第20話

【サヤ視点】


 今日はイツキ君と水族館デートだ。

 水族館のゆったりとした空気は会話が弾む。

 デートには最適だ。


 水族館の前で手を繋ぐ。


「お二人はカップルですか?カップルの場合お一人500円で入場できますよ」

「わあ、偶然でラッキーだね。私とイツキ君はカップルでよかったね?」

「ん?あ、そうだな」

「イツキ君、今日はカップルだよ」

「お、おう」


 作戦その1

 カップル割引を利用する。

 期間限定キャンペーンを偶然見つけた体で急接近する。

 偶然ではなく狙っていた。


 私は両腕でイツキ君の腕に絡みつく。

 一瞬だけイツキ君が固まった。


「カップルだよ」

「……おう」


 カップルだから腕を組むのは普通。

 組まないのは不自然すらある。


「今日はカップルだから、カップルらしくシヨ?ね?」

「そうだな」


 イツキ君の手が大きい。

 筋肉質な体の感触が、イイ。

 それに、暖かい。

 イツキ君は私の太陽。


 私は無事に、カップルとして水族館に入った。




 作戦その2

 薄暗くて神秘的なシチュエーション。

 青と紫の薄暗い空間はデートに丁度いい。

 イツキ君の恥ずかしさを紛らわせてくれる。


「イツキ君、クラゲを見に行こう」

「クラゲか、行こう」


 クラゲルームは最も暗い。

 お互いの顔がはっきりと見えないほど暗い。

 主役はクラゲ、と見せかけて恥ずかしさを忘れさせてくれるこの雰囲気だ。


「プラネタリウムみたいだね」

「さすが、美術も得意なサヤ画伯だ」

「もお、そんな事ないよ」


「だから椅子があるのか」

「そうかも、座ってみようよ」


 ラブチェアー作戦も成功。

 私はイツキ君を椅子に誘導した。

 そしてイツキ君に私が座る。


「え!これは!」

「大丈夫、誰が座ってるか暗くて顔が見えないよ。それにほら」


 クラゲルームに入った子供が私とイツキ君を見て戻っていく。


「カップルがいると、入りにくいよね?」

「なんか、不倫をしているみたいだ」

「ふふ、悪い事は何もしてないよ?」


 私はイツキ君の腕をシートベルトにする。

 このホールド感がたまらない。


「な、なあそろそろ」

「イツキ君、本当にプラネタリウムみたいだよ!見て!」


 クラゲが幻想的な光に照らされて、ふわふわと浮かぶ。

 私はイツキ君に座り続けた。



 ◇



「私が座るの、慣れてきた?」

「少しは、慣れた」

「じゃあ、毎日イツキ君に座ってもいいよね」

「えええ!」


「でも、たくさん座ると、イツキ君が疲れちゃう。次に行こ」


 私は立ち上がってイツキ君の手を握って移動した。



 作戦、失敗。


「きゅ!きゅ!きゅいい!」


「コツメカワウソが立った!こっちに来たぞ!」


 コツメカワウソが後ろ足で立って私とイツキ君を覗き込む。

 イツキ君がこんなに反応するとは思わなかった。

 なんで水族館にカワウソ?

 合わない気がする。


 イツキ君がはしゃいでガラスをタッチする。

 繋いでいた手が離れる。


「見てくれ!寄って来たぞ!」

「きゅ!きゅきゅう!」


 イツキ君が私の肩を引き寄せた。


「コツメカワウソは好奇心が強くてすぐ寄って来るんだ!あそこを見てくれ。あっちは密集して固まっている」


 イツキ君の腕が私を引き寄せる。


 イイ


 良き!


 もし飼えるなら、イツキ君と一緒に住んでコツメカワウソをペットにするのもいいかもしれない。

 それに、イツキ君の子供のような表情も、イイ。

 ううん、その前にイツキ君との子供が先だろう。

 3人以上は欲しい。


「あ、サヤ?恥ずかしかったよな?悪い」


 イツキ君が手を放そうとする。


「ち、違うよ!今日はカップル!カップルだよ!キープ!キープしよ!」

「でも、顔が赤い」

「そ、そんな事ないよ!食事、食事にしよ!」

「もう、そんな時間か」

「水族館の中にレストランがあるよ。そこに行こ」


 レストランの入り口に向かうとイツキ君が立ち止まった。


「カップルが、多すぎる。入れないだろ」

「イツキ君。2人はカップル、さ、入ろ!」


 後ろからイツキ君を押す。

 でも、びくともしない。


 私は全力でイツキ君を押した。

 その様子を周りが笑顔で見つめる。


「まあ、初々しくて良いわね」

「高校生かしら?」

「ふふ、新しいカップルかしら?あのレストランははいりにくわよねえ」

「でも、普通に入った方が目立たないわよね?」

「そこが初々しくて良いんじゃない」


「サヤ、入ろう!」


 イツキ君が私の背中を押してレストランに入った。

 席に着くと私はイツキ君の隣に座った。


「サヤ、顔が赤いぞ?」

「そ、そうかな?さっき見られてたから、かも?」


 本当は違う。

 イツキ君が私の背中を押してレストランに入ってくれたのが嬉しかった。

 もっとイツキ君から触って欲しい。


「イツキ君、このラブセットを頼もうよ」

「こ、これは」


 ラブセットを見ると、トロピカルジュースにストローが2つ。

 大きなワンプレートを2人で分け合って食べる。

 そしてデザートの大きなパフェが1つ、これも2人で食べるのだ。


「イツキ君、顔が真っ赤」

「こ、これは、さすがに」

「でも見て、周りを見ると、ラブセットが多いよ?」

「それはカップルだから」


「イツキ君、2人はカップルだよ?私がラーメン一杯を食べきれなくて残したら、イツキ君は残りを食べてくれるよね?それと一緒だよ」

「ん、んんん?」


「私じゃ一人前を食べきれないよ。結局イツキ君に残りを食べてもらうよね?あまり変わらないよ。ラブセットに嫌いな食べ物はあるかな?お買い得だよ?」

「……無い」


「ふふ、ご注文はお決まりですか?ラブセットはお勧めですよ。それにお買い得で味も好評です。おすすめですよ。」

「ラブセットをお願いします」


 私はイツキ君と肩を寄せ合って、ラブセットを堪能した。


「イツキ君あーん」

「ん、むぐむぐ。お、おいしい」


 緊張しているイツキ君も、イイ。

 そしてイツキ君が食べたスプーンで私が食べる。


「おいしいね」

「緊張して、味は、あまり覚えていないんだ」

「ええ、じゃあナニを覚えているのかな?」


 私はイツキ君にくっ付く。

 イツキ君が、私の胸を一瞬だけ見た。

 胸がむずむずして気持ちいい。


 食事が終わり、水族館を出るとイツキ君は疲れていた。


「疲れさせちゃったかな?」

「緊張してしまった」


「そっかー。じゃあ、お出かけはもっと後にしよう」

「そうしよう。家でゆっくりする」

「スーパーに寄って帰りたいなあ」

「荷物なら持つぞ?」


「わあ、ありがとう。お礼に食事を作るね」

「……無理をしなくてもいいぞ?」


 イツキ君は私で緊張して疲れている。


「私は元気だよ。踊り出したいくらい元気だよ」

「そ、そうか」


「行こ」


 私はイツキ君に手を出した。

 2人で手を繋いでスーパーに寄って帰る。

 だって今日、2人はカップルだから。



 今日はとてもステキな一日で、世界が輝いている。





 新作投稿開始です。よろしくお願いします。

『学園初日で決闘に負けて死ぬ悪役貴族に転生した俺、エロ妖精を助けたら人生が変わった。エチエチイベントを起こすだけでレベルが上がり、鍛えれば強い俺は学園最強となる』

https://kakuyomu.jp/works/16817330653539596540




 





 


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