なよ竹の戀
今夜は満月。
春宵の月は花霞に染まり、はらはらと舞う花弁がしらじらと輝く月を映す盃に落ちる。
私は目を上げて天を仰ぎ、ほぅ…と軽く息をついた。
月が満ちるたび、今はもういないあのひとに想いを馳せる。なよ竹のように儚げで、しかし芯の勁いひとだった。
――この世はただひと時の仮住まい、いずれ天に還らねばなりませぬ
そう言って儚げに微笑んだあのひとを、夢のような言葉を並べてはぐらかしているだけだと思っていた。
しかし、天女が地上びとと結ばれることなど、許されるはずもなく。あのひとは全ての記憶を奪われ月へと連れ去られてしまった。
今はもう、現し世のことなど忘れ、天上で日々清らかに過ごしておられるのだろう。
あのひとを想って千々に心を乱す私とは違って。
※ ※ ※
誰かに呼ばれたような気がして、わたくしは空を見上げました。
常に中天にあって空を照らす蒼き星は、日ごとに姿を変え痩せては太り、太っては痩せを繰り返します。今宵の星はすっかり痩せきって、全く姿が見えません。
こんな日は、なぜか懐かしさが込み上げてきて、わたくしは涙が止まらなくなるのです。
まるであそこに大切な誰かがいるように。
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