捜索②
「とりあえず、ノアの居そうな場所を片っ端から探しましょう」
そうは言ったものの、マリアンヌに心当たりなどあるはずも無かった。
(ノアの好きそうなものなんて思いつかないわ⋯⋯。そもそも、あまり話したことがないんだもの)
マリアンヌがどうしたものかと立ちすくんでいると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「あれ? その後ろ姿は⋯⋯もしかして義姉さんじゃない? こんなところに一人でどうしたの?」
マリアンヌに声をかけたのは、まさに2人の尋ね人であるノアであった。
しかし、彼は両側にそれぞれ派手な様相の町娘を侍らせており、とてもじゃないが作戦の決行は難しそうだ。
「ねぇ、ノア~。この人誰?」
マリアンヌよりも幾分か若く見える女性は甘えるようにノアの腕に絡み付き、猫なで声で彼に訪ねる。
「ああ、この人は僕の義姉さんだよ。すっごく綺麗でしょ?」
「⋯⋯⋯⋯ふ~ん」
町娘2人の値踏みするような視線がマリアンヌへと突き刺さる。その鋭い視線から逃れようと、サッと顔を逸らした。
(一体何なの、この状況は⋯⋯とてつもなく居心地が悪いわ⋯⋯!!)
「じゃあ、僕は義姉さんと約束してたのを思い出したから、君たちはもう帰りなよ」
「え~! ひどーい! ノアから私たちに声かけてきたのにっ!!」
「ごめんごめん、また今度ね。それじゃ」
そう言ってノアはマリアンヌの細腰を抱き寄せ、去り際に不満を漏らす女の子たちにひらりと軽く手を振ってウインクして見せる。
後ろからキャーキャーと騒ぐ声が聞こえる中、マリアンヌとノアはその場を後にした。
✳︎✳︎✳︎
「⋯⋯それで、義姉さんはこんなところで何をしてたの? 義姉さんみたいな綺麗な人が一人で出歩くなんて危ないよ?」
近くにあったカフェへと入った2人は、紅茶を注文し、一息つくことにした。
「ええっと、ちょっと買いたいものがあって⋯⋯そんなことより、良かったの? お友達を置いてきてしまって⋯⋯⋯⋯」
「ふうん? ああ、あの子たちは友達なんかじゃないから、義姉さんが気にかける必要はないよ。それに、あの子たちなんかよりも義姉さんといた方が楽しそうだしね」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
マリアンヌがカップの中の紅茶の最後の一口を飲み終わったのを見計らい、ノアは立ち上がった。
そして、「この街のことは義姉さんよりも僕の方が詳しいから、エスコートしてあげるよ」と言って手を差し出す。
今まで大人しく成り行きを見守っていたアスモデウスが、「僕はこっちの子の方が好みだなぁ~! 女性への細かな気遣いが出来る男の子っていいよねっ♡」と耳元で騒いでいた。
ノアが支払いをし、2人はカフェから出て石畳の道を歩く。
「それで、義姉さんの買いたいものって?」
「オ、オリヴァーにケーキを買ってあげようと思って」
マリアンヌは先ほど、アスモデウスがケーキを食べたがっていたのを思い出し、咄嗟に出まかせの嘘をついた。
「そうなんだ? ⋯⋯でも、そんなに食べたいなら屋敷にその店のパティシエを呼べば良いのに⋯⋯変な義姉さん。ま、いいや。それじゃあ、僕についてきて!」
「え!? ちょっと、ノア⋯⋯!?」
街を知り尽くしたノアによるエスコートのもと、マリアンヌはオリヴァーとアスモデウスの好きなケーキを購入する。
そして、まだ陽が高いうちに二人は街を後にしたのだった。
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