9、三人称のお悩みについて
先日、三人称で書いているけれど一人称っぽくなるのが悩みという話を聞きました。
これは、仕方がないと言うかしょうがないことだったりします。
三人称の地の文には、「主観」と「客観」があります。
主観と言うのは、登場人物の誰かの立場に立ったように書くことです。
(あくまでも一人称〈私、俺〉ではなく、主語は名前か彼、彼女等)
客観とは、誰の立場でもなくお客様として外側から見たように書くことです。真の神の視点とも言えると思います。
三人称でもこの主観的な立場で書かれている場合、特に主語に主人公名が多く使われると三人称にも関わらず、一人称のように感じてしまうことがあるかもしれません。
三人称で客観的にだけ書いていくと、なかなか心理描写などが入れにくい場面が出てきてしまい、淡々とした印象なりがちなので私は、主観的な三人称を書くことが多いです。
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例えば、両片思いの主人公(男)とヒロイン(女)がいて、今まさに告白しようとしていた場合、ドキドキや想いを両方の立場(主観)で書き込むと、ごちゃついてしまいます。
〈例〉
突然の大雨。傘のない彼女を一緒の傘に入らないかと誘ったのは、彼の一世一代の勇気だった。強く拒まれるかもしれない、そうしたらもう立ち直れないし、一生この想いを口にすることもなく終わるだろう。
彼女は頬を赤らめて、コクンと頷いた。
ドキドキしていた。片想いの彼に誘われて驚いたが、同時に期待もした。
彼ももしかしたら、私のことが好きかもしれない。
自分のことを少なからず想ってくれていると期待していいのだろうか?
彼は、自分の肩が濡れるのも気にせず彼女に傘を精いっぱい傾ける。
この想いが伝わればいい。
彼女が彼のびしょ濡れの右肩に気付いたのは、駅に着いた時だった。
客観ではなく、彼と彼女のダブル主観の三人称で書きました。
読めなくはないですが、彼の立場から見ているのか、彼女の立場から見ているのかがわかりにくいかと思います。
これを、彼の主観をメインに書くとこんな感じになります。
〈例〉
突然の大雨。傘のない彼女を一緒の傘に入らないかと誘ったのは、彼の一世一代の勇気だった。強く拒まれるかもしれない、そうしたらもう立ち直れないし、一生この想いを口にすることもなく終わるだろう。
彼女が頬を赤らめて、コクンと頷くのを見て、自分のことを少なからず想ってくれているのではと期待する。
彼は、自分の肩が濡れるのも気にせず彼女に傘を精いっぱい傾ける。
この想いが伝わればいい。
彼の右肩は駅に着くころには、びしょ濡れになっていた。
彼女側の主観を削除してみました。
だいぶすっきりして流れが良くなったかと思います。
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三人称であっても、誰の主観であるか(誰寄りのカメラか)を意識した方が読者にはより分かりやすい例でした。三人称だけど一人称の雰囲気が出てしまうのはこの主観が主人公に近いことで起こるのではないでしょうか?
間違えではなく、むしろできているから起こる現象とも思います。
ただ、どうしても気になる場合は複数の主観が混ざってないか、文字色を変えたりして、確認する方法があります。お試しください。
他の人の主観に変えるときは、章(パート)や空行、記号などを利用して読者に察してもらう工夫もあります。。
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三人称の主観を混在させないのは、現地からの中継のあるニュース番組をイメージしてもらえると分かりやすいかも知れません。
現場A国からの中継。
現場B国からの中継。
AとBがお互いの現場中継で頻繁にマイクを取り合ったら、見ている側は混乱してしまいますね。
ある程度、持ち時間(情報量)を決めて中継するなら、そんなに混乱はないかと思います。
ときどき、スタジオのキャスター(客観的三人称。神視点、ナレーター視点)を挟んで解説や説明を入れてもいいですね。
先のお悩みの気付きになれば幸いです。
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