☆パブリックイメージナンバーワン
近所のスーパーのチラシを見ながら、右手には赤色のサインペン。
目についたものに「たまごがお安い」丸をつけて、買い物リストを整理中、なう。
普段通りのことをしていれば、心の
「ただいまだぞ!」
いつも元気なモアちゃんと、だいぶ顔色が悪くて「……ただいま」と声も小さいタクミくん。
モアちゃんに振り回されたのかしら。
朝からサメ映画を観て、浅草の遊園地に行く。素敵なデートプランじゃない。モアちゃんに相談されたわたしは大賛成だったのよ。
あの年季の入ったジェットコースター、モアちゃんは気に入ってくれたかしらね。慎重派のタクミくんは、壊れそうだから乗りたくないなんて言いそうね。
さっそく思い出話を聞かせてもらおうかしら!
「ちょっと、晩御飯まで寝ます」
あら、あらら。
足早に自室へ戻っていくタクミくん。そうね、朝も早かったものね。体調が悪いんなら休んだほうがいいわね。モアちゃんから聞きましょう。
「おばあさま」
タクミくんの背中を見送ってから、モアちゃんが切り出す。
神妙な顔つきで「タクミを
わたしもなるべく近寄りたくないわ。
観光名所でもあるかもしれないけど、事故現場でもあるわけで。
「浅草へ行ったにしては早いわね?」
話を変えようと、わたしはグラスを二個取って、ペットボトルのアイスティーを注ぎながら訊ねる。
買い物行って帰ってくるまでは二人がお出かけしているものだと思っていたのよね。
上野から浅草までは銀座線か、バスが通っているからバスで行けるのよ。
ちょっと頑張れば歩いてでも行けるわ。
二人は若いから、お話ししながらあっという間。
「我が休憩を提案して、不忍池のベンチで休んでいたら、タクミが
「あらま」
モアちゃんはわたしからグラスを受け取り「そんなところにいるはずがないのにな」と言ってアイスティーを一気飲みした。
あのタクミくんがねぇ。
やっぱり、タクミくんにとってもあの事故は大きいわよね。
タクミくんは院試があって、あの車に乗っていなかったってだけ。
「そうねぇ……」
わたしも池に行けば(ギャグじゃないわよ)真尋に会えるかしら。
ホァーとため息をついたモアちゃんが、ふと「真尋さんそのものにはなれないが、真尋さんの姿にはなれるぞ」と言ってくる。
「それは〝コズミックパワー〟かしら?」
「基本の
そうなの。
モアちゃんが真尋に、ねぇ。
まさしくモデル体型なモアちゃんは、身長も180センチメートル近くある。
真尋はちっちゃくて150センチメートルないぐらい。顔も丸顔で、身体も丸っこい。――あの写真だと、痩せ細っていたわね。
「モアちゃんは、元々どんなお姿なのかしら」
人間に変身する力が基本だというのなら、その素体のモアちゃんはどんなもの?
モアちゃんの『ものすごく遠い星』には人類はいないのよね?
人類が宇宙の、地球以外の惑星にいるとしたら、宇宙人との交流の歴史は結構変わってたかもね。
アポロ11号が着陸した月に生物はいなかった。月以外の星に、人間は着陸できていない。せいぜい火星に無人探査機を送り込めたぐらい。
もしモアちゃんがタクミくんと知り合っていなくて、もっと宇宙の、専門機関に向かっていたら、人類史を揺るがす大事件になっていたわね。
今からでも連れて行ったほうがいいのかしら。
モジモジしながら「見たいですか?」と唐突な敬語がモアちゃんから出てくる。
「我はタコさんらしいです」
「誰から言われたのよ」
こんな可愛い子にタコさんだなんて、目が腐っているんじゃないかしら。
あら、ごめんなさい。言葉が強くなってしまったわね?
「大王様から……」
「モアちゃんの上司の、恐怖の大王さん?」
わたしが聞き直せば、モアちゃんはコクリと頷いて「我は地球で生き物を検索して、タコの姿を初めて見てから、鏡で自分の姿を確認したのだが、確かに大王様のおっしゃる通りで」と鼻をかく。
ということは『ものすごく遠い星』にタコはいないのね。
「モアちゃんのご両親は?」
聞いてから失礼な質問だったかも、と口を塞ぐも「いないぞ!」とモアちゃんが答える。
「アンゴルモアはアンゴルモアっていう一個体で、うーん……」
モアちゃんがモアちゃんなりに補足して説明しようとして、右手の人差し指と左手の人差し指をくっつけたり離したりを始めてしまった。言葉を探しているのね。
でも、地球上の生命体とは違う原則で生まれた生命体なら、地球上にいる生命体の常識は通じないわ。モアちゃんがうまく説明しようにも、わたしには〝コズミックパワー〟と同じぐらい理解できないかも。
「モアちゃんの星に海はあるのかしら?」
質問を変えてみましょう。
地球上の生命体は、海から生まれ、陸に這い上がって、長い時を経て進化してきたのよ。
モアちゃんのような生命体がいる『ものすごく遠い星』にも、海が、――もっと言えば、水があるはずよね。
「我は大王様の側近で、城から離れる時は他の星を侵略しに行くときぐらいなものだったから、城の外の環境に詳しくなくて……」
眉根を寄せて、困り顔になられてしまったから「箱入り娘だったのね」と追及をやめておく。城暮らしのアンゴルモアッティ。字余りね。
知らないものに突っ込まれてもね。わたしも質問責めにしてしまって申し訳ないわ。
それはそうと、モアちゃんの本当の姿は見たいわよ!
「タコさんの姿は見せてもらえないかしら!」
自分で話を逸らしてしまったわ。よくないわね。元に戻しましょう。
おばあさんマイペースだから、話したいように話しちゃうのよ。聞きたいこともまだまだたくさん。
モアちゃんはタクミくんの部屋の方を見やっている。
「タクミくんにはナイショにしておくわよ」
今日だけでタクミくんにナイショにしたいことが二つもできてしまうわね。
謎多き女……ふふふ。
「絶対だぞ!」
モアちゃんは椅子から離れた。
ボコボコボコ! と泡立つような効果音とともに、モアちゃんの立っていた場所にタコの怪人が現れる。
「あら!」
思わずスマホのカメラを向けそうになったけど、ナイショにしておくんだったわ。
写真撮影禁止ね。
「これが我の「どこから声が出ているの!?」
不思議ねぇ!
ペタペタ触ってみると、ちょっとぬるっとしている。
「くすぐったいぞ!」
「今触ったのって人間でいうとどの辺なのかしら?」
「脇腹の辺り?」
なるほどタコさん。
昔の人が描いた、火星人のイメージイラストにも似ているかも。
もしくは這い寄っちゃう混沌。
触手もいち、に、さん、し、ご、ろく。
胴体を支えている残り二本。
――待って。
恐怖の大王様がタコ(生物)を知っていたのはなぜかしら?
モアちゃんが知らないだけでモアちゃんの星には海がある?
わからないことが多いわね! 楽しいわね!
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