2人の義弟②


「⋯⋯おい、この下品な男どもは誰だ?」


 いつの間にか隣に立っていたサタンからの問いに、マリアンヌは心の中で答える。


(サタン様⋯⋯。この2人はフレディ公爵の弟よ。茶髪の背の高い方が次男のセオ、金髪で背の低い方が三男のノアよ。2人とも、私とそう年齢は変わらないわ)



「ほう⋯⋯。兄弟で女の趣味も似るってか? 随分な熱視線じゃないか」


 サタンはセオとノアの反応を見てニヤリと愉しげに笑う。


(⋯⋯やめて頂戴。不快だわ)


 マリアンヌはサタンをキッと睨みつけた。

 しかし、そんなマリアンヌの視線にもサタンは臆すること無く、なおも挑発めいた発言を続ける。



「フン、本当のことを言っただけだろ?」


(⋯⋯⋯⋯黙りなさい)



「お前、コイツらが来てからというものの、あからさまに機嫌が悪いのではないか? ⋯⋯仕方ない、優しい優しい俺様が今はそっとしておいてやろう」


 マリアンヌの並々ならない気迫にピクリと眉を動かしたサタンは最後にそう言い残すと、マリアンヌの厳しい視線から逃げるようにスルリと影へと戻っていった。



「マリアンヌ義姉さん、さっきからうわのそらだけど、どうかしたの?」

「義姉さん⋯⋯体調が優れないのですか?」


 その声に、マリアンヌはハッと我にかえる。マリアンヌはサタンに気を取られるあまり、セオとノアの存在をすっかり忘れ去っていた。

 マリアンヌは自身の様子を心配そうに覗き込む2人に悟られまいと慌てて表情を取り繕い、再び笑顔を作る。


「⋯⋯いいえ。なんでもないわ。⋯⋯さあ、中へ入りましょう」



 セオとノアを出迎えたマリアンヌは、屋敷へと2人を誘った。キィィと小さな悲鳴をあげて分厚い扉が開く。

 これで、ウィンザー公爵邸には義母と義伯父以外の一族が集結した事になる。


 この時はまさか、再びウィンザー公爵邸で悲惨な事件が起こるなどという事は誰一人として想像もしていなかったのだった。







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