7限目 放送委員
Dear my friend.
Do you remember those times we spent together?
*****
放課後、私は一人で職員室へと来ていた。いつも一緒にいる咲希は辻本との約束があるため先に帰った。私は日直だったので日誌を担任に届けに来たのだが、タイミングが悪く担任の先生は席を外していた。
「すいません」
仕方なしにそのあたりにいる先生に声をかける。
「おー、斎藤やん。久しぶりやな」
たまたま私の声に反応した先生が振り返り、私を見てにこっと笑う。妙に明るくて親しみやすい雰囲気で、私はこの先生のことはよく覚えている。
「お久しぶりです、江藤先生」
江藤先生は私達の学年の担当教師ではないため、普段関わることは基本的にない。三十代半ばの先生で、担当はたしか英語だったはず。直接習ったことはないが、他の学年の人たちからは人気でわかりやすいという話を聞いたことがある。
先生は放送委員の顧問で、去年放送委員だったときにお世話になった。仕事が多く、拘束時間も長い放送委員だが先生も一緒になって色々とやってくれて、親身になって話も聞いてくれるし困ったら助けてくれて、良い先生だと思った記憶がある。
「日誌か、渡しとくわ。担任誰やっけ」
「太田先生です」
「分かった。放送委員から解放されたのに、遅くまで日直仕事かー」
笑いながら日誌を受け取り冗談をかます先生に気分も明るくなる。
「文化祭前なんで日直とかあんまり関係ないです」
「せやな、文化祭やな・・・」
私の言葉に先生のテンションが少し下がる。
「いや、俺も楽しみは楽しみやねんけどな。委員会がなぁ」
かける言葉に迷う私に対し、先生は手を振って釈明するかのように話し出す。放送委員会は忙しい、特に文化祭は。体育祭でも放送事項が多いため大変なのだが、文化祭は軽音楽が全面に押し出される行事のため放送委員の仕事が多い。校内放送だけでも大変だが、北高文化祭のメインと言われている軽音バンドの屋外ステージライブがある。そこでの司会進行も放送委員の仕事で、さらに軽音楽部やバンドメンバー、委員会メンバーとともに会場設営や進行についての頻回な打ち合わせなどがある。
顧問である江藤先生は毎年それを捌いているとはいえ、なかなか大変そうだった。
「斎藤は今年の文化祭ちゃんと楽しめよ」
仕事量の多い委員会から解放された私に先生はそういう。
「去年もちゃんと楽しかったですよ」
けど、私は去年も楽しかったと思っている。たしかにやることが多くて、クラスの手伝いや店番に協力できることは少なかった。友達と放課後一緒に準備したり、一緒に当日を目一杯楽しむなんてことはあまり出来なかった。
でも、先生や放送委員の先輩や同級生と四苦八苦しながらやったことは楽しかった。文化祭当日、委員会の相方と「みんな楽しそうやな」と言いながら放送室に籠もって校内放送をしながら、パンフレットを見てどこに行きたいか一緒に考えたりするのも楽しかった。
「ほんまか?それ聞いてちょっと安心したわ」
学校一仕事量の多い放送委員――、それも何も知らない一年生がいきなり知りもしないし興味もないことをしなければならないのは先生にとっても心配なところがあったのかもしれない。
たしかに放送機器のことなんて知らないし、いきなりマイクに向かって校内放送をするなんて緊張するし正解も分からないって思うところもあった。今思うと、よくやっていたなとも思う。
でも、やっぱり文句を言いながら相方に頼りながらやって、放送の合間のマイクを切っている時間につまらないことを話したり、お互いのクラスのことを話したりするのは楽しかった。授業がどこまで進んだとか、どんな抜き打ちテストがあったとか、どの教科の何が得意不得意なのかとか話して教え合ったりとか、スキマ時間のそういうのが楽しかった。
私が北高に入ったのは成績的に行けたのと、家からそれほど遠くないのと、見学に来たときの空気感が気に入ったからだった。だから軽音活動に強い興味があるわけでもなかったから、放送委員になった当初はめんどくささと覚えることの多さで辟易していた。
でも、やっていくうちに知らないことを知ることができ、わからないことは先生や先輩、相方が協力してくれた。そういうのがあったから、私にとって放送委員をしていたというのは割といい思い出になっている。
「斎藤、・・・――いや何でもない。気ぃつけて帰りや」
江藤先生は何かを言いかけてやめる。何なのだろう、委員会の仕事でも頼みたかったのかと思ったが、先生が言わないなら良いかと思い深追いはせず会釈して職員室を出る。
廊下に出ると放送委員による校内放送が流れている。文化祭を前に、文化祭の屋外ステージに出場するバンドを紹介しているようで日替わりでバンドメンバーが放送室を訪れ、意気込みやバンド紹介を口にしている。自分たちの音楽がどんなのか、メンバーでどんなことがあったのかひとしきり話したあと、代表曲が流される。
廊下に様々な音が響くのを耳にしながら、私は自分の教室に戻る。
Dear my friend 万寿実 @masum1
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