夏イベントてんこ盛り

第20話 必要火急の女子会

 ついに2022年が7の月に入ったぞ!

 前世では色々あった月ではあるが、今回は何も恐るることはない。

 心置きなくタクミの誕生日を祝おうではないか。皆も各自祝いの品を準備するといい。


 7月の20日だぞ!

 覚えておいてほしい。

 スマホのカレンダーアプリに、タクミの誕生日として登録しておくべき。

 我は忘れようにも忘れられないのでな。


 かつては国民の祝日として〝海の日〟が制定されていた日。――と便利なスマホで調べて学習したぞ。ふんふん。

 現在は第三月曜日に移行してしまったが。元に戻してほしい。我が愛するタクミの生まれた日を祝日としていてくれたほうが、全員でお祝いできるというもの。


 今日は3日の日曜日。

 今度海に行くにあたって、水着を準備しようというやりとりが盛り上がり、ユニと待ち合わせ中。


「あの子?」


 我の隣には、タクミではなくおばあさまがいる。

 おばあさまの視線の先には「むむっ」という顔をしているユニがいた。

 我が一人で来るものだと思っていたのだろう。


「そうだぞ!」


 我はタクミとユニとが仲良くあってほしいが、タクミを連れてこようものなら現在のユニは背を向けて帰ってしまうに違いない。


 だから、タクミは家においてきた。

 コズミックロックダウンで一歩も出られないようにしたぞ。扉は開かないし、窓からの出入りもできない。

 我やおばあさまの監視下から離れて、ふらふらと出歩き、またあの事故現場で一二三ひいちゃんの幻影に魅入られては困るのでな。

 我がそばについていれば阻止できるのだが。


 おとなしくリビングで『ホーム・アローン』を観ていてほしいぞ。


「あらら、お人形さんみたいね」


 今日のユニは白衣ではなくて、フリフリの白い襟がついた膝丈ぐらいのピンクなワンピースを着ていた。

 厚底の靴と、ニーソックス? ……履いていても我よりも背は低く、おばあさまと同じぐらい。

 我が考えるに、白衣よりもこの格好のほうがユニに合っているぞ。どうしていつもはこの服装をしないのだ?


「ユニは人間だぞ?」

「ふふっ。そうね」


 おばあさまがユニと会うのは、今回が初めてになる。

 我がユニと水着を買いに行く話をしたところ、おばあさまのほうから「ついて行ってもいいかしら?」と言われたのだ。

 我に断る理由はない。


 我からユニにおばあさまの話をしているし、おばあさまにもユニの話はしている。


 おばあさまの大らかで朗らかな人間性であればユニとも親しくなれるはずだぞ。

 人類を滅ぼさんとする侵略者を門前払いせずに実の家族のように受け入れているのだからな!


 全ての人類がおばあさまのように理解のある人間であれば、地球の侵略は容易――侵略はしないぞ!


「ど、ども……弐瓶柚二でっす」


 なのにユニは萎縮して、型破りでユニークな物言いを控えている。

 そういう時は心の声を聞いてみよう。


(一応タクミはうちに所属している学生なわけでぇ。その保護者とどう接したらいいのか教えてくれおぱとら)


 一点訂正するとすれば、タクミはユニの研究室に所属する大学院生だからは不要だぞ!

 おばあさまはユニなりに気遣いが必要な相手というわけだな?

 対しておばあさまはユニに「孫がお世話になっております」とお辞儀している。


「まご? え? マジでお孫さんなんです?」


 動揺が口をついて出てきた。

 ユニは脳内で(私のママと同い年ぐらいじゃーん?)とおばあさまの容姿と自らの母親の年齢を比較し始めている。


 我は事故のことを知っていても、ユニも知っているとは限らない。

 この様子では、知らないのであろうな。

 四方谷家と参宮家の複雑な関係性を知っていて、孫であるか否かを聞き返すのは悪手。


 我も人間らしくなってきたであろう。

 ふんふん。


 しかしながら、我の語彙量ではこの状況を覆す言葉が組み立てられない。


「そうなのよー。出来のいい、自慢の孫よ」


 おばあさまぁ!


 にこやかに言ってくれたのが、とても嬉しいぞ。

 あとはタクミがおばあさまに歩み寄ってくれたらな。

 妙なこだわりを捨てて、わだかまりを解いてくれたら。


「いえ、こちらも参宮くんには助けられておりまして……」


 言葉を選びまくっている、普段とは異なるユニ。

 なんだかこちらが悪いことをしたような心持ちになるぞ。

 助けを求めるように我をちらりと見やる。ふむ。任された。


「おばあさまも気軽に〝ユニ〟と呼ぶといい!」

「えぇ?」


 戸惑うユニ。

 おばあさまからは「教授を呼び捨てにはできないわねー……」と苦笑いされてしまった。


 ダメなのかあ。

 人間は難しい。


 おばあさまのことだから、この会合が終わるころには距離が縮まっていると期待しよう!


「ま、まあ、あれよ。メインクエストを達成しにいきましょ!」

「その靴でよく転ばないわねー」


 おばあさまがユニの厚底の靴に感心しているとユニは「慣れです!」と切り返した。

 我が履いたらタクミと同じぐらいの背丈になれるだろうか。


「教授ちゃんのご趣味は?」

「ふぇ。私のですかい? 私は、……うーん、ゲームですかねい?」

「あら! 何をやっていらっしゃるの?」


 二人が前を歩き、我がついていく。

 元々ユニが店を紹介する手筈となっていたからこれでいいのだ。うむうむ。我には水着の良し悪しはわからぬ。海に行くにあたって、絶対にあったほうがいいということしか知らぬ。サメ映画でも、多くの女性が水着を着用していたからな。


「なんていうか、流行りのゲームは大体やってみてるんですよぉ。今、研究室にFPSゲームのプロの子がいて、自分でもやってみてます」

「あら! 学生しつつゲームのプロなんて、すごいわねぇ。イマドキねぇ!」


 ユニの表情が次第に緩んできて「そうでしょでしょ! ていうか、ゲームのプロって引退してからが大変らしくてぇ。ほら、リアルなスポーツでも監督になったりコーチになったりしますじゃーん? でもそれって一部だけだし? ゲームのプロだと、まともに暮らせるほどの給料が支払えなくて兼業みたいなのがありありらしくて?」と口調も徐々に戻ってきている。


 おそらく目的地であろう店が見えてきた。

 ポーズを取らされているマネキンと、壁に貼られているポスター。


 我はポスターに釘付けになってしまった。


「うちのところは手に職って感じではないんですけどけど、院卒で新卒で働き口が見つけられたらなって」

「なるほどねぇ。ちゃあんと学生さんの将来を考えてあげているのね!」


 十文字零。

 現在の我と瓜二つな女性が、オレンジ色の水着を着ている。澄んだ水色の海を背景に白い歯を見せていた。

 そんなポスター。


「あら、モアちゃんにそっくりさんね」


 おばあさまがポスターに気付いて、その顔を交互に見てから言う。

 我は彼女をコピーしたのだからそっくりであって当然ではあるが、人間の外見をコピーできる話はまだしていない。

 今するべきであろうか。


「前にさあ、モアちゃんは『ユニとタクミが姉弟みたい』って言ったじゃんか」


 最初に研究室を訪れた時、我は言った。

 タクミとユニが言葉の応酬をしているのを見ての発言だぞ。

 覚えているなんてすごいぞ!


「私からしたら、モアちゃんと参宮くんが姉弟みたいに見えちゃうのよねーん?」

「そうねえ。最初にタクミくんがモアちゃんを家に連れてきた時に、雰囲気の似ている、お似合いの二人だと思っていたわ」


 ふんふん。

 我にとってタクミは運命の存在であるからな!

 二人がそう思うのも無理はないぞ。


(でもでもぉ、それだと零ちゃんとあいつが姉弟みたいって言ってんのとおんなじようなもんじゃーん? なしなし。なしでーす)

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