6限目-5


 Dear my friend.

 Did you see the full moon yesterday? It was bright, big, and beautiful.





 *****




 いつのまにか空の青は秋色に染まりつつあった。広大な青空に、ところどころ浮かぶ雲がきれいに見える。まだ昼間の暑さは残っているけれど、朝と夜の風は涼しくなり心地が良い。暑い暑いと言ってのけ者のようにしていた夏が終わりを迎えつつあり、なぜか少し名残惜しくなってしまう。


 選択Bの教室で知らない誰かとのやりとりは続いており、秋の到来を感じる。

 昨日、偶然部屋の窓から見た月がとても明るく、そして真ん丸で思わず見言ってしまった。普段は月の満ち欠けなどきにもしないけれど、時折目にした月が綺麗だと少し得をしたような気持ちになる。


 そして、偶然なのだろうけど昨日の月について知らない誰かがメッセージに綴っていた。


 Dear my friend.

 I saw it too

 It was such a beautiful full moon that I couldn't help but stare at it.


 もう慣れっこになった返事を書いて、私は授業を聞きながら知らないけれど知っている相手について考える。相手のことは何も知らないし、わかりそうな要素もない。たぶん、これから先に相手のことを知ることができる何かもきっとないだろう。


 相手が自分のことを開示してくることはなく、私も自分のことを知らせる何かを書くこともない。こうして一定の距離と関係を保ったまま、いつの間にか私達は「友達」になった。当たり障りのない世間話と、季節の話をしながら詰める距離はとても居心地が良い。


 相手が誰か、どんな人か気にならないわけではない。同級生なのか、そもそも生徒なのか、そういうことを考えながらも、答えにたどり着くことも正解がわかることもない曖昧な関係が不思議と嫌ではなかった。


 返事を書きながら、私は再び窓の外を見る。晴れ渡った青空は見ているだけで心を洗われるような気分になる。机越しの相手はこの空を見上げているのだろうか、ふとそんなことを考えてしまう。


 何も知らない相手が見ている世界がどんなものなのか、私が見ている世界をこうして綴って伝わっているのだろうか。無機質な英文を互いに綴り合いながら、私達はそれぞれの彩りの世界を伝え合い、読み合い、想像する。文字だけの私達のつながりは、そうして綴り合いを重ねて繋がっている。


 ネットやデジタルの世界ではない、現実の今をお互いの手で書いた文字で繋げていっている。相手の文字の大きさやクセに、デジタル上の文字では伝わらない相手の息遣いというか中身のようなものを感じる。時にはちょっとした綴りの間違いもあるし、消えかけているときもある。そうしたものに「今」という時間を感じられ、そしてそこに自分がいるんだと実感することができる。


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