第67話 【塔】潜入成功(2)


 白愛は俺の反応を見て『敵がいない』と判断したのだろう。

 安心したのか、ほっと胸をろす。


 喜ぶにはまだ早いが、気を張っていては身体が持たない。


「すぐ調子に乗る」


 と軽くたしなめる程度でいいだろう。

 そんな俺の言葉に――ゴメン――と素直に謝る白愛。続けて、


「中に入るの?」


 と塔の入口に視線を向け、聞いてきたため――いや――と言って俺は首を横に振った。『気になること』と『分かったこと』、そして『思いついたこと』がある。


 気になること――というのは『見張りがやられた』というのに警備の機械人形が出てこないことだ。考えられるのは、時間経過と共に敵が復活するパターンだろう。


 外の世界で戦っていた時とは違い、どうにも敵の意思を感じない。

 あらかじめ命令された内容を忠実にしているだけのようだ。


 まるでゲームと現実がごっちゃになったような感覚だった。

 油断をするワケではないが、必要以上に警戒する必要もなさそうだ。


 分かったこと――というのは『想像していた以上に消耗しょうもうが激しい』ということだった。


 最初は俺が〈ニンジャ〉に換装して『内部を偵察しよう』と思っていたのだが、先に魔力を回復する必要がある。


(問題は、その回復方法だが……)


 〈マジジェネ〉のカードの回復条件から推測するに、白愛のそばにいるのが一番早く回復できそうだ。


「白愛を抱きしめながら移動した方がいいのか……」


 そんな俺のつぶやきに、


「な、なんで⁉」


 とおどろく白愛。正直に『魔力回復のため』と答えても問題なさそうだが――女性は理屈ではなく、感情に左右される生き物よ――と母さんも言っていた。


(小学生の息子になにを教えているのやら……)


 あれこれ考えるのも面倒なので、


「大切だから……」


 とだけ答えることにした。可愛いから守りたい――の方が良かっただろか?

 しかし、それだと少しうそっぽい気もする。


(そもそも、白愛に守られている状況だしな……)


「それよりも――」


 と俺は告げた後、白愛に〈ヒーラー〉へ換装するようにお願いした。

 ここから先は黒い魔法少女たちを相手にすることになるだろう。


 戦闘の経験もそうだが『奇襲すること』にかけては向こうの方が上だ。

 防御重視の方がいいだろう。それにためしたいこともある。


 思いついたこと――というのがそれだ。


(回復魔法も必要だしな……)


 正直なところ、どうなっているのか分からない塔の内部を進むよりも『空を飛んだ方が良いかもしれない』と迷っていた。


 だが、今みたいにビームをつ機械人形がいるのでは、塔の内部を進んだ方が安全だろう。空中では身を隠す場所がない。


 加えて俺という足手纏あしでまといもいる。


「白愛」「なに?」


 俺はまだ、完全に消失してない大型機械人形を指差して、


「これを〈ダブル〉で作れるか?」


 と聞いてみる。すると白愛は、


「うん、やってみるよ☆」


 と答える。なにやら元気になっているようだ。

 心做こころなしか頬も上気していた。


(回復が早くてうらやましい……)


 白愛は複製魔法の〈ダブル〉を使用し、壊れかけの機械人形を創り出す。

 しかし、このままでは役には立たない。


「で、どうするの?」


 当然ともいえる白愛の疑問に対し、


「お前、今は〈ヒーラー〉だろ」


 とだけ告げ、俺は機械人形の身体の中に入った。

 想定通り、二人程度なら問題なく入れそうだ。俺は白愛へと手を伸ばす。


「……」


 わずかな間だが、理由が分からずに沈黙する白愛。

 理解するのに時間がかかっているらしい。俺が苦笑すると、


「そっか!」


 と彼女は納得したようで、笑顔で俺の手を取る。

 そして、密着する形で機械人形の中へ身をひそめると、


「〈ヒール〉!」


 白愛は回復魔法を使用する。

 魔法の効果により〈ダブル〉で作り出した機械人形は再生した。


(機械が魔法で回復する原理は分からないが……)


 今は気にしない方がいいだろう。

 大切なのは――これで機械人形の中に入ったまま移動できる――という事実だ。


 ついでに白愛と密着できるため、魔力も回復できるワケだが、それは言わない方がいいだろう。


「上手く行ったね☆」


 喜ぶ彼女に、


「じゃあ、このまま塔の内部へ侵入する……」


 美月が心配だ――と俺は告げる。

 同時に白愛の動きが一瞬――ピタッ!――と固まる。


 薄暗いためさだかではないが、俺の言葉で本来の目的を思い出したようだ。

 真剣な面持ちで、


「うん、美月を助けなくちゃ!」


 と声をひそめて俺を見詰める。せまいため声も反響してしまう。

 今は余計な会話をひかえた方が良さそうだ。


「頼りにしているぞ」


 そんな俺の言葉に、


「う、うん! 頑張るよ……」


 白愛はそう言った後、自らを鼓舞こぶする意味で両手を握りめた。

 その覚悟に呼応するように機械人形は立ち上がると動き出す。

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