

 黒い魔法少女たちに勝つことが難しいのは、身をもって理解しているのだろう。


 渋々だが、白愛はそれにしたがってくれた。

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