2人の義弟①


「ふ~⋯⋯やっと着いたぁ⋯⋯!」

「ノア、だらしないぞ。シャキッとしろ」

「セオは堅すぎるんだよ⋯⋯僕みたいにちょっとは気を抜かないといつか爆発しちゃうよ~」


 マリアンヌは自室の窓際で、ウィンザー公爵家の紋章が刻まれた馬車から降りてきたスーツ姿の2人の若い男たちをぼんやりと眺めていた。

 そして、彼らを見るなり深くため息を吐く。


「はぁ⋯⋯憂鬱だわ⋯⋯⋯⋯」



 マリアンヌの気分を沈ませる2人はウィンザー公爵家の末の弟たちで、普段は首都郊外にある全寮制の大学に通っている。

 しかし、兄であるフレディの病状悪化と姉であるエミリーの訃報ふほうを聞いて駆けつけてきたようだ。

 恐らく、暫くはこの屋敷に滞在することになるだろう。


(あの2人とは余り面識は無いけれど、今になって帰ってくるなんて⋯⋯厭らしいほどに魂胆が見え見えね)


「そろそろ行かないと⋯⋯」



 ウィンザー公爵家の当主であるフレディが臥せっている今、妻であるマリアンヌが出迎えないわけにはいかない。

 2人の義弟を出迎えるため、マリアンヌは渋々と椅子から重い腰を上げた。





✳︎✳︎✳︎





「セオ、ノア。お久しぶりですね。長旅お疲れ様でした」


 普段着の淡い藍色のドレスに、タータンチェックのショールを羽織ったマリアンヌはにっこりと他所行きの完璧な笑顔を作り、騒がしく言い合いを続ける2人を出迎えた。

 春の訪れがまだ先のウエスト国はひんやりとした空気を纏っていて肌寒く、マリアンヌはぶるりと小さく身震いする。



「マリアンヌ義姉さん、久しぶり!」

「⋯⋯⋯⋯義姉さん⋯⋯お久しぶり、です」


 マリアンヌがセオとノアの前に姿を現した途端、彼らはマリアンヌの頭からつま先までを舐め回すような視線でジロジロと見てくる。

 セオはおもむろに頬を赤らめてサッと目を逸らし、ノアはねっとりとした目でマリアンヌを見つめてニヤニヤと笑っていた。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


(これで気付かれて無いとでも思っているのかしら⋯⋯?)


 マリアンヌは2人のあからさまな態度に、作り笑顔が引きつるのを感じていた。



「⋯⋯おい、この下品な男どもは誰だ?」


 そんな時、くつくつと愉快そうに喉を鳴らして笑うサタンの声が耳に入った。





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