昔見た映画の感想をだらだら書く。時々新しい。

Tempp @ぷかぷか

第1話 『死霊のはらわた』の系譜

★章表紙 https://kakuyomu.jp/users/Tempp/news/16817330649969297855


 こんにちは。ようこそお越しいただきました。

 ここはダラダラと映画のイメージを述べていくエッセイです。大抵映画の感想ですらない。


 さて、だらだら映画エッセイ流れ第1弾は「死霊のはらわた」です。

 なんでいきなりこれなん、というと特に理由はない。最近どっかで「サム・ライミといえば最近は『はらわた』じゃなくて『スパイダーマン』なのが解せぬ」とコメしたからだと思う。それでサム・ライミは死霊のはらわたを作るために大学を中退した。パンクな野郎だ。


1.大雑把な紹介

 アメリカで1980年代にスプラッタが流行った。

 これを後押しした作品の1つが『死霊のはらわた』といわれている。なお原題は『The Evil Dead』で、悪い死霊とかそういう意味だ。邦題がなかなか良い。そして自分はこの映画が好きだ。この映画では葛藤はたいして描かれないのに葛藤の要素に溢れているところが好きだ。けれどもその辺はネタバレになるので末尾に譲る。


 まず簡単にあらすじ紹介。主人公のアッシュたち5人はバカンスに行った山荘の地下で『死者の書』と録音テープを見つける。思わずボタンを押すと死者の書から悪霊をよみがえらせる呪文が再生され、そこからスプラッタ展開。


 さて、この作品はホラーを基調に作られていて、そのホラーの中には多分に笑いが挟まれている。サム・ライミのホラー作品は全般的に、そんなに吹き出ないだろっていうレベルで血がドバーっと出たり、不自然に笑い出したり白濁液に溢れたりと演出がオーバー気味だ。全体的に過剰に非日常感を演出している。「日常ではないので安心してください」というメッセージのようにも思えるかな。

 世の中には「笑えるホラー」というジャンルがあって、それをもたらすのは非日常感の配分の絶妙さにあると思うんだ。非日常感が何らかの恐怖の閾値を超えると笑いに転嫁するのではないかなと思っている。そして更に追加で一定の閾値を越えるとシラケてしまう。自分の感触だけれど、非日常感が高いほど笑いに落ちるハードルが下がる。だからサム・ライミは必ずしも恐怖だけを演出したかったのではないと思うのです。

 それで撮影当時の時代背景なんだけど、人体損壊等をビジュアル重視で描き始めたのがこの1980年代だと思う。スプラッタの金字塔として『死霊のはらわた』を押す人が結構いるのはそれが理由じゃないかな。


 けれどもスプラッタ自体は1960年代が発祥だ。最初のスプラッタの定説は『血の祝祭日』。実は自分はこれをまだ見ていないのだけど、これはテーマは食人であって、人を解体すること自体はテーマでないように聞いている。つまりスプラッタ行為を行うための理由がある。

 その流れは1970年代に至っても続いていて、例えばトビー・フーパ―の『悪魔のいけにえ』でもレザーフェイスが人を殺す理由というのは一応あって、人の異常性というテーマも一応設けられていた。んん、このスプラッタの素晴らしさとかを詳細を書くと他のエッセイ書く時のネタにつかえないからこの程度で控えるのだ。


2.この映画の特異点

 自分がこの『死霊のはらわた』が特異点だなと感じる点は、理由なんかすっとばしてひたすら人体損壊を続けるところ。不幸の起点にレザーフェイスみたいな人の異常性なんかすら欠片もなく、例えば誰かが誰かを殺したいという恣意もない。単に不条理なのだ。

 この映画の不幸の起点は、たまたま主人公たちが偶然訪れた山荘でいたずらのように置かれた『レコーダーのスイッチを押す』だけだ。誰も訪れなければ永遠に呪いは発動しないかもしれない。つまり「主人公たち」に不運が発生する納得できる理由がない。

 そこから繰り広げられる鮮烈な惨劇。

 そういう不条理なところがとても好き。無味乾燥な理由でカラフルに死に浸されていく主人公たち。その対比がとてもエモい映画です。でもまぁ、これは後で思い返すエモさであって、見ている間はひたすらヒャッハーしてるだけのノリのいい映画です。なお人体損壊シーン自体も悪くないです。でもイメージとしてはグロいというよりは汚いのほうが強いかも。


 理由のない人体損壊といえばゾンビはちょっと事情が異なる。

 ……食欲という意味は一応あるのかな。

 ゴア表現に限れば、ゾンビは1960年代から意味もなく人を襲ってるし1970年代にフルチ監督がじゅくじゅくしたり渇いたりと色々なパターンの質感のゾンビを生み出している。1970年代はスプラッタよりゾンビの方がより凄惨表現が多くて多様だった気がするかも。でもソンビというのは「資本主義のアンチテーゼ」とか「神の怒り」とか「災害」とかいうマス的な理由があるからやっぱサム・ライミとは違う気がするの。


 それから漠然とした雑感だが、日本人と外国人のゾンビ感は違う。宗教にも寄るのだろうけれど、日本人にとって個別の人間関係がなくてもゾンビというのは「死んだ人」なわけだけど、外国人の感じるゾンビは知り合い知人じゃなければ「人間」の範疇に入らない気がするな。そうじゃない作品も多くは有るけれど。

 ゾンビの怖さをどこに感じるかというのも国によって違うのかもしれない。そのうちゾンビ特集でなんか書こう~。と、蟹味噌食いながら書いています。そういえば『スプラッタ』というのは血とかが『スプラッシュ』することが語源だそうで、ゾンビは既に死んでてスプラッシュはしないからその点でも違うのかもしれない。


3.後続死霊のはらわた

 さて最後にサブタイに『系譜』とけたからその後の話をしよう。死霊のはらわたには続編がある。3まであわせてカルト映画三部作と呼ばれています。自分がシリーズの中で一番好きなのは『死霊のはらわた2』。1の続きではあるのだけど、より笑い方向に舵をきった作品。主人公のアッシュが1人で七転八倒する姿の超絶演技が光っていて、それだけで眼福な気分。

 この映画はスピード感がおかしい。朝と思ったら即効夜。オーバーすぎるアクションと謎のスピード感は一息もつかせることなく視聴者をエンディングに連れていく。不要なシーンを躊躇いもなくカットして凝縮して過剰演出を詰め込んだ結果だと思うのだけど、それでも破綻し……ないのらすごくうまい。


 そしてそれに続く『キャプテン・スーパーマーケット』。日本では『死霊のはらわた3』の名前で公開された。こちらは完全にコメディに割り振られている。これはアッシュが2のあとタイムスリップしてアーサー王に捕まる話だ。面白いといえば面白いけど既にホラーではないし、どちらかというとファンタジーかな。

 アッシュの演技の素晴らしさは相変わらずなのですが、非日常感というものは日常がベースになっていることで対比が産まれるわけで、3はホラーの只中の日常との対比ではなく、もともと非日常のファンタジーの中での七転八倒なのでインパクトが少し薄い。


 それから2013年にリメイクされている。監督はフェデ・アルバレスという違う人なのだけどやっぱり演出が上手い。そういえばサム・ライミの描く『死霊のはらわた』は勢いに飲まれる映画だけれど、それをもたらすカメラワークやライティングは本当に素晴らしい。それはこのリメイク版にも受け継がれている。特にライティング。

 この監督はドント・ブリーズというホラーを撮っているけれど、演出はよかったのだけれどもどうも主人公が被害者妄想強めのヘタレなので好みではなかった、かも。


 それから『新・死霊のはらわた』という同時期の作品もあるけれど、これはJRブックウォーターという監督が作ったゾンビ作品だ。原題は『THE DEAD NEXT DOOR』といって、訳すなら『隣の死人』とかかな。邦題の被害者である……。でも登場人物の名前がライミとかザビーニだし作中に死霊のはらわたの映像が流れるしでどれだけインスパイアしてるかがわかる。系統は違うけれど。


 というところで本日はここまで。お読みいただきましてありがとうございました! 最後に最初の方に書いたネタバレを追記しておきます。当該エッセイは常にリクエストを募集しております。

 See You Again★


ーーーーーーーーー以下おまけのネタバレ部分

 この映画は何が面白いかというとその心理的なギミック。まずは呪いの呪文。これを自分で唱えない。テープレコーダーをinにすると、「これから呪いの呪文を唱えるから嫌なら止めろ」という声が入っている。酷い罠だ。若者だから当然止めない。止められるわけがない。それによって呪いが発動する。

 この不可避の巻き込まれの演出方法がとても面白い。主人公たちは最終的に中身がわからないまま「スイッチを入れる」。そして中身が分かったまま「スイッチを止めない」という不作為が発生する。既に始めてしまったのなら、そうそう止められるものじゃない。これ、心理描写にするとたまらないのでそのうち何か小説で書こうメモメモ。

 それからこの映画では呪いによって家族や友人が変質して襲ってくる。これに対して主人公は「呪われてるってだけで殺していいのか」と少しだけ葛藤する。この小さな要素を起きつつも基本はスプラッタに振る。あくまで主人公を殺しにかかるのは周囲で煽り騒ぎ倒す死霊ではなく呪われた『家族・友人・恋人』。だから主人公は「やむを得ず」斧を振るうのだ。この設定はそそるのでやっぱり何か小説で書こうメモメモ。

ーーーーーーーーー以上ネタバレ終了

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