平行世界28日目その1にゃ~


「なんかあの猫、ずっと悪い顔で笑ってるんだけど~?」


 技術の交換会から帰ったわしが寝室で「にゃしゃしゃしゃ」笑っていたら、ベティが覗いて皆に報告。そりゃ、日本の技術がこんなに大量に手に入ったのだから、笑いが止まるわけがない。

 でも、皆に気持ち悪いと思われたくないから寝室にこもっているんだから、ベティは覗くなよ。


「シラタマは、酷いサギをして来たんだよ~」


 笑い転げているわしでは話にならないと思った皆は、ノルンから事の顛末を聞いて、めっちゃ引いていたらしい。


「なんと……あれだけの量を全て奪って来たのか……わらわにも寄越せ!」

「シラタマちゃん! うちにもちょうだい!!」

「にゃしゃしゃしゃ、にゃしゃしゃしゃ」

「笑ってないでちょうだいよ~~~!」


 玉藻とさっちゃんは別。国の発展に繋がるのだから、わしをめっちゃ揺らすのであった。でも、わしは笑いながら眠りに就いたのであったとさ。



 平行世界28日目は、笑いすぎてわしの表情筋がバカになってしまっているが、大事な人との面会があるからこんなふざけた顔では会えない。なので朝のうちに自分で顔面マッサージを続けている。


「あの猫、ずっと顔を揉んでるけど、なにしてんの?」

「顔が緩みまくってるから、整えてるって言ってたのですが……」

「いつも通りじゃない??」

「ですよね??」


 ベティとリータのやり取りを聞いたところ、どうやら無駄な努力だったようだ。だって、デフォルトがとぼけた顔してるもん。

 なので、ズーンと気落ちして朝食。リータとメイバイはわしの顔面マッサージ。いちおう慰めてくれてるみたいだ。


 それから朝食の席で、リータたちは昨日何をしていたのかと聞いたら、えるスポット巡りをしていたそうだ。言ってる意味がわからないのでララが何かやりやがったのかと見たら、てへぺろってしていたから間違いなく犯人。

 ただ、皆に渡していたスマホやタブレットの画面からは、笑顔の写真と動画があふれていたから、楽しかったのは確実。でも、この全員でポーズを決めて、ただただ前進している動画はなんじゃろう? めちゃくちゃバズってる!?


 何が楽しいかわからない動画を見ながら食事を終えると、わしたちは正装に着替える。わしとリータとメイバイは着物。玉藻は公家装束。さっちゃんはドレス。ララは、リータから借りた着物……


「ついて来るつもりにゃの??」

「いいえ。動画用の撮影よ」

「紛らわしいことするにゃよ~」


 今日のお出掛けは、正装したララ以外の5人だけ。残りは、ベティとララに連れ出してもらう予定だけど、どうなることやら。



 リムジンに揺られてやって来た場所は、皇居。そう。天皇陛下にお会いするから、興味のない者は排除したのだ。


 宮内庁の女性にわしの頭を軽くて撫でられてから案内された部屋は、日本に着いた初日に皇太子殿下と面会した春秋の間。そこには、天皇陛下とその他大勢が待ち構えていた……


「えっと……はじめにゃして。わしが猫の国のシラタマ王にゃ。こちらが妻の……」


 何やらただならぬ圧を感じるが、わしから自己紹介するのが筋だろうとリータたちを紹介したら、次は天皇陛下のターン。


「ようやくお会いできたことを喜ばしく思います。私が日本国を統べる天皇です。よく参られました」

「続きは皇太子の私から。こちらは……」


 天皇陛下の簡単な挨拶から、皇太子殿下がここに集まる者を紹介してくれたけど、全員皇族。子供から車イスの老人までいるので、ぶっちゃけ邪魔な気がする。

 自己紹介が終わるとテーブル席に着くように言われたので、わしは長いテーブルの中央。右隣にリータとメイバイが着席し、左隣に玉藻とさっちゃんが順に座る。


 天皇家は、天皇陛下がわしの目の前。玉藻側に皇太子殿下が座り、あとはたぶん偉い順に両隣を埋めて行ったと思われる。

 皆の着席と同時にお茶が並び、面会のスタートだ。


「先日は、会食に参加できなかったことを、ここにお詫びします」

「ムリヤリ押し掛けたのはわしにゃんだから、謝罪はやめてくれにゃ。どちらかというと、日本を騒がしまくっているわしのほうが謝罪しなくちゃいけない立場にゃ…し……ごめんにゃさい」


 天皇陛下の謝罪は笑って返そうとしたが、喋っている途中で「ちょっとやらかしたかも?」と思ってわしは謝ってしまった。


「フフフ。シラタマ王の活躍は楽しく見させてもらっているのですから、こちらも謝罪は必要ありません。頭をお上げください。フフ、フフフフ……」


 わしが頭を上げたら天皇陛下は満面の笑みだったから、本心だと受け取った。いや、上品な笑い方だが、まったく止まらないから受け取らざるを得なかったともいう。


「それにしても、得体の知れないわしたちの前に、皇太子殿下だけじゃにゃく子供も連れて来てよかったにゃ? 普通、暗殺対策で離れ置くものじゃないのかにゃ?」

「それは前回、シラタマ王に失礼をしてしまったからです……という建前で、単純に皆も平行世界人に会いたがったからですね」

「そんにゃんでいいにゃ??」


 天皇陛下のお言葉をツッコムのは不敬かもしれないが、これだけぶっちゃけているのだから、ツッコムのは礼儀かな? 皇族全員、上品にめっちゃ笑ってるし……


「皇太子からけっこうな品をいただいたと聞き、すぐに読ませてもらいました。是非とも、この本にサインもいただけないでしょうか?」

「「「「「お願いします!!」」」」」

「そっちが狙いだったにゃ!?」


 どうやら皇族全員揃い踏みしていた理由は、猫王様シリーズの小説を読んだから。全員わしのファンになっていたので、わしからサインを貰おうと集まっていたらしい……

 こうして天皇陛下との面会は、開始早々にわしのサイン会へと変わったのであったとさ。



 皇族全員と握手をし、本の全てと人数分以上の色紙にわしがサインをしていたら、小説の質問はリータとメイバイが担当。玉藻とさっちゃんは天皇陛下と皇太子殿下の相手をしているみたい。

 サインが終われば今度は撮影会に移行して、わしの写真や動画をいろんな角度から撮られ、極め付けは【猫干し竿】を装備しろとのこと。


 こんなやんごとない人たちの前で刃物を出すのは気が引けたので断ったけど、「猫干し竿、猫干し竿」と連呼するから出すしかなかった。だってこの名前、ちょっと恥ずかしいんじゃもん。

 もう一本の刀も出せとか言われ、名前も聞かれたけど、【白猫刀・改】だと小説に載っておったじゃろ? なんか嘘っぽいって……どこが??


 神剣とも書かれている刀がバージョンアップ版なのを信じない皇族。でも、【猫撫での剣】と言ったら絶対に笑われるだろうし、天皇家の歴史に刻まれたら何千年も受け継がれるから、口を滑らせるわけにはいかない。


「ああ。その短い刀は……」

「玉藻は黙ってろにゃ! 扇、取り上げるにゃよ!!」

「【白猫刀・改】で間違いない……」


 玉藻に質問が行っても、言わせねぇ。わしの作った白銀の扇も取られたくないから、口裏を合わせてくれた。

 しかし、わしが怒っているので皇族も違う名前だと確信したようだ。だが、これ以上問い詰めても答えは得られないと察してなんとか質問は止まった。



「それで……日本政府から、にゃんか言って来なかったにゃ?」


 ようやくわしも皇族から解放されたので天皇陛下との会話にまざり、心配事を質問してみた。


「ええ。最初は渋っていましたが、シラタマ王が総理と会ってからトントン拍子で事が進みました。やはり、シラタマ王が何かしたのですか?」

「にゃにもしてないにゃ~。きっと陛下の神々しいオーラに気圧されたんにゃろ」

「フフフ。そういうことにしておきましょうか」

「それは助かるにゃ~。あ、いまにゃら総理はにゃんでも言うことを聞いてくれるから、変えたいことはいまのうちににゃんでもやってやれにゃ。にゃははは」

「シラタマ王も悪い猫ですね。フフフフ」


 天皇陛下はわしが何かしでかしたと確信して笑っていたので助言しておいたけど、そこは悪い人では?

 それからもその件に触れて来ないで、わしたちの世界の話を楽しそうに聞く天皇陛下。わしとしては、天皇陛下と雑談できるとは、最高のほまれだ。


 玉藻は皇太子殿下と話が弾んでいるように見えたので、たまにそっちにも参加。どうやら千年間の天皇家の違いを話し合っている模様。わしも聞いていたいが、天皇陛下をないがしろにするわけにもいかないので、極力小説の質問に答えてあげた。

 お昼の時間になっても楽しい会話は続き、天皇の料理番のランチをゴチになる。お返しに、天皇家には猫の国料理だ。


 そうして楽しく話をしていたら、そろそろわしのターンだ。


「実はここだけの話があるんにゃけど……」

「なんでしょうか?」

「どれでもいいから、三種の神器を見たいんにゃ」


 わしのお願いに、今まで優しい顔だった天皇陛下は鋭い目付きに変わった。


「申し訳ありませんが、それだけは……」

「だよにゃ~。でも、こっちにも引けない理由があるんにゃ。ちょっと気持ち悪いだろうけど、念話で聞いてくれにゃ」


 わしの内緒話は、三種の神器の危険性。わしたちの世界にある天叢雲剣あめのむらくものつるぎは、次元を斬るほどの威力を発揮したから、安全のために確認したい。これは玉藻も同意見なので、念話を繋いで一緒に説得してくれた。


「なるほど……あの話は本当だったのですか……」


 天皇陛下がポツリと呟いたので、わしは問う。


「あの話にゃ?」

「私と皇太子しか知らない話ですので御内密に……三種の神器は、世界を滅ぼせると聞き及んでおります」

「玉藻……聞いたことあるにゃ?」

「いや、初耳じゃ……それは、どこから出た話なのじゃ?」

「天皇の口伝のみですので、正確かどうかはわかり兼ねます。こちらでは誰かが付け足したか、そちらでは途絶えたか、はたまた玉藻様に黙っているのか……」

「妾が皇太子を兼ねることもあったから、黙っているはずはないと思うんじゃが……」


 どちらの意見が正しいのか判断が付かないし、ここで家系図を出して調べるのも時間が掛かるので、わしは手っ取り早い案を出す。


「まぁ、うちの世界の三種の神器は危険な物にゃんだから、口伝は正しい可能性は高いんじゃないかにゃ? んで、ここの世界の三種の神器を見たら危険性がわかるし、その口伝が正しいと判断がつくにゃ~」

「「確かに……」」


 玉藻と天皇陛下も納得したところで、わしたち3人だけ退室。天皇陛下はSPも断って、自分で車を運転して案内してくれる。

 そうしてとある建物に着くと奥へと進み、防空壕だと説明を受けた地下室に入った。


「にゃるほど。国宝にゃんだから、ミサイル対策もバッチリなんだにゃ」

「そうとも言いますけど、日本国民が三種の神器だと信じている物は、別の場所に厳重に保管してあります」

「にゃ? まるでレプリカであざむいているようにゃ言い方だにゃ」

「その通りです。もう少々距離がありますので、ついて来てください」

「「ああ……」」


 天皇陛下のぶっちゃけ発言にわしたちが驚いていたら、天皇陛下は壁の一部を押して回転させ、中へと入る。わしたちはあとを追い、暗いから光魔法で照らしてあげた。

 それから迷路みたいな細い道を歩き、時々回転する壁を通り、最後は井戸みたいな場所に作られた昇降機。鎖で吊るされたゴンドラに3人が乗ると、おそらく電気制御で下がり始めた。


 ギーギー、ガシャガシャとゴンドラが下りて行くと、360度土色だった景色が広い空間へと変わる。


「も、もしかして、アレって……」


 光魔法で照らされた空間には建物のような影があったので、わしの毛が逆立った。


「あちらは失われた、江戸城天守閣になります」


 突如、皇居の地下に、江戸城天守閣が現れたのであった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る