第37話 勇者と魔王と温泉と その6

「ユウ様!」

「は……はい?」


 ハンナの様子がおかしい。そう気付いたときには遅かった。お互い向かい合った状態で温泉に入っていたはずだったのに、彼女はいつの間にかユウの真横にやってきていた。そして、腕と腕とがぎゅっと密着する。


「ちょっと、近いよ」

「ユウ様、身も心も少しは解放できましたか?」


 ハンナの手がするりと動き、ユウの肩に置かれた。


「ひゃっ……!」

「マッサージして差し上げますわ。私の回復(媚薬)魔法と合わせれば、効果倍増です」


 あれよあれよという間に、ユウはハンナの前に移動させられ、後ろから両肩を揉まれる格好になった。


「あっ……気持ちいい!」


 ハンナのマッサージはなかなかに上手で、ユウの肩をじんわりとほぐしていく。


「でしょう? 私、少しはユウ様のお役に立てておりますか?」

「うん、ありがと、ハンナ……でもね」


 ユウは少し顔を赤らめて、恥ずかしそうに振り向いて言った。


「体、密着させすぎ」


「あら、それは失礼いたしました!」

 ハンナはそう言って、ユウに後ろから抱きついた。

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