6限目-4
Dear my friend.
It's a consecutive holiday from tomorrow. Do you have any fun plans?
*****
秋空が広がり、青い空に広がる薄い雲が気持ち良さそうに漂う。学校にたくさんの音が響き渡るなか、私と咲希はそそくさと校舎を後にする。余韻を残す音が少し切なく秋の空気がそれを助長するかのようだった。
文化祭が近づくなか、祝日があるため週末から月曜日まで連休となる。珍しくバレー部も金曜日の部活が休みらしく、いつものメンバーで放課後遊ぶことになった。遥香と早織は物理の提出物やらなんやらで少し時間がかかるということで、私と咲希が一足早く雑多な街中に繰り出していた。
この辺りで一番大きな駅には雑音と人々が行き交い、少し油断すれば人混みに巻き込まれそうになる。特に駅の中央改札付近は人の出入りが激しく、私は咲希と離れないよう必死にあとをついていった。バス通学の私は人混みを掻き分け進むということが基本的にないが、電車通学かつ乗り換えでこのターミナル駅を使っている咲希の足取りに迷いはない。
駅の建物のなかだけでも、有名や人気な店が多く入る。あらゆるところから良い匂いがして、そして明るい声が響き渡る。あまり来ない場所に少し緊張と興奮する私に対し、咲希は「こっち」と言い先陣をきって目的地へと足を運ぶ。
少し駅の雑踏から離れたところにあるカフェに入る。中は私たち同じような高校生が数多くおり、みんなの表情は明るい。
「早織に連絡しといたから、そのうち来るやろ」
慣れたように咲希は席を確保し注文に入る。
「辻本とよう来てるんやろ」
ここへの足取りも、店についてからの様子もあまりにも手慣れたものであり私は思わず目の前の咲希をにやりと見つめてしまう。
「一輝だけとちゃうで、ここはNIKKUがよう集まんねん。駅からちょっと離れるけど、ゴミゴミしてへんからええやろ」
私の茶化しに咲希はため息混じりにそう答える。咲希曰く、元々人気のNIKKUは文化祭への出場権を得たことでさらに多忙となっているという。たかが学校行事の個人的なバンド活動といえばそれまでだが、それでも全校生徒や彼らの噂を聞きつけた近隣住民や他校の生徒の期待は高い。デビューもなにもしていないNIKKUだが、その人気はここらじゃ不動のものであり、その人気と期待を背負って彼らはいつもステージに立っている。
「すごいよな、NIKKU。バンド組んだん、高校入ってからやろ」
「すごいよな、ほんま。頑張りすぎやねんけどな」
表情が曇り、咲希の視線も自然と下を向く。いつも明るくハキハキとした咲希のその表情に私はなにも言えなくなる。光を浴びる人気者たちのその裏を咲希はたぶん、ずっと見ている。NIKKUのメンバーでもサポーターでもなく、ただ付き合っている彼氏がそこのメンバーだったから自然な流れで知ったのだろうけど、咲希の表情は暗い。
人気バンドの花形ともいえるボーカルが咲希の彼氏で、私たちが思うよりも咲希と辻本が共に過ごす時間は短く少ないのかもしれない。NIKKUが人気になればなるほど、日の光が当たれば当たるほど咲希は辻本との時間を削られていくのかもしれない。辻本をはじめとするNIKKUのメンバーに対し、私をはじめ周囲の生徒たちは悪い話を聞いたことがほとんどない。素行が悪いとか、遅刻や欠席が多いとか、成績が悪すぎて補習や留年の危機にあるとか、他校の生徒とひと悶着あったとか・・・そういう話は聞かない。
NIKKUはバンドとしての人気を確立し自分達の音楽を作り続けながら、当たり前の高校生活や勉強もしている。それらすべてを取りこぼすことなく継続し続けるなかには、犠牲やなにかを諦めることもあるのかもしれない。
冴えない表情の咲希に何を言えばいいのか分からないまま、注文された飲み物が届く。
「安芸、今日はハードメニューやで。二人が来たら駅向こうのショップ行って、そのあとプリ撮りに行って、カラオケ行って・・・。あ、あそこに期間限定ショップできてるから覗かなあかんし、最近モールのなかリニューアルされたらしいから、そこも見たいし」
咲希ほどの暗い表情とは打って変わり、咲希の表情がキラキラと輝く口調も早くなる。街中に繰り出すことが少ない私は、こうして咲希と遊びに行くと楽しいのだが忙しさに毎回疲弊してしまう。
「ちょっと待って、それ・・・これから数時間でするん?」
「最短ルートで行けるよう頑張るわ」
「ルートとかちゃうって、減らそうやん目的地」
任せなさいと言わんばかりの咲希のやる気に私は今から恐れおののく。なんとか咲希を説得しようと試みるが、そんなものが功を奏すわけがなく、話しているうちに遥香と早織がやってきた。
二人と合流すると早々に私たちは目的地へと繰り出す。
現在地と駅をはさんで真逆方向に目的地があるため、再び人混みを掻き分け行く事になる。人混みと雑踏は苦手だけど、四人で雑談をしながら進んでいくことは楽しい。特に遥香は部活があるから一緒に遊ぶ機会が少ないからか、異様にテンションが高い。
話題のコスメのことや、人気の雑貨や文具、憧れのファッションなど街に繰り出せばキラキラしたもので溢れている。知らないことや興味のあまりないものも、友達と一緒に見ると世界は彩る。
目的地があちこちにあるので、足早に次々と店を覗いていく。しかも、気になるものがあればそこにも寄るのでなかなか前に進まない。けれど、そのぐだぐだした感じがそれはそれでまた楽しい。
そうして、放課後の数時間はあっという間に過ぎていく。キラキラ、ワクワクした時間のあとに訪れる何とも言えない疲労感を抱え、私はバスに揺られて帰宅する。
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