第18話─勇者たちの末路
幸せムードに包まれているキルトたちとは反対に、フェルシュはメルムともども絶望の沼に沈んでいた。頼みの綱であるキルトに、けんもほろろに拒絶され。
残された道は、国民たちの前で屈辱に満ちた死を迎えることだけだ。レマール王国の首都、ザクルリームにある広場にて、ついに処刑が始まる。
「ハァーイ、お集まりのみなさーん。これから、腐りきった王族たちの処刑をはじめまーす。最後まで楽しんでいってねー♪」
「うおおおおおお!! こーろーせ! こーろーせ!」
「俺たちからムダに税金を取り立てる無能な王族なんて死んじまえ!」
「そうだそうだ! 俺たちは奴隷じゃないんだぞ!」
広場に集まった民衆は、皆一様に血走った眼を光らせながらフェルシュに罵声を浴びせていた。精神的に追い込まれるフェルシュだが、彼は知らない。
彼らはみな、アスモデウスのかけた
「もう、ダメね……。これから、わたしたち酷い殺され方をするんだわ~……」
「ちくしょう、ちくしょう……。キルトめ、絶対に許さないぞ……怨霊になってあいつを呪ってやる! 死ぬまで苦しめてやるぞ!」
自害防止の魔法をかけられているため、二人は舌を噛み切ることも出来ない。ひたすら嘆くだけのメルムとは違い、フェルシュはこの期に及んで逆恨みしていた。
「あーら、まだそんなナマイキ言える元気があるのねぇ。じゃ、今からサクッと
「!? ま、待て! 本当にやるのか!? 冗談だろう!?」
「いいじゃない、苦しいのは少しだけなんだから。すぐに首も落として、冥獄魔界に送ってあげるわ。うふふふふふふ」
おぞましい笑みを浮かべながら、アスモデウスは無骨なハサミを取り出す。恐怖で涙と鼻水を垂れ流すフェルシュに近寄り、そして……。
「じゃあね、自称勇者くん。最後にイイ声出しながら死んでね」
「ひ……ぎゃああああああ!!!」
王都じゅうに響くほどの、フェルシュの絶叫が響き渡った。一方、王都の奥にそびえる城の中でも、残りの王族たちの処刑が行われていた。
……否、処刑というよりは『虐殺』と呼んだ方が相応しいだろう。アスモデウスに焚き付けられた王都民たちが、自ら王や王妃、その子たちを殺しているのだ。
「オラッ、前に出ろこの野郎! お前らが税金を三割増しにしたせいで、俺は薬を買えなかったんだぞ……そのせいで、娘が死んだんだぞ!」
「そうよ! 私のところだって、息子がお腹を空かせて死んでいったのよ! 返して、わたしの息子を返してよ!」
「ま、待ってくれ……! 頼む、許してくれ! 金なら宝物庫からいくらでも持って行っていい、だから命だけはがっ!」
玉座の間にて、棍棒や手斧を持った民たちが憎しみを吐き出しながら王たちをなぶっている。この世の地獄としかいいようのない、凄惨な状況だ。
一方、狂気と血の匂いに満ちた玉座の間の遙か下……地下に作られた秘密の抜け道を、二人の人物が歩いていた。片方は、唯一捕まらずに済んだ王女。
もう一人は……ボルジェイのしもべ、タナトスだ。
「はあ、はあ……! ま、待ってください! ヒールが高くて、そんなに速く歩けないんです……!」
「なら、折ってしまえばいい。これからはもう、華やかな生活など出来ぬのだ。これからは地を這い、死の恐怖に脅えながら生きることになるだろう。……私と共に来なければな」
「嫌、そんなのはいやです……! お願い、タナトス様! 言われたことはなんでもします、だから……私を見捨てないで……」
新たな刺客を選定するべく、たまたま城に潜り込んでいたタナトスは彼女……セラー王女に目を付けた。キルトへの憎しみを植え付け、刺客へと仕立て上げるため助け出したのだ。
「いいだろう。なら、早速私の……いや、ボルジェイ様のために働いてもらおうか。これを」
「? な、なんですこれは」
「それはサモンカードが納められたデッキだ。王女よ、お前たちの栄光を終わらせた元凶……その手でくびり殺してやりたくないか?」
「……出来るのですか? そんなことが」
温室育ちで、人を疑うことを知らないセラーはまんまとタナトスの口車に乗せられる。王女は、額から二つの角が生えた獣の横顔を模したエンブレムが彫られたり赤黒いデッキホルダーを受け取る。
「そのデッキには、すでに不浄の獣……バイコーンを封印してある。本契約し、サモンマスターフォールンになるがいい。そして、お前たちの敵……キルトを殺せ!」
「私たちの、敵? そのキルトという人が、全ての元凶なの?」
「そうだ。キルトは今、デルトア帝国にあるミューゼンという街に身を寄せている。見えるか? この少年だ」
デッキを授けた後、タナトスは小さな水晶玉を取り出す。そして、空中に理術研究院時代のキルトの映像を投射した。
セラーは、憎しみの炎を宿した瞳を向けてキルトの顔を脳裏に焼き付ける。決して忘れないようにするために。
「……ありがとう、タナトス。それで、本契約はどうやって行えば?」
「このプロテクター型のサモンギアに、
サモンギアを呼び出し、セラーに授けるタナトス。セラーはボロボロになったドレスの右腰にデッキホルダーを装着し、カードを引き抜く。
カードには、額から二本の角が生えた黒い馬のモンスター『バイコーン』がいななく姿が描かれている。ひとりでに装着されたサモンギアに、王女はカードを挿入した。
『サモン・エンゲージ』
「私は許さない……そのキルトという少年を! この力で、絶対に殺してやる!」
「ククク、そうだ。それでいい。お前ならば、ケルベスよりは善戦出来るかもしれないな。フフ、ハハハハハ!!!」
姿を変えていくセラーを見ながら、タナトスは大笑いするのだった。
◇──────────────────◇
「あ、が、うがぅ……」
「フェ、フェルシュ……」
その頃、広場ではフェルシュが息絶えようとしていた。磔にされた彼の足元には、血だまりが広がっている。
事前の言葉に反し、アスモデウスは彼の首をはねなかった。長く苦しませ、絶望と共に息絶えさせる。それが、彼女が与える罰なのだ。
「い、が、あ……。しに、たくな……い……」
「死んだわね。これで残るは……一人だけねぇ?」
「! い、いや……お願い、許して……。何でもするから、どうか……」
長い苦しみの果てに、フェルシュは絶望にまみれながら息絶えた。その様子を間近で見させられたメルムは、黄色い液体を垂れ流しながら懇願する。
「ん? 今なんでもするって言ったわよね。分かったわ、じゃあ……あんたも理術研究院行きけってーい! ふふ、これでもっと恩を売れるわね」
「!? い、いや! ゾルグみたいな目に合うなんてもっといやぁぁぁ!!」
アスモデウスから告げられた言葉に、メルムは泣き叫ぶ。王都に運ばれるまでの間、彼女は水晶玉を通して散々見せられたのだ。
理術研究院に売られたゾルグが、どれほどの地獄を味わっているのかを。そこに自分も加わるなど、想像すらしたくないのだ。
「ダメよ、なんでもするって言ったでしょ? それとも、王都の民に暴行されて死ぬ方がいい? 別に私はそっちでもいいけど」
「そ、それもいや……あがっ!?」
「ったく、さっきからイヤイヤばっかり言ってんじゃないわよ! サタンじゃないけどイライラするわね!」
あれもこれも拒むメルムに、ついにアスモデウスがキレた。みぞおちに容赦なく拳を叩き込み、強制的に黙らせる。
メルムは吐しゃ物をまき散らしながら、苦しみに呻くことしか出来ない。そんな彼女を解放し、アスモデウスは叫ぶ。
「みんな~! もうあったまきたから、この娘好きにしていいわよ~! 煮るなり焼くなり、やりたいようにしていいわ~!」
「ひっ! ま、待って! お願い、許し」
「なーんにも聞こえませーん。バァーイ、自業自得の末路を楽しんでね」
アスモデウスの呼びかけに、王都の民は一斉にメルムを睨む。女王はメルムの懇願を無視し、さっさと帰還していった。
「おい、好きにしていいとよ」
「ならなぶり殺しだ、あいつには散々迷惑かけられたんだ。火あぶりにしちまえ!」
「いや、それより川に沈めろ!」
「い、いや……あああああああ!!!」
血走った眼をした民たちに囲まれ、メルムは絶叫する。だが……彼女を助ける者は、どこにもいない。
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