第66話 【塔】潜入成功(1)


 制球力コントロールには自信がある。

 左右にさぶるように拾った石を投げた。


 大型機械人形が反応する。

 だが、最初の時みたくビームをってはこないようだ。


 敵が『学習した』と言えなくはない。

 けれど、この場合は『ビームを連続でてない』と判断すべきだろう。


 どうやら、魔力をめる時間が必要らしい。

 何度なんどか石を投げて試した結果、分かったことがある。


 2体の機械人形は『それぞれ守る範囲が決まっている』ということだ。

 彼らが同時に『反応する』ということはなかった。


 勿論もちろん、視界に敵である俺たちが映れば、話は別だろう。

 俺は魔力の流れを感知して、充填じゅうてんされたことを確認する。


 攻撃に転じるなら、ビームをった直後だ。

 俺は死角ができるように、再び左右へと順に石を【投擲とうてき】した。


 ドーン! ドーン!――予想通り大型機械人形が、お互いに別の場所へ向かってビームをつ。


 一瞬だが――2体の間である――中央に死角ができた。

 そのタイミングに合わせて、


「行っくよー!」


 と白愛が飛び出す。同時に『青のカード』で〈フェンサー〉へと変身する。

 隠密状態の効果が切れてしまったが、そこは仕方がない。


 俺も魔力を温存するのは、ここまでにする。

 『青のカード』で〈ナイト〉へと変身した。


 身体からなにかが抜け出ていくような感覚。

 一瞬、地面にひざきそうになったが、気合でこらえる。


(澪姉の相手をすることに比べれば、楽なモノだな……)


 それよりも意外だったのは、軽装備だったことだ。

 全身鎧プレートアーマーの姿になるのかと思っていた。


 ゆっくりと全身を確認している時間もないので詳しいことは分からないが、学生服に近いのかもしれない。魔力が低いため『騎士見習いスクワイア』といったところだろうか?


 手には片手剣ショートソードがある。

 こちらは俺の体格に合わせて、指輪が姿を変えてくれたようだ。


 分析もほどほどに、俺は状況把握に努める。

 2体の大型機械人形からはなたれたビーム。その威力で砂塵さじんが巻き上がっていた。


 計算通りの展開だ。風はないので、すぐに消えることもない。


(利用させてもらうとにしよう……)


 動きの遅い俺は、その砂塵にまぎれて進む。

 すでに白愛は相手の不意を突き、敵の胴体を斬り裂いていた。


 装甲が分厚いことは見て取れたので、装甲の薄い箇所を狙うように指示したのだが、思ったよりも敵の防御力は低かったようだ。


 いや、この場合は『白愛の攻撃力が上がっている』と考えた方がいいのかもしれない。あれで彼女は天才肌なところがある。


 先程のレッカ店長とミーヤさんの戦いを見て、なにかを学習したのかもしれない。

 白愛が持つレイピアの刀身が攻撃の際、伸びたようにも見えた。


 戦闘を重ねたことで、スキルのレベルが上がって〈スラッシュ〉が〈ハイスラッシュ〉になった可能性もある。どちらにせよ、白愛自身は気が付いていなさそうだ。


(無意識に強くなるところが彼女らしい……)


 その一方で、かれた敵の中身は空っぽだった。

 といったところだろう。


 白愛が簡単に倒してしまったこともあって、見せかけのハリボテのようにも映る。

 しかし、油断は禁物だ。


 ウィーン――案の定、もう1体の機械人形の首が動く。

 機械は獣や精霊と違って予備動作がないため、動きが読み辛い。


 今回は白愛を狙うことが分かっていたので、対応することができた。

 俺はかさず攻撃スキルである〈バッシュ〉を使用する。


 片手剣ショートソードで敵の頭部を斬りつけた。

 しばらくの間はビームをつことはできなかっただろう。


 だが念のため、早めにつぶしておいた方がいい。

 俺が砂塵さじんまぎれて移動していたため、相手は気付かなかったようだ。


 白愛はそのすきに胴体を真っ二つにした機械人形の頭部を刺突で破壊する。

 まずは1体。これで機能を停止させることができた。


 残ったもう1体の大型機械人形は相方がやられたことに慌てた様子だった。

 仲間を心配した――というワケではない。


 守備範囲をカバーするようにプログラムが切り替わったようだ。

 しかし、俺が頭部へと剣を突き立てている。


 俺と白愛、どちらを優先して対処すべきか迷ったのだろう。

 結果、反応が遅れたようだ。その間、俺は素早く敵から離れる。


 機械人形の頭部をる形で、背面跳びを行う。


(やはり、かたいな……)


 手がしびれてしまった。恐らくは魔力のしつによるモノだろう。

 単純に『魔力量が少ない』というのもあるが、もう少し練習が必要らしい。


 今の俺の攻撃力では、機械人形相手に大したダメージは与えられないようだ。

 加えて、すぐさま同じ攻撃をするのは難しい。


 次の攻撃へ転じるには、魔力をる時間としびれた手の感覚が戻るのを待つ必要がある。やるとすればおとりくらいだが、その必要はなさそうだ。


 白愛は素早く敵の死角である背後に回り、最初の大型機械人形同様、装甲の薄い箇所をいた。やはり実戦を経て、白愛の攻撃力は上がっているらしい。


 機能を停止し、崩れ落ちる機械人形。魔力で強化したレイピアを振り下ろしたままの姿勢で――ハァハァ!――と息を荒げながら、


「やったよ☆」


 と白愛。顔を上げると同時に笑顔でVサインを作る。

 先程のイケメンな彼女はどこに行ったのだろうか?


 そんな白愛に対し――油断するなよ――と俺は声を出さずに、口だけを動かして伝える。先日の学校での戦闘も、それが敗因へとつながっていた。


 大切なのは同じ失敗を繰り返さないことだ。そうだった!――と声には出さなかったが、白愛は慌てて両手を使い、口をふさぐ動作をした。


 これだけ暴れた後では、今更静かにしたところで意味のないことかもしれない。

 だが、気を抜くのは危険だ。幸か不幸か、感知能力は俺の方が高い。


 周囲を警戒しつつ、倒した機械人形を交互に確認する。

 相手が大きいためだろうか?


 〈マナ〉となって消失するのに時間がかかるようだ。

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