重なる影①


「お母様っ⋯⋯お母様ぁぁあ!!」


 死化粧を施され、棺桶の中で安らかに眠るエミリー。その傍らには縋り付くようにして泣きじゃくる彼女の息子のアイザックがいる。

 マリアンヌはその光景をオリヴァーと共に遠巻きに見つめていた。



「⋯⋯⋯⋯」



 マリアンヌは表情をピクリとも動かさずに、ひとり取り残された可哀想な男の子を姿を眺めている。

 マリアンヌにはその光景に見覚えがあった。今のアイザックの哀れな姿は死に戻る前、オリヴァーがエミリーの手によって殺められた時の己の姿とよく似ていたからだ。

 マリアンヌはアイザックの姿にあの頃の自身を重ね感傷に浸る。


(一歩間違えば、あの場所にいたのは私ね⋯⋯。もう二度とあんな思いをするのは御免だわ。何があろうと絶対に、同じ過ちは繰り返さない)




「お母様⋯⋯。大丈夫⋯⋯?」


 難しい顔をして考え込むマリアンヌを心配そうな顔をして見るオリヴァーは、ドレスの裾を控えめに掴みながらそう言った。

 その赤い瞳には涙の膜が張り、今にも溢れてしまいそうなほどに潤んでいる。

 優しいオリヴァーのことだ。きっと、アイザックの憐れな姿に心を痛めたのだろう、とマリアンヌは思った。


「お母様は大丈夫よ。⋯⋯オリヴァー、ここにいては邪魔になってしまうからあちらに行きましょうか」

「うん⋯⋯⋯⋯」


 マリアンヌは過去の弱く無力だった頃の自分を思い出してしまいそうでそれ以上、今にも消えてしまいそうなか細い声で母親の名前を呼び続けるアイザックの姿を見ていたくは無かった。

 直ぐにその場を離れようと、そっとオリヴァーの手を引く。自然とオリヴァーの手を握るマリアンヌの手には力がこもった。


(可哀想だなんて、同情する資格は私には無いわ。何もしなければああなっていたのは私たちよ。やられる前にやらないと、ここでは生き残れない。⋯⋯これは私が決めたことですもの、後悔なんて微塵も無いわ。オリヴァーの幸せのためにも、私の復讐は誰にも邪魔はさせない)


 マリアンヌは自身に言い聞かせるようにして心の中で再び決意を固める。

 そうして、ドレスをくるりと翻し彼らに背を向けて歩き出した。






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