第26話 どうしたらいいかわからねぇよ……。

「敗北ついでに、こいつに話したい事がある。席を外してくれるか?」


 丸椅子をベッドに横に持ってきて座ると、いつにも増して真面目な顔をした先生。それを見たイアリちゃんは目を見開き、ムフフと笑いながら口を手で隠した。


「とうとう来たね! ミッチー! お邪魔虫は消えましょう! ね、先生っ」


 と、オネット教授を背中を押しながら、医務室から離れていった。


 いや、でも、イアリちゃん。ムフフな展開にはならんと思うよ?


「……ミッチェル」


「はいっ」


 低い声で名前を久しぶりに呼ばれるとドキッとするな。


「……お前の両親はやまいで亡くなった。とある村の、伝染病で」


「知っています。先生が話してくれたじゃないですか」


「ああ……。……そして、俺は……、お前の両親を解剖した」


「知っています」


「え……」


 先生は目を見開いた。


「魔法で隠していますけど、開かずの扉的な部屋ありますよね?」


「ああ」


「そこに、門外不出な書類が保管されてありますよね?」


「……見つけて入ったのか?」


「はい」


 先生は苦笑した。


「さすが天才ベビー」


「だから、それやめてください。で、そこに両親の解剖所見がありました。どう見ても達筆すぎて汚く読みづらい先生の字でした」


「悪かったな、汚く読みづらくて」


「いえ、おかげで先生だとわかりました。そこに魔法文字で誰にもわからないように書きましたよね?」


「——……」


 先生はまた目を見開き、諦めたように笑った。


「……あれも見たのか」


「……見ました。思わず大切な書類を涙でダメにしちゃうとこでしたよ」


 魔法文字。そのまんまの意味で魔法で書く文字のことだ。透明な文字。燃やしても水に漬けても浮かんでこない。魔力を注いで見るしかない。

 機密文書や、悪い人たちはこれを使って密売とかしている。でも、わかる人にはわかる。

 その書類を持つと、魔力が体に流れてくるから。


 そして、先生の魔法文字はこう書いてあった。




 —尊敬するクロウ教授を解剖した事は、正しかったか。今でもそれはわからない。


 あの人は最後にでかい難問な課題を出していきやがった。


 そして、託されたは、先輩方みたいに、いや、先輩方以上に、その名前の通り、たくさんの可能性を秘めていた。


 脳を使っちゃならんのに、無邪気に数式を解いていく子供を、止める方法なんざ知らんし。あんなに楽しそうなあいつを、ミッチェルを、止めてはならないとも思う。



 クロウ教授。


 

 あんたの残したもん、でかすぎて、どうしたらいいかわからねぇよ……—



 と、震えた文字で。

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