第27話:信頼と契約
「奥様、
本館から帰って来た医師がマリアンヌへと報告する。
ワゴンは既にクロエに渡されており、鞄は護衛が部屋へ置きに行っている。
「特に後遺症は無さそう?」
ケヴィンをクズと呼んだ事は気にしないようである。
「吐き気も無いようですし、同情を引く頭もあったので、大丈夫でしょう。骨折していないのは、先に確認してますし」
私に触られるのも嫌でしょうから、目覚めてからは近付いてませんけどね!と、両手を振りながら言う医師は、ケヴィンの事を本気で嫌っているようだ。
散々「女だから」という理由だけで
マリアンヌを女性医師にしか診察させないくせに、女性だからとその診断を信用しないなど、
しかも命に関わるほどの状態だったのだ。
医師としても、女性としても、ケヴィンに好意を
逆に
「さて、それでは書類にサインを貰いに行きましょうか」
マリアンヌが玄関へ向かおうとすると、外から喧騒が聞こえてきた。
すわ、ケヴィンか!?と思ったが、どうやら使用人のようである。
声からして女性だよなぁ、とマリアンヌが呑気に構えていると、段々と興奮してきたのか女性の声が大きくなり話の内容が聞こえてきた。
「子爵家に帰るか、それに準ずる給金になるっておかしいでしょ!侯爵家で働いてるのに!」
どうやらシモーヌ付きのメイドのようである。
「侯爵家のタウンハウスだけど、ケヴィンはまだコシェ伯爵よね。
マリアンヌが首を傾げる。
「それに、契約書も交わしてないのだから、所属は子爵家のままに決まっているじゃないねぇ?」
同意を求められたモニクも、その後ろに並んでいるクロエとデボラも頷いた。
騒ぎ立てるメイド三人を鉄扇の一振りで黙らせ、マリアンヌは本邸へ向かった。
本邸の応接室へ行くと、メイドが数人で掃除をしていた。
「すみません、奥様」
ケヴィンが居たから掃除が出来なかったのだろうと察し、マリアンヌは優しい笑顔を向ける。
それを見て、メイド達の仕事が更に早くなる。
「すみませんでした!」
深々と頭を下げてから退出していくメイド達を見て、マリアンヌが納得のいかない表情をするが、モニク達三人は笑いを堪えている。
「じ、実際に見ていなくても、奥様の勇姿は噂になっているでしょうし」
「エントランスに
「1枚は見事に半分に折れてますもんね」
クスクス笑う三人の後ろで、シモーヌ付きのメイド三人は真っ青である。
あの扉を蹴破った場に居たのだ、当然だろう。
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