十ノ巻~姉川の戦い①~

姉川の戦い。


 それは、浅井の歯車が狂い出す戦いでもあり、私の運命も狂い、崩壊していく戦いでもある。


 織田・徳川連合軍と浅井・朝倉連合軍。織田・徳川連合軍の軍勢は約二万を超える大軍に対し、浅井・朝倉連合軍の軍勢は一万四千。数では負けている浅井・朝倉連合軍だったが、兄上たちが、なんとか織田の備えを次々と打ち破ってくれたおかげで、織田・徳川連合軍の本陣を肉薄になっていた。私は、織田の本陣へと駆けるが、そこに共に戦ってきた竹中半兵衛たけなかはんべえが私の前に現れたのだ。半兵衛は、相変わらず元気そうに私に話しかけてきた。


「やっほー!元気だった?」


「半兵衛……元気だよ。半兵衛も元気そうで良かったよ」


 私は冷たく言い返した。ここは戦場だ。たとえ、共に戦ってきた相手だろうが、敵になってしまえばそれはそれだ。油断は禁物。すると、半兵衛は悲しそうな表情を見せた。


「冷たいな~僕が敵だから?」


 私は頷き、刀を両手に構えた。


「そうだよ。ここは戦場。半兵衛だろうが敵は敵だ」


「……そっか」


「あぁ」


「ねぇ莉菜」


「何?」


「もう一度、君と一緒に居たいよ」


「……私は浅井長政の軍師。たとえ、この戦で浅井が滅ぼうとも、私は決して織田にはひれ伏さない」


「……秀吉様に仕えれば?」


「嫌よ。今は嫌。でも、時代が駆け巡ることによって仕える日が来るかもしれない。そのときは、秀吉殿がした時だよ」


「その日まで、僕が生きてればね」


 半兵衛は低い声でそう言った。私の頭にはあることが浮かび上がった。 半兵衛は結核で亡くなる。もうこの時から進行しているのではないか? と。 いいや、考えすぎだ。いくらなんでも早すぎる。私はその考えを頭の隅っこに無理矢理入れた。考えたくもない。


 私は半兵衛にこう言った。


「生きているさ!また戦おう?」


「そうだね!」


 半兵衛は優しく微笑みながらそう言った。


「ところで半兵衛。私も元にきたとなれば、私の足止めかな?」


「良くわかったね!」


「天才軍師の友であり一番弟子の私をなめるなよ?どーせ、私を足止めしすれば、私が浅井と朝倉に指示を出せないから、足止めをしているうちに、姿が見えない徳川家康の家臣に朝倉を攻めさせて、混乱した朝倉をさらに、織田が朝倉に攻め、挟み撃ちにし、浅井と朝倉は撤退するしかない。そうでしょ?」


「大当たり!そうすることによれば……ってこんなの聞いてない!」


 半兵衛は突然そんなことを言い出すと、私の後ろを人差し指で指した。私は後ろを振り向くと、夜にしか出現しないはずのが軍を率いてやって来た。その軍を率いている真ん中に肩まで伸びている白銀のポニーテールの白の着物の上に黒の羽織りを両肩に掛けている男性が、姫巫女の遣いを率いてこちらへと向かってきたのであった。


続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る