第68話 【塔】潜入成功(3)


 ズシン! ズシン!――巨体の所為せいで歩く度に大きな音が響く。

 中が空洞のため、反響する。


 いったい、どういう原理で動いているのかは分からないが、あまり乗り心地はよろしくない。白愛と密着しているため、れる度に身体がれ合う。


 下手へたにしゃべると舌をみそうだ。白愛も折角の機械人形ロボットだというのに『コレジャナイ』というオーラがにじみ出ていた。


 先程までは効率だけを考えていたため、いい提案だと思ったのだが、今は後悔している。白愛をだますような結果になってしまった。


(発想は悪くないはずだ……)


 暗がりの中、白愛が俺にギュッとしがみついているため、互いの心臓の音が伝わる。こんな時だというのに、それだけでヤケに落ち着かない。


 あらかじめ密着することを宣言していたからだろうか?

 白愛から文句が出ないのは助かる。


 普通の成長だが、胸もそれなりに膨らんでいるようだ。


(一旦、冷静になろう……)


 機械人形は白愛の意思で思い通りには動くモノの、歩く度にれるので快適さとは程遠かった。外の様子は隙間から見ることができる。


 白愛の方を向くだけで唇が触れそうになったため、俺はそちらへと集中した。

 最初は『穴でも開けようか』と考えていたが、その必要はないようだ。


 だが、不思議と息苦しさを感じる。心臓の鼓動こどうが早くなっている所為せいだろうか?

 つかまる物がないので、俺は白愛の肩を抱き寄せた。


 これで下手へたに身体がれて、変な気分になることもないだろう。

 今は白愛の顔を真面まともに見ることができない。


 流石さすがに、この状態では彼女を意識してしまう。誤算だった。

 塔の中の構造はいたって単純シンプルだ。


 円を描くような大きな広間。その中央には〈コア〉とおぼしき巨大な赤い石が存在していた。その石からは赤い光の粒子があふれ出し、煙のように上へと伸びている。


 レッカ店長は『壊せ』と言っていた。確かに破壊するのも手だが、現状ではどんな影響があるのか分からない。それに――


(こんなに堂々と置いてあるのは、なにかの罠ではないだろうか?)


 とうたがってしまう。こういう状況では『財宝をると遺跡が崩れる』というのが一般的であったことを思い出した。


 どうにも、この世界はゲーム要素が強い気がする。壊した瞬間に塔が崩れたのでは洒落しゃれにならないし、簡単に〈コア〉を壊せる保証もない。


 まずは『美月を探すこと』を優先しよう。

 理由を説明すると、それで白愛も納得してくれた。


 その間――ガシャン! ゴトン! ガタン!――塔の内部を警備する機械人形たちが近づいてくる。


 彼らは、一時的に立ちまりはするモノのおそってはこなかった。

 〈ダブル〉で創り出した複製コピーを仲間だと思っているのだろうか?


 一先ひとまずは『作戦成功』と言って良さそうだ。


(さて、どうしたものか?)


 安全は確保できたが、依然として美月救出の制限時間タイムリミットは迫っている。

 闇雲やみくもに動くのはけた方がいいだろう。


 そこでレッカ店長に言われた〈魔眼〉というモノを意識してみることにした。

 白愛の姿が他者と異なるように、俺の瞳もまた異形のモノだったようだ。


 異世界人である父さんからの遺伝によるモノだろう。

 父さんがいてくれれば、使い方を教えてくれたのかもしれない。


(本当に人生というのは、足りないモノばかりだ……)


 白愛を守る力もなければ、一緒に戦う魔力もない。

 〈魔眼〉を持っているというのに、その使い方すら知らない。


 だからこそ、人は考え、成長しなければならないのだろう。

 それこそが難局を切り抜けるための力になる。


 思い起こせば、色々なモノがつながっていた。澪姉の信頼も、雪都さんの優しさも、美月の想いも、見えないけれど確かに存在する。そう――


(目で見るのではなく、感じるんだ……)


 集中するため、白愛には一度機械人形の動きをめてもらう。

 俺は目を閉じて、深呼吸する。そして魔力の流れを感じる。


(今までも自然に行っていたことだ。それを意識して行え……)


 俺ならできるはずだ――と一種の暗示を自分にかける。

 すると今まで見えていなかったモノが見えてきた。


 色相、明度、彩度――それぞれ異なる光の動き。

 まるで夜空に広がる星々の輝きのようだ。


 近くにある一番大きな魔力は、この階層フロアにある赤い石。

 この〈深淵アビス〉における〈コア〉だ。


 その周囲をグルグルと回るように、他の小さな光が動いている。

 それらの動きには法則性があり、まさに天体のようだった。


 俺は更に意識を集中すると範囲を広げる。ただ、深く深く――過去の夢を見る感覚に近いのかもしれない――意識をしずめてゆく。


 不思議と世界が広がったような気がした。三百六十度、すべてが視界に入っているような感覚だ。しかし、この状態は長く続かないだろう。


 俺は美月のいる可能性の高い、塔の上へと意識を向けた。

 明らかにヤバそうな2つの魔力。詳しい状況までは分からない。


 けれど――この塔の上層部――そこに黒い魔法少女がいるのは確かだ。

 そして、もう一つ――小さく消えかけているが――これが美月の魔力だろう。


(やっと見付けた……)


「ねぇ、次はどうするの?」


 白愛は期待を込めて質問したようだが、流石さすがに都合よく作戦を思いつくワケではない。結局のところ、このまま階段を使って上を目指すしかないだろう。


「美月は上にいるみたいだ……」


 空を飛べると早いのかもな――そんな俺のつぶやきに、


「そっか! やってみるね☆」


 と白愛。飛行魔法である〈フライ〉を使用する。

 大型機械人形はゆっくりと宙に浮いた。


 機械人形が大きく重いため、最初はフラフラとしていたようだ。

 塔の内壁に身体をぶつけたりもする。


 だが、徐々に感覚をつかんだらしく、遠心力を上手く利用したコーナリングを行う。

 ゲームでみがいた空中ドリフトのテクニックのようだ。すると、


「コツをつかんだよ!」


 そんなことを言って、白愛はゲームをするような感覚で塔の中を飛び回るのだった。

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