第52話 魔王降臨
「セドナ、待て!」
俺は手でセドナの動きを止めた。ちょっとおっぱいに当たったが、そんなことに浮かれている場合ではない。
先ほどまで微動だにしていなかった黒焦げの魔王サタンから、湯気が出ていた。見た目ではそれだけの変化だが、存在感が大違いだ。なんの気迫も残っていなかった瀕死の魔王とは、まったくの別物になっている。
明らかな脅威として認識できるほど、それがそこにあること自体に恐怖を感じた。
セドナとアイオンも魔王の変化に気づき、剣と魔法杖を構えた。
「とんでもない勢いで、魔力が増幅しています!」
アイオンが叫んだ。魔王からあふれる蒸気は勢いを増し、我々に風圧となって威嚇してくる。
「なんだ? アポカリプスが光の柱で消滅させられたからか?」
「わかりません! 守さん、今の内にとどめを!」
「ああ! 【雷神の鉄斧】 あれ……? 出ないぞ」
「MPの回復が追い付いていないのかと! 我々の胸を揉んでください!」
アイオンとセドナが胸を突きだした。
「すまない、こんな時に! 僭越ながら揉みしだくッッ!」
「んっ」
「あっ」
その光景と心の在り方は、まるで絵画のようだった。一つの空間におこりうるはずのない違和感。乱雑な不安と欲情と恐怖が入り交じった心。
かの有名なモナリザの背景は、四か所の場所が描かれているという説がある。一つの世界に複数の世界が重なり合う戸惑いが、俺の股間を熱くさせた。
左手にHカップ。右手にJカップ。もう腕が二つ生える魔法を覚えたい。パイを2つも持て余している。
集中しろ、今性的な興奮を覚えなければ魔力は回復しない。
恐怖を置き去りに、俺は欲望のままに揉みまくった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「あん!」
「んんっ!」
「貴様ら、何をしている」
俺は思わず呼吸を止めてしまう。おっぱいに集中しすぎて、気付くことができなかった。
「なん……だと……」
そこには、黒髪長髪、20代後半の端正で色気のある顔立ち、190cm程の長身の男が黒を基調とした服装で立っていた。内包された魔力が圧縮され、怖いくらい静かな存在感だ。しかし、弱くなっているはずがない。誇示されなくなっただけで、その強さは以前とは比べ物にならないだろう。
「いや、それはこっちのセリフだ。貴様らのせいで、私の完全復活がアホみたいではないか」
セドナは防具に魔力を注ぎ身にまとい、剣を抜いた。
「あああ!!!」
一気に駆け上がり、魔王に切りかかる。魔王は一切動じず、いや、一瞥もセドナにくれずに、不敵な笑みをアイオンに向けている。おそらくは俺がアイオンを殺すことでタイムリープをさせないための牽制だろう。俺はその間も急いでアイオンの胸を揉み続けた。セドナはその時間稼ぎのための特攻だった。
「だぁ!!」
切り下ろされた斬撃は、たしかに魔王の首元をとらえた。キンッと甲高い音が聞こえる。
が。
折れたのはセドナの剣の方だった。
「そんな……」
剣を見つめ困惑するセドナに魔王は「フッ」と息を吹きかけた。少し遅れて爆風が襲い、回転しながら我々の元に吹き飛ばされてしまう。受け身をとり構えるが、その剣先はむなしく折れていた。
「この姿になるのは何百年ぶりだろうか。光栄に思うがいい」
「そりゃあどうも、珍しいものが見れてありがとうございます」
セドナは防具を解除した。胸を揉めということだ。俺は遠慮せずに鷲掴んだ。
「おい、貴様ら。私を侮辱しているのかね」
魔王は言葉とは裏腹に怒りの表情には一切変わっていない。虫を見る目だ。蝉の交尾でもみている気分なのだろう。
「いや、まったく。最善を尽くしているよ」
俺は揉みながら答えた。魔王は一瞬口元をヒクつかせたが、俺の魔力の上昇に気づくと口を開いた。
「で、あるか。では待とうではないか。雷神の威光、もう一度あびせてみたまえ」
最大の隙だ。MPも6割を超え回復した。もうすでに打てそうだが、俺は万全を期すために揉み続け、時間を稼いだ。
「大した自信だな」
「この姿になる前にアイオンを殺さなかった貴様らの敗北はすでに確定している。余興みたいなものだ。そうだ、冥途の土産になんでもこたえてやろう」
「そりゃありがたい。……どうやって回復したんだ? なぜ最初からその状態じゃないんだ」
「アポカリプスは私が力を分けて生んだ子だ。絶命と共に私に還った。この姿が本来の私だ」
アイオンとセドナがじんわりと冷や汗をかいている。肌に指がよりすいついてきてエッチだ。魔力回復が捗る。
「アポカリプスにとどめを刺した光る柱はなんだったんだ」
「はて。そんなことがあったとはな」
嘘をついている様子はない。ましてやなんでも答えてやるといった手前、この自信過剰な魔王が今更何かを伏せることもないだろう。なんだったんだ、あの攻撃は。
「まあいい。では、なぜタイムリープの秘密を知っている?」
「キューブだ。我々魔族にも伝承があり、秘宝がある。そこにある時突然数字が刻まれる。今は10回目、つまり11周目であろう」
「どおりでな。アポカリプスに召喚されたとき、正確に数字までアイオンと同じことを言っていた。おかしいと思ったぜ」
セドナの体が焦りからか前に出てアイオンの方を見た。俺は落ち着け、と伝えるために胸を強めにグッと揉んだ。指と指の隙間からおっぱいがこぼれ出る。セドナは小さく吐息を漏らすと、俺を見た。俺は大丈夫だ、と目線を送る。セドナは何かを考えたようだが、俺の手を掴んだ。拒否の力加減ではない。怖いのだろうか。そのまま俺は揉み続ける。
「お前らの目的はなんだ? なぜ捉えていたヴィーナスを殺した」
「目的は創造神との謁見だ」
「なんですって?」
アイオンが驚き声を上げた。ある意味目的が同じだったからだ。
「貴様らは知らされていないのだろうが、この世界は」
「人間の神と魔族の神の代理戦争の場、だろ?」
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