第26話 いざ勝負~衆議の場 肆
「高遠殿が?」
「はい」
金崎はキッと眉を山なりにつり上げ、一喝するように言った。
「なんということをしでかしたのです! 大奥から男色本を出すなど聞いたことがありませぬ。品位を守り、上様のご威光に傷を付けないようにする立場にありながら、なんという穢れたことに手を出されたのか!」
「そのご威光を守るためにございます」
「なんじゃと?」
高遠はグッと腹に力をため、迷いなく金崎に視線を向けて言った。
「金崎殿も、今年から大奥への費用が半分に減らされたことはご承知でしょう。それでつつがなく慣例行事を行えましょうか? 破れた障子一枚張り替えることにも難儀し、入り用の品とて安い
「だからといって、男色本など許されるはずがない」
「――では、他に金策の手立てがおありでしょうか」
「……っ!」
金崎が怯む。
高遠はたたみかけるよう続ける。
「売る店にも、決して大奥が係わっていることは表に出さぬ取り決めをかわし、わたくしが代表者として受け持ち、支払われる金銭もすべて大奥に収めることになっております。今、大奥に必要なのは継続的に入ってくる金。五月の出版から一年以上は収入が見込めまする」
「しかし……。男色本に頼ってなど……っ!」
「金崎殿。男色本だからこそなのです。贅沢が制限されている今、庶民の楽しみは規制を受けていない本へとそそがれています。それも、堅苦しいものではなく、好色本などの娯楽性が高いものなのです。時勢柄、確実に収益が見込めるからこそ、踏み切ったこと。大奥から華やかさが奪われることこそ、避けなければならないことだとは思いませぬか?」
反論できないが、とうてい受け容れられないと金崎はギリと奥歯を噛み、鋭く刺すような視線を向ける。
――素直に納得されるとは思わなかったが、相当の抵抗があるようだな。
三つ年下の、しかも、叶ほど意識していなかった高遠が主導権を握っていることも気に入らないのだろう。
金崎は塩沢に向かって声を上げた。
「なぜ、大奥総取締役ともあろう塩沢さまが、このようなことを許されたのです!」
しかし、塩沢は鷹揚な態度を微塵も崩さず、答えた。
「高遠の申すとおり、今が有事のときだからじゃ。
「……はい」
「お前には、それを避けるための策があるか?」
「そ……れは……」
代案がない金崎の視線は逸れ、怒りはふたたび高遠に戻ってきた。
「高遠殿。そこまで言うのであれば、相当な金銭を得ることができるのですな?」
「一作で大奥のすべてを賄うことなどできませぬ。あくまで『足し』にございます」
そう前置きして金の説明をした。
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