第56話 勇者と魔王がふたりきり その2

 ゴクリ、と唾を飲み込むとマオは言った。


「あっ、あの!」

「はっ、はい!」ユウも覚悟を決めてまっすぐにマオを見つめる。


「この間は……ごめんなさい。街で倒れたところを助けてもらったのに……お礼も言わずに逃げるように帰ってしまって……」

 

 緊張のあまり、マオの手に力が入る。しかしその瞳は真っ直ぐにユウを見据えていた。


「もしかしたら、そのせいで嫌われたのかなって思っちゃって……だから今日はこうしてちゃんとお礼を言わなゃと思って来たの。この間は、助けてくれてありがとう」


「そうだったんだ……私は」ユウは目を軽く閉じて、ニコッと微笑んだ。しかし心の中は大荒れだった。

(よかったぁ、嫌われてたわけじゃなかったぁ! ってことはキスしようとしたことはバレてないってことよね? あぁ、先に言わなくてよかった!)


、何?」

 マオがユウの言葉の最後を聞き逃さずに、尋ねてきた。

(しまったぁ! これは言い逃れできないゾォ、どうする私!)

 ユウの劣勢は続く。

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