第10話 吉凶入り乱れ!ツッパリ『凛』と真面目『凛』の日常!!(10)



「ナイスツッコミや、凛!今度は合格やで、合格!!うははは!」


「何が合格ですかっ!?はぁーあ・・・・朝ご飯できないって・・・わかっててしたでしょう・・・!?」


「うははは!」



僕の問いに、笑ってごまかす親友にため息が出る。


呆れよりも、嘆きに近い気持ちで伝える。



「もう・・・惑わすようなことしないでくださいよ・・・。」


「いやーすまんすまん!せやけど、みんながサボる時に、わしらだけ学校って割に合わへんやろう!?」


「大丈夫です。ヤマトがガレージにこもってる間に、全員学校に行くと約束しましたから。」


「うははは!ホンマか!?暴走族のヤンキーが何してんねん!?ウケるー!!」


「僕だって・・・・・『凛道蓮』だけで良いなら、学校なんか行かない・・・・」


「わしがからかいすぎたわ。ごめんな。」


「・・・・いいえ。」



静かな声でヤマトが詫びてきた。


彼は、僕の言葉の意味をわかっている。


わかっているからこそ、協力してくれる。


ヤマトだけが、友達の中で唯一、本当の僕の秘密を知っているから。



「はようせんと、朝ご飯弁当を食べるのと『変身する時間』がなくなるわ~!」


「食べたいですけど・・・朝ご飯のお弁当は食べません。僕の分は、ヤマトの家の冷蔵庫に入れておいて下さい。後で、『学校が終わってから』食べます・・・。」


「うははは!!そやったなぁー!お家で朝ご飯用意してんのやったなぁー!?ほな、変身はー!?家族が起きる前に家に入らにゃあかんのんやろうー!?」


「大丈夫です。見つかっても怪しまれないように、朝のジョギングに出かけて帰ってきたという設定にしてますから。」


「うはははは!ええなぁーそれ!?ほんま凛は、いろいろ思いつくなぁ~!?」


「考えますとも。」



陽気な関西人に伝える。




「僕のライフサイクルを、瑞希お兄ちゃん中心で回すためなら何でもします。努力は惜しみません・・・!」



感情を抑えながら、できるだけそっけなく言う。



「うははは!それもそーやな!まぁ、学校ではわしもおるから頼ってきーや!」



そんな私に、ヤマトは優しい言葉を返してくれる。



「・・・ほどほど甘えるよ。」


「アホ!危ない時は、逃げ込んできてええねん!いつまでも設定どおりに動い堵ったら死んでまうぞ!?」


「瑞希お兄ちゃんに告白するまで、死ねませんよ。」




本当は、親友であるヤマトの言葉に甘えたい。


同じ学校なのだから、『一緒にいたい』と思ってしまう。




「凛の教室の前、巡回したろか!?」


「始業式に体育館で会えなかったら、見回りに来て下さい。」


「任せとけ!うはっはっはっはっ!!」



ヤマトの声がこだまする。


暗かった空が明るくなり始める。


それとは真逆で、私の心は暗くなる。


シンデレラは12時の鐘で魔法がとけた。


『僕』の場合は、それよりもっと複雑。


ヤンキーらしく、学校をサボりたい。


本当は学校なんて行きたくない。


行きたくないという感情しかないけど、そこは理性で抑え込む。




(行かなきゃダメ。)



将来のためにも行かなきゃいけない。



(好きなことを続けるためには、何かを犠牲にしなければいけない。)




だから、逃げれない。


逃げることができないから。


嫌なんだけど、学校が嫌というよりも・・・・・・・




(凛道蓮の魔法をときたくないだけなんだろうけどね・・・・)




ヤマトのバイクのスピードが落ちる。


彼の家に近づいたのだとわかった。



【凛道蓮】でいられる時間が短くなったことが嫌だった。







朝日の中を走る。


ジャージ姿で、『私』は走っていた。


時々、近所の人とすれ違って挨拶をした。


明るくなった空は青空で、すごく気持ちが良い。


だけど、気分まですっきりはしない。


朝の散歩とジョギングをしてきた風に装って、玄関から堂々と家の中に入った。


扉の閉まったリビングから、人の気配と声がした。


気づかれないように、ゆっくりと玄関を閉めて、足音を立てないようにお風呂場に向かう。


軽くシャワーを浴びて汗を流して、髪型を整えてから自分の部屋に入った。


そして、ハンガーにかかっている清潔な制服を身につける。



変身をといた『僕』は・・・本当の姿となった『私』である時が、苦痛でならない。




「おはよう、お父さん、お母さん。」




秋用の制服のスカートを気にしながらリビングに入る。




「おはよう、凛。朝ご飯、早く食べちゃいなさい。」


「凛、おはよう。今日から新学期なのに、ゆっくりしてるんだな?」


「うん。」




両親の言葉にうなずきながら、食卓に座る。


凛道蓮は仮の姿。


本当の『私』は菅原凛、15歳。


あゆみが丘学園1年組の女子高生。


両親と3人暮らしをしている。


これが本当の私。


男の子のふりをして暴走族の総長をしてるけど、その正体は地味な女の子。


私が男装女子であることは、恋愛対象の瑞希お兄ちゃんはもちろん、カンナさん達も知らない。


知っているのは、五十嵐ヤマトを含めて2人だけ。


こうなったのは、誤解と成り行きと私の都合が原因だ。




〔★詳しくは、【彼は高嶺のヤンキー様(元ヤン)】を見てね★〕





朝食の並んでいるテーブルに近づけば、先に席についていた父親が言った。




「今日はいつもより遅かったぞ?寝坊でもしたのか?まだ夏休み気分が抜けてないのか?」


「違うよ、お父さん。朝の勉強してると、どうしてもギリギリになるの。」


「なんだ、勉強頑張ってたのか~?感心感心!」




(本当は、凛道蓮から変身して、元の姿に戻るのに時間がかかっただけだけど・・・。)



まさか両親も、娘が男装して暴走族の総長をしているとは思わないだろう。



〔★ほとんどの親が思わないだろう★〕




ご機嫌なお父さんに対し、そんな夫にあきれた様子でお母さんは言った。



「当然よ。凛が寝坊するわけないでしょう?仕事仕事で、凛に関心がないからわからないんじゃない?」


「な!?そんな言い方ないだろう!?俺だって忙しいんだぞ!?」


「そうよねー夏期講習で大変だった時も、全部私に丸投げだったもんね~?」


「だったら、薬物中毒の生徒がいない塾を選べよ!おかげで、凛まで被害にあいかけたんだろう!?内心に響いたらどうするんだ!?」


「私のせいにしないでよ!警察だって、天文学的な遭遇率だって言ってたのよ!?塾はやめさせた!他を探すんだから、問題ないでしょう!?」


「当たり前だ!」


「偉そうに!」


「なんだと!?」



(毎日毎日、朝から激しいわね・・・)



いつもの光景にうんざりする。


両親は・・・とても教育熱心で、娘思いだけど、喧嘩が絶えない。


しかも、原因が私だからすごく気まずい。




〔★夫婦喧嘩は、子供のとっては騒音だ★〕






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