第16話
喫茶店ドリームは昼食と夕食時は混む。
朝日を浴び、散歩をしてから入店した。
この時間なら席を圧迫する事はない。
「ユウ、イツキ君が来たよ~」
おじいちゃんの声でユウが作業を止めた。
「よ!」
「やあ、たまには話をしようか」
「そう言えば最近話をしてなかったよな」
ユウは俺とサヤに遠慮をしていた。
でも俺はそんな遠慮してくれる友人関係も大事にしたい。
俺はメニューを注文してユウの持ってきたコーヒーを飲む。
「うまい」
「どうも」
そこにユウの姉が笑顔で歩いてきた。
「いらっしゃい」
対面に座るユウを席にお尻を半分乗せた。
ユウがソファーを少しどけると本格的に座る。
「先生」
「もお、レナでいいわよ。今は先生じゃないでしょ」
「分かった」
「で、サヤちゃんとはうまくいってるの?」
レナはニコニコしながら俺を見た。
「うまくいくも何も、付き合っていない」
「でも明らかにお互い、ねえ」
「そうだね。両思いだよ」
「俺は前から気になっていたけど、サヤは違うだろ?」
「「違わないよ」」
シンクロするような答えが返ってきた。
レナは新人研修中しかサヤを見てないはずだけど?
なんでわかるんだ?
「イツキは恋愛補正で空気が読めなくなるんだ」
「うふふふ、恋は盲目ね」
「誰だってそうだと思う」
恋は狂った異常状態だ。
「イツキは特にそうよ。でも、うちの生徒だから言いにくいんだけど」
レナは声を小さくして言った。
「サヤちゃんは、ヤンデレな所があるわよね?」
「レナ姉、僕も思ってはいたけど」
「やっぱり!」
「そ、そうか?」
ユウがため息のような深呼吸をした。
何かを話すためにチャージしているようにも見える。
今からサヤについて語るのだろう。
「まずイツキへの愛情があまりにも深くて他の人と態度に差がありすぎるんだ。イツキが手作りお弁当を食べた時の顔を見ればわかるよ。きっとイツキがお金に困れば体を売ってでもイツキの為にお金を手に入れるし、イツキに近づく女性は近づけなくなるように手を回すだろうね」
思い当たる節はある。
ナギサへの対応はそうだった。
「でも、危険ではないと思う。人を監禁したり脅したり殺すまではしないと思うからね。安全なヤンデレだよ」
「ユウがそこまで言うなら、確信があった。そう取っていいか?」
「そうだね」
「私もそう思うわ」
2人の両親は離婚している。
ヒステリーを起こす母親を怒らせないように、怒ったら近づかないように生きて来た。
つまりそういう感覚が研ぎ澄まされている。
人が最大限に学ぶ瞬間、それは苦痛や苦しみを味わった後なのだ。
「人間なんだ。誰しもそういう部分はあるんじゃないか?」
「そうね。それはそうよ」
「イツキは器が大きいね」
「違う違う、嫌いなタイプに当てはまらないだけだ。俺だって嫌いな人間はいる」
「相性が良い、のかな?」
「でも、サヤが俺の事を好きというのはまだ、確信が持てない」
「えーーーー!あれだけくっ付いて来てるのに!?」
「イツキ、サヤはイツキの事が好きだ。好きなんだ。もう一度言うよ。サヤはイツキが好きだ」
ユウは大事な事を言う言い方で言った。
「そう、なのか?」
確かにサヤは俺の事を好きと言った。
でも、それでも確信が持てない。
俺が陰キャだからか。
俺はカラオケに誘われても、俺が行っていいのか考えてしまう。
誘われたんだから行っていいと普通の人は考えるのだろう。
でも俺は違う。
陽キャなら『OK、行く行く!』と言って何も考える事は無いんだろう。
なんだろう、行っていい資格のような物を自分が持っているか考えてしまう。
俺は、俺が陰キャなのが問題なのかもしれない。
「俺は、陰キャだからか」
「そうだよ?」
「そうよ?」
2人は同時に脊髄反射のような答えを返してきた。
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